JR小海線の小淵沢-小海間は沿線人口が微増した中でも乗客が減少した(写真:浦部高明/PIXTA)

昭和の頃からいまだ抜本的解決策が見いだせない赤字ローカル線問題。近年は「人口減少」を理由として、半ば諦めムードの世論形成の末に、廃線への道を突き進むケースがほとんどである。筆者もこれなら廃線も仕方がない、そう信じていた。

ところが、その赤字ローカル線、本当に人口減少が原因なのかと首をかしげるようなデータを入手した。それによれば「人口減少率が低い・または人口が微増しているにもかかわらず、鉄道利用者が最大半減になっている線区がある」あるいは「鉄道利用減少率が人口減少率の2倍・3倍の線区がある」という事実がある。

人口減より急速に進む利用者減

これが本当ならば、人口減少のみがローカル線衰退の原因ではなく、鉄道事業者の無策・愚策がローカル線衰退の一助になっていたり、むしろローカル線を衰退させて沿線人口減少にもつながっていたりすることもありえるのではないだろうか。

これから挙げる4線区の例は、2000年、2010年、2020年と10年おきの乗車人員、駅から2km圏の沿線人口、そして通学利用者が多いと考えられる10代後半の人口のデータだ。2020年のデータはコロナの影響を排するため、2019年の数値を用いている。人口は国勢調査から引用している。

まず注目したいのはJR小海線の中込―小諸間だ。小海線は2000年から2010年にかけて沿線人口は横ばい、10代後半の人口は8%も増え、2010年から2020年までは人口も2%増えている。

それにもかかわらず、小海線の乗車人員は2000年と比べて2010年は30%減、2020年に至っては人口増で若干持ち直しているものの、2000年比で26%の減少であり、この差分を取りこぼしたままとなっている。

沿線人口を維持、あるいは増えているにもかかわらず利用者数が3割減とは、鉄道が移動の選択肢から外れる要因に手を打つことができなかった鉄道事業者の落ち度ではないだろうか。

通常、人口1人あたりの鉄道利用回数が変わらなければ、人口減少率を超えた鉄道利用者の減少率にはならないはずであり、人口減少だけを利用減少の理由にするには無理がある。


小海線と米坂線の沿線人口・乗客数の変化を表したグラフ。横軸の数字は年、縦軸の数字は2000年を1とした場合の増減割合を示す(環境経済研究所データを基に筆者作成)

米坂線の小国―坂町間については、10代後半の人口はあまり減っていないのに大幅な減少だ。こちらは2000年比で10代後半の人口は2010年で4%増、2020年はほぼ同レベルを維持している。沿線人口は全体で2020年までに18%減っているとはいえ、乗車人員は36%も減っている。ローカル線の大口顧客である通学生はほぼ減っておらず、沿線人口の減少率の2倍も客が減るのは、人口減少のせいにする前に商売のやり方のまずさに気付くべきところもあるのではないか。

首都圏にも実例が

さらに、首都圏にもこのような路線がある。内房線の君津―館山間だ。こちらもこの20年で乗車人員が半減し、列車も新車への置き換えの際に4両から2両に減らされた。ところが沿線人口は1割しか減っていないのである。10代後半に限ってみても3割減だが、高校生人口は全体の5〜6%程度であり、その3割が減ったからといってそう大きな差にはならないはずである。

陸羽東線の最上―新庄間も内房線と同じ傾向だ。こちらは人口2割減だが乗車人員6割減だ。高校生は半減だがこちらも全体の5%に過ぎない。となると、これは事業者側の商売音痴がローカル線の衰退を招いたというべきではないだろうか。


内房線と陸羽東線の沿線人口と利用者数のグラフ。横軸の数字は年、縦軸の数字は2000年を1とした場合の増減割合を示す(環境経済研究所データを基に筆者作成)

他業界のビジネスパーソンなら、市場の人口が増えている、あるいは微減しかしていない状態にもかかわらず客数や売り上げが半減したら、担当者は幹部から何をやってるんだ!と叱責の対象となり、責任を追及されるはずだ。

大阪産業大学の那須野育大准教授の研究「JR地方交通線の輸送需要に関する考察」(公益事業研究第74巻第1号・2022年発表)では、列車本数や運賃施策が輸送密度に有意な影響を及ぼすとしている。つまり値上げや減便をすれば客が減るし、逆に値下げや増便によって客が増える方向に有意な影響があるということだ。

