夫と意見が合わず、子どもとはバトルの連続……。家庭内でのトラブルが絶えないというお悩みにお答えします(写真:buritora/PIXTA)

【質問】

中2と小6の子どもがいます。うちは家庭内でのトラブルが絶えません。夫と意見が合わず喧嘩になるときもあります。私と子どもたちもバトルの連続の日々です。基本的に相性が合わないのかと思うときもあります。例えば、夫はのんびりと自分のことだけしかしないタイプで私はテキパキと家事、子育て、仕事とこなすタイプです。夫のリズムに合わせていくとストレスとなります。子どもは上の子とは気が合いますが、下の子は好き嫌いが激しく、私が言うことをほとんど拒絶します。このような状況なので日々つらいです。どのように対応していったらよいでしょうか?

(仮名:斉藤さん)

そもそも人間は皆、多様な存在であり、価値観が近いというケースがあっても全く同じということはありえません。多様な価値観の中で、どうやってパズルのように組み合わせて円滑な人間関係を作っていくのかが焦点になります。

他人の場合、気が合わなければ距離をおけばよいかもしれませんが、夫婦間、親子間といった身内の場合はそうはいきません。ですから、価値観の相互理解が大切になります。

……と、通常はこのような回答になると思います。しかし、単に「価値観の相互理解」と言われてもなかなか現実的には実行できないのではないでしょうか。

人を「大きく2種類のタイプ」に分けて考えてみる

これまで筆者は4000人以上の小中高生を直接学習指導し、1万人以上の母親からの直接子育て、教育相談を受けてきました。その経験から、人には「2種類のタイプ」があると感じています。詳細を見ていけば十人十色ですが、大きく分けていくと、たった2つの種類に分けることができるということです。このシンプルな見方ができると、価値観の理解が可能となるかもしれません。

(1)2つのタイプ

人間には大きく分けて2つのタイプがあると考えています。1つを「マルチタスク型」、もう1つを「シングルタスク型」と呼んでいます。

【マルチタスク型】

一言で表現すると、「浅く広く認識するタイプ」です。マルチタスクですから、さまざまなことに自然とアンテナが張られます。また、同時処理、同時進行ができますが、拡散している分、1つのことに深く集中することは容易ではありません。

また、マルチタスク型の人は、「秩序」を好みます。したがって、方法、仕組み、スケジュール管理に関心を寄せます。このような傾向が強いため、無駄なことが嫌いです。無駄なことがあると、「面倒くさい」と発言したり、思ったりすることがあります。

そして、マルチタスク型の人の価値観は「損得」を重視する傾向にあります。つまり、得するのであれば嫌でもやるけども、損することならやりたくないという特徴です。

【シングルタスク型】

一言で表現すれば「狭く深く集中するタイプ」です。1点集中型と言ってもいいかもしれません。一つのことに集中すると周囲が見えなくなるので、空気が読めないと言われることもあります。

シングルタスク型の価値観は「好き嫌い」の傾向があります。好きなことは損得関係なくやるけれども、嫌いなことはやらないか、後回しにします。シングルタスク型の人も「面倒くさい」という言葉を使うことがありますが、その場合の意味は、「やりたくない」という言葉の代替表現として使われます。

人は「損得の価値観」「好き嫌いの価値観」を共に持つ

マルチタスク型、シングルタスク型にかかわらず、人は「損得の価値観」と「好き嫌いの価値観」を共に持っています。ですから、どちらの価値観が優位に出てくる傾向にあるかで判断してみてください。

例えば、ランチに行ったときにメニューが出てきたとします。そのとき、「値段から見ましたか?」それとも「食べたいものから見ましたか?」というプライオリティの違いと捉えてみてください。

ちなみに、これまで指導してきた子どもたちをマルチタスク型、シングルタスク型という視点で分けてみると、興味深いことがわかってきます。マルチタスク型の子は、得だと思わないとなかなか動きません。一方のシングルタスク型の子は、好きな領域から入っていかないと行動しにくい傾向にありました。

