リメイクが発表された『スーパーマリオRPG』(画像は任天堂公式サイトより)

2023年6月21日に配信したソフトの新作情報を公開する「Nintendo Direct」にて、Nintendo Switchで『スーパーマリオRPG』が発売されると明らかになった。この発表はおおいに盛り上がり、Twitterではタイトル名がトレンド入りするほどの事態となった。

『スーパーマリオRPG』は、もともと1996年にスーパーファミコンで発売されたゲームだ。それがNintendo Switch向けにフルリメイクされ、2023年11月17日に発売される。

なぜ『スーパーマリオRPG』の話題で大きく盛り上がるのか。それはこのゲームが「マリオとRPG(ロールプレイングゲーム)の歴史」において非常に重要な存在となるからである。

マリオの任天堂とRPGのスクウェアがタッグ

原作は、任天堂とスクウェア(現スクウェア・エニックス)が共同開発した同名作品となる。1996年当時はRPGが非常に勢いを持っており、「ファイナルファンタジー」シリーズや「ドラゴンクエスト」シリーズが大人気であった。筆者としては、「RPGを遊ばない人はゲーム好きにあらず」くらいの雰囲気があったと感じていたほどである。

当時の任天堂はアクションゲームやアドベンチャーゲームなどをよく発売していたものの、RPGはそこまで乗り気ではなかった。ゆえに、RPGを作るゲーム会社として有名なスクウェアと手を組み、『スーパーマリオRPG』を制作したのだろう。

『スーパーマリオRPG』のコンセプトは「RPG初心者でも楽しめるゲーム」である。TVCMで「ロールプレイングゲーム やったことない人も マリオと旅に出よう」という歌が流れていたように、全般的に遊びやすさに重点がおかれていた。

例えば、HPやダメージといった数字は値が小さく、わかりやすい。レベルの上限も30と低めで、すでにゲームに登場する数値がインフレしかけていたRPGとしては珍しかった。一方で、バトル中にタイミングよくボタンを押すといい効果が発生する「アクションコマンド」というマリオらしい要素が取り込まれたりもしている。


コンセプトは「RPG初心者でも楽しめるゲーム」(画像は任天堂公式サイトより)

マリオが主人公なのは当たり前だが、本作ではクッパやピーチ姫も仲間になって一緒に冒険を繰り広げる。オリジナルキャラクターのマロやジーノも仲間になるのだが、彼らは今でも人気があり、「『大乱闘スマッシュブラザーズ』に出演してほしいキャラ」としてよく名前が挙がっていた。

シンプルなRPGとマリオらしさが融合

道中にはたくさんのミニゲームがあり、川に流れながらコインを集めたり、レトロなドット絵のマリオになってしまったり、タルを踏みながら砂漠を駆け抜けたりと、シンプルなRPGとマリオらしさが見事に融合した作品に仕上がっていたのである。


RPGとマリオらしさが融合している(画像は任天堂公式サイトより)

『スーパーマリオRPG』の注目すべきポイントは「その後」にもある。本作から「マリオのRPG」はシリーズ化され、「ペーパーマリオ」や「マリオ&ルイージRPG」といったシリーズ作品に続いていく。

また、本作に参加していたスクウェアのスタッフが独立し、ラブデリックというゲーム会社を立ち上げたのも印象的だ。ラブデリックは、「従来のRPGは本当に正しいものなのか?」という疑問を投げかけた『moon』を開発した。これは今でもカルト的人気を誇る一作である。

ラブデリックの作品には、ブラックジョークなど際どいところを攻めたセリフなどが多い。

実は『スーパーマリオRPG』にもそれを彷彿とさせる要素がところどころあり、『新世紀エヴァンゲリオン』のパロディや、とてもここには書けない(かつリメイクでも消されるであろう)テキストも存在していた。

さらに、任天堂とスクウェアの関係も『スーパーマリオRPG』以降で大きく変わる。それまで「ファイナルファンタジー」シリーズはスーパーファミコンで発売されていたものの、『ファイナルファンタジーVII』以降、プレイステーションだけで出すようになっていった。それだけならともかく、スクウェアは任天堂から取引拒否をされるようになった。

取引拒否に至った経緯についてはさまざまな理由が考えられているものの、いずれにせよこれ以降、しばらくは任天堂のゲーム機でスクウェアのゲームが出なくなったのは事実である。取引再開を果たしたのは2002年ごろで、それまで両者の関係は凍りついていたのだ。

マリオとRPGの歴史において重要な作品

『スーパーマリオRPG』はその直前、任天堂とスクウェアがタッグを組んで作ったゲームだったわけだ。当時のプレイヤーからすれば、両者が決裂する前の奇跡的なタイトルといえるうえ、任天堂のキャラクターと遊びやすさ、スクウェアのRPGを作る技術が見事に合致した一作なのである。


多くの人の記憶に残る『スーパーマリオRPG』(画像は任天堂公式サイトより)

単純にゲーム内容が多くの人の記憶に残っていて、さらにマリオとRPGの歴史において重要な作品が蘇るのだから、ファンが喜ばないわけがないだろう。『スーパーマリオRPG』がNintendo Switchで蘇ることの背景には、こういった複雑な事情も隠れているのである。

(渡邉 卓也 : ゲームライター)