内房線の南半分についていえば、列車接続はかなり良いほうではある。ただ本数が少なかったり、東京直通列車がほとんどなかったりするため、東京湾アクアライン開通による高速バスの設定にトドメを刺されたのかもしれない。だが、それならば何か高速バスに対抗するような施策を講じただろうか。東京直通の特別快速を1日1往復、1年間走らせたくらいではないだろうか。これでは「やってはみましたよ・けどダメでした」という既成事実を作るための取り組みにすぎない。

「使いたい時間に列車がない」

価格面でも高速バスに対抗しただろうか? 特急料金を取ることに執着して価格競争に敗れた結果、特急がなくなるくらいなら、乗車券と指定席券のみで乗れる快速列車でも走らせていれば運賃を取りっぱぐれることはなかったのではないか。例えばJR九州は高速バスへの対抗で実質往復運賃のみの料金水準で新幹線や特急で往復できる企画きっぷを多数出している。このようにできることはたくさんあったはずである。ところがJRが行ったのは、逆に房総料金回数券を廃止し、特急料金の実質値上げしたことであった。

他の線区はどんな状況だろうか。最近は久留里線の廃線議論でも利用減少を原因に挙げているが、住民からは「そもそも使いたいタイミングに列車がないのにどうやって乗れというのか」という声が上がったそうだ。


JR久留里線の列車。同線は久留里―上総亀山間の存続問題が起きている(写真:ISO8000/PIXTA)

宇都宮線では高校生の下校のタイミングに走っていた列車が削減され、学校側が残された列車に合わせた時間割への変更を余儀なくされたことが話題となったこともある。先の那須野教授の研究では高齢化率や1人あたり自動車保有台数による悪影響もあるとしているが、ならば高齢者の利用促進や車より高いアドバンテージの実現といった努力をすべきである。

例示した線区の現状のダイヤはどうなっているのか。通勤・通学に適したタイミングで運行されているのか。例えば内房線の安房鴨川―館山間では、安房鴨川方面は館山8時01分発の後は9時36分発までないし、反対方向も安房鴨川8時04発の後は9時40分発までないなど、まだ通勤を含む需要がありそうな時間帯に1時間半も列車が来ない。朝ラッシュ時でも1時間も間隔が開くのだから、これでは使えるとは言いがたい。

さらに終電も21時台の駅が目白押しで、これでは飲んで帰るのにも使えない。一部列車を除き、4両編成を2両編成にしたうえで車掌をなくし、ほぼ半分の経費で運転できるようにしたのだから、多少の増発をしてくれてもいいのではないか。

小海線はもっとひどい。小淵沢7時03分着の後は9時08分着まで列車がなく、その後も10時37分着までない。日中や夕方はもっと壊滅的なダイヤだ。沿線人口が増えている線区なのにこの扱いである。一体どうやって生活に使えというのだろうか!?

ローカル線対策、今のままでいいのか

今回のデータの提供元の環境経済研究所、上岡直見氏は「JR東日本の深沢祐二社長は、収益重視で減便が利用者減少の原因とする批判は的外れであり、沿線人口が減る中で利便性をいくら改善しても需要喚起には限界があると述べている(『日本経済新聞』記事「ローカル線は維持できるか」2022年9月5日付)。しかし第三セクターのえちぜん鉄道では、さまざまな工夫によってコロナ下でさえ増客を実現(2022年度前年度比)している。JRのローカル線対策はあまりにもお粗末ではないだろうか」と指摘する。

「人が乗らないから助けてください・もう持ちません」と訴えるローカル線は日本中にあるが、すべてではないにせよ、そう言っている割には団地や商業施設の前に駅も置かずに素通りしているなど、泣き言を言う前にやることあるだろうと思うようなところはあるのではないかと感じる。

一方で、本当に沿線人口が少なすぎてどうしようもない線区もある。そのような線区を、都市部の黒字、つまり都市部の負担で多額の赤字を垂れ流しながらも残せというのは、コロナ禍の営業自粛のような、わずかな犠牲を回避するために多額の経済損失を繰り返す行為であり、何でもかんでも残せばいいというのも違うのではないか。きちんと残すべき路線と残すべきでない路線の適切な線引きをしたうえで存廃論議が進められることを期待したい。


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(北村 幸太郎 : 鉄道ジャーナリスト)