例えて言えば、ある部屋に入るのにドアが2つあり、1つのドアは「得のドア」でもう1つは「好きのドア」です。入ってしまえば同じ部屋なのですがマルチタスク型の人とシングルタスク型の人では、入り口が異なるということです。

さて、ここまでの話は、大きく分けた2つのタイプというだけで、いずれかが優れているとか、有利であるということは一切なく、単なる特徴のお話です。また、筆者が経験してきた範囲で言えば、学力についてはいずれの型にも、それぞれ学力が高い子もいますし、低い子もいました。ですから学力は無関係だと考えています。それぞれに適した学習方法があり、異なった方法で行うと学力が上がらないというだけの話であり、タイプによる優劣はありません。

しかし、問題が起こるのはここからです。つまり、この2つのタイプの組み合わせになったときです。

(2)組み合わせによる2つの価値観の衝突

筆者は過去7年にわたり母親向けのカフェスタイル勉強会を行い、1万人以上の相談を受けてきましたが、相談される多くの母親はマルチタスク型で、子どもがシングルタスク型でトラブルになっているケースが少なくありませんでした。

親がマルチタスク型の場合、子どもの様子が、一挙手一投足全て見えてしまいます。アンテナの張り方が広範囲にわたり、特に子どもの欠点、短所、行動しない点、親の思い通りにならない点などが気になります。すると、次のようなことを子どもに言います。

「早くやってしまいなさい!今やったら後で楽(得)でしょ!」

すると子どもは「やりたくない!(嫌いだからやらない)」と返してきます。

つまり、これは2つの価値観の衝突です。損得基準の親と好き嫌い基準の子どもが衝突すると、やがて親は無理やりやらせて、親子の関係が壊れていくということが起こります。

一方、親がシングルタスク型、子どもがマルチタスク型の場合、「うちの子、勉強しなさいと言わなくてもやるんです」と言われるケースが多いです。

なぜなら、シングルタスク型の場合、あまり子どもの細かいことまで見ることはなく、大きな問題がなければスルーするケースが少なくないからです。すると子どもは伸び伸びとし、さらにマルチタスク型の特徴を活かし自分で仕組みを作って回していきます。

おそらく、斉藤さんのケースは母親がマルチタスク、お子さんがシングルタスク型かと思われます。

また、夫婦間ではマルチタスク型とシングルタスク型が引き合って夫婦になっていることが少なくないと聞いています。ちょうど磁石のNとSのように互いに異なるタイプが、自分にないものを求めて引き合っているようです。しかし、お互いの違いが魅力的だったものが、やがて夫婦になると、違いが問題となりトラブルになることもあるようで夫婦関係は複雑です。

(3)対応法

では、どのように対応すればいいでしょうか。まずは、以上のような「2つの大きな価値観の違い」があると認識することから始めていきます。すると、理解ができると思います。

うまくいかないときは“ドア”の種類が異なっている

「なぜ〇〇のときに△△な行動を取るのか?」と自分の理解を超える言動がある場合、以上の2つのタイプがいることを知っていると「なるほどね。価値観が全然違うわけね」と理解できます。


そのうえで、相手の価値観を尊重し、「得のドア」か「好きのドア」か、どちらのドアから入るか試してみてください。うまくいかないときは大抵、“ドア”の種類が異なっています。

なお、親子関係、夫婦関係など、特に人間関係に大きなトラブルがない場合は、マルチタスク型、シングルタスク型と分けて人を認識する必要はありません。無理にタイプを当てはめると、その人をそのタイプのように見てしまうという弊害もあるからです。ですから、今、関係が思わしくないと思われる場合に、この2つのタイプとそれぞれの価値観を思い出してみてください。すると、「なるほど!だからか!」となります。

これが「理解すること」だと思っています。相互理解のためには、まずは一方からの理解がなければ、先方からの理解を得ることは難しいことでしょう。

以上、参考になれば幸いです。


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(石田 勝紀 : 教育デザインラボ代表理事、教育評論家)