働きがいのカギを握る要素は5つある(写真:Takeuchi masato/PIXTA)

あなたの職場は働きやすいといえるでしょうか? 本稿は、従業員意識調査を行うGreat Place To Work®Institute Japan代表の荒川陽子氏の著書『働きたくなる職場のつくり方』より、職場の「働きがい度」がわかるチェック表をピックアップ。働きたくなる会社の要素のひとつであるイノベーションについて解説します。

あなたの職場の「働きがい度」をチェック

職場とはさまざまな職位や経歴、特性、さらに考え方や価値観が違う多様な人たちでできています。そんな職場でどうすれば従業員全員が働きがいを持てて、協力し合い、仕事に取り組めるのでしょうか。

そのカギを握る大事な要素は5つ、「信用」「尊重」「公正」「誇り」「連帯感」 です。これらの要素があってはじめて職場内の信頼関係が構築できます。職場で信頼関係が築けているか、簡易的に調べるために、次の設問に答えてみてください。


『働きたくなる職場のつくり方』P97より

回答したそれぞれの項目(信用・尊重・公正・誇り・連帯感)の平均値を出してみましょう。

この5つの要素が高い水準であるほど、「職場内の信頼関係が強い」といえます。平均値が高い要素、低い要素に着目して、特に高い要素は強みとして伸ばし、低い要素は成長の機会として改善していくことが重要です。

信頼の各要素「信用・尊重・公正・誇り・連帯感」が高いレベルにある状態でこそ、人は潜在能力を最大化できます。前述の設問文からもわかるように、信頼とは、働く環境や上司との信用関係、仲間との連帯感、仕事への誇りなどにかかわります。それらが高い水準、つまり、働きがいのある状態でパフォーマンスが発揮されるのです。

能力の発揮について次の質問をいただくことがあります。

「手っ取り早く、研修で能力を高められないのか?」

残念ながら「難しいです」とお答えしています。研修には従業員のスタンスやスキルを改善させる効用はありますが、その人が職場に戻って能力を突然発揮できるわけではありません。

一人ひとりの能力が発揮される場とは、あくまで「仕事の現場」であり、その発揮度合いは周囲との関係性において異なるからです。

たとえば「どの部署も万年人手不足で、休みもろくに取れず、離職率が高い。職場の人は各自の仕事で手いっぱい。だけれども成果を求められている……」。そんな職場にいる人が、いくらよい研修を受けたとしても能力を最大限に発揮することは望めないでしょう。

よくあるのが上司と部下(もしくは経営・管理者と従業員)の関係がいびつであるという例です。福利厚生など待遇の面では申し分ないとしても、上司と部下の関係がギクシャクしている場合、部下は精神的に疲弊していき、能力の発揮どころではありません。

あるいは、上司とは関係が良好だけれども、働きやすさが低い場合も持っている力を出し切れるとは考えにくいでしょう。上司に倣って昼夜問わず仕事をするとどんどん疲弊する、睡眠が足りない。そんな中では、能力が最大化されるはずもありません。

つまり、潜在能力の最大化とは、その人の働きやすさとやりがいの条件が整ったうえでようやく実現されるものなのです。では、より具体的にはどんな条件が整っていればよいのでしょうか。次の全員型「働きがいのある会社」モデルを見ていきましょう。

ここで職場モデルを紹介して整理したいと思います。働きがいのある会社のベースを「信頼」として据え、あらゆる人の能力が引き出されることを重視しているのが、全員型「働きがいのある会社」モデルです。

信頼はリーダーへの「信用」、従業員への「尊重」や「公正」な扱い、そして仕事への「誇り」と仲間との「連帯感」から成り立ちます。

経営・管理者と従業員の間に高いレベルの信頼があり、一人ひとりの能力が最大限に活かされている。そのような会社は優れたリーダーシップや価値観(バリュー)があり、イノベーションを通じて財務的な成長を果たすことができます。


『働きたくなる職場のつくり方』 P101より

イノベーションは多様な人が集う職場から生まれる

特にイノベーションの観点においては、共通の価値観を持つ、多様な人が集まる職場にするのが理想です。とはいえ、実際に多様な人が集まる職場の働きがいを高めるのは簡単ではありません。たとえば20〜60代と年齢が幅広く、属性も職位もバックボーンもバラバラである従業員が在籍する職場では、全員が働きやすく、かつ、やりがいがある職場にするのは、容易ではないでしょう。

なぜなら、多様な人材がいるということは、体力も、家族構成も、興味の対象も、人生観も、労働観も……、皆バラバラ。そんな中で、たとえばフルリモートを開始して働きやすさを追求したとします。すると、業務に習熟しているベテランや子どもがいる従業員は働きやすさに繋がるかもしれませんが、若手や中途入社者は仕事で困った時にすぐに質問ができず、悶々としてしまうでしょうし、PCに不慣れな人は作業が行き詰まり兼ねません。

一方で、属性が比較的単一な従業員が在籍する職場を考えてみましょう。極端な例を挙げると30代男性ばかりである職場の場合、経営・管理者は30代男性が働きやすく、やりがいのある職場環境をつくればいいわけです。

それでもあえて多様な人が集まる職場をつくることに、それだけのメリットはあるのでしょうか。イノベーションの元となるのは「違和感」です。立場や視点が多様な場合、物事を進めていく中でも、職場で働いていく中でも、違和感を抱く人が必ずと言っていいほど現れます。

その違和感が発展の芽になるのです。多様な立場や視点であるからこそ、職場や顧客への接点で生じる「不」にもバリエーションが生まれます。「不」とは、「ネガティブな違和感」のことです。ここでは「不安」「不満」「不足」「不利益」などの総称を言います。


身近な例では「オフィスの使い勝手が悪い」と思ったら、使い勝手をよくする案が多様な人材がいる職場ではバリエーション多く出てくると予想できます。解決したらその分、職場環境はひとつよくなることになります。

オフィスの使い勝手を例にしましたが、これがたとえば「ECサイトの不便さ」や「商品の味」や「広告の打ち出し方」などでも当てはまるのではないでしょうか。「不」が多く見つかり、どんどん改善されるとイノベーションに繋がるのです。

もちろん、イノベーションを起こすにはただ単に多様性があるだけではなく、全員型「働きがいのある会社」モデルの各要素が発揮されていることが重要です。また、多様な職場だからこそ従業員に求められる姿勢があります。「自律」と「共創」がそれです。

自律とは、自分で考え、判断し行動できること。共創とは、人と人との繋がりの中で新しいものを生み出していくことです。この自律と共創が掛け算され、さらにチャレンジングな状態であることこそ、「イノベーティブな職場」 といえるのです。

(荒川 陽子 : Great Place To Work ® Institute Japan社長)