東証も注目!「エクイティスプレッド」ランキング

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上場企業は株主から調達した資金を使ってどれだけの収益を生み出しているかを問われている(イメージ写真:hqrloveq/PIXTA)

プライムやスタンダード市場に上場するPBR(株価純資産倍率)1倍割れが常態化している企業に対して、東京証券取引所が改善に向けた取り組みを開示するよう要請した。「笛吹けど踊らず、万年割安株はそう簡単に変わらない」との懸念がある中で、財務が安定している大企業を中心に、PBR改善を目指して大規模な自己株買いや増配など株主還元強化の発表が続出。このような流れを受け、株価もポジティブに反応している。


市場評価が低いPBR1倍割れ企業の改善施策に取り組む一方で、東証は財務実績や市場評価で価値創造をしていると考えられる銘柄を対象とした「JPXプライム150指数」を7月3日から算出開始する予定だ。その基準の一つが「エクイティスプレッド」だ。

エクイティスプレッドは「ROE(自己資本利益率)−株主資本コスト」で算出され、この数値が高ければ株主から調達した資金を使って、その調達コスト(投資家の期待リターン)を大きく超える収益を生み出しているということを意味している。つまり「株主から調達した資金はタダではなく、コストがかかっている」という点を企業が考慮しているかどうかがポイントになる。

持続的な成長を果たすための取り組みが期待される

東証は「資本コストや株価を意識した経営の実現」を上場企業に求めており、このためには自己株買いや増配のみの一過性の対応だけでなく、継続して資本コストを上回る資本収益性(=高いエクイティスプレッド)を達成し、持続的な成長を果たすための取り組みが期待されるとしている。

6月16日発売の『会社四季報プロ500』2023年夏号では、『会社四季報』の最新の業績予想をベースにした全上場企業のランキングを掲載。今期に大幅な営業増益となる企業、会社四季報の業績予想が会社計画より強気の企業といった定番のランキングとともに、今号で初めて掲載したのがこのエクイティスプレッドのランキングだ。本記事では、このランキングを一部簡略化して紹介したい。(※外部配信先では図表などの画像を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)

なお、東証のJPXプライム150指数はプライム市場に上場している銘柄が対象で、エクイティスプレッド以外にも時価総額上位500銘柄、ROE8%以上などの選定条件があるが、今回のランキング「エクイティスプレッドが高い企業トップ50」では全上場銘柄を対象としている。

ランキングでトップとなったのは、ファッションを中心とするECサイト「ZOZOTOWN」を運営するZOZO。1500以上のショップが出店し8400以上のブランドを取り扱う日本でも有数のECサイトで、システムや物流などの機能を自社で構築していることも強みとなっている。

出店するショップの運営管理を受託し商品取扱高から受託手数料を得る在庫リスクのないビジネスモデルで、予想ROEは54.9%と非常に高い収益性を誇る。一方で株主資本コストは5.2%程度と推計され、エクイティスプレッドは50に迫る数値となっている。なお、ZOZOは今回、エクイティスプレッドの選考基準によりJPXプライム150指数に採用されている。

2位のジェイリースは、住居用、事業用の家賃債務保証を主力事業として展開する時価総額200億円ほどの小型の成長企業だ。創業の地である九州を地盤に、大阪や東京など大都市圏や地方圏などにも事業を展開している。

住宅用家賃保証が大都市圏でシェアが拡大しているほか、オフィス、店舗など事業用賃料保証も契約件数が増勢。今2024年3月期も連続で最高純益を更新する見通しとなっている。株主資本コストは10%前後とやや高くなっているものの、予想ROEは50%でエクイティスプレッドは高水準となっている。

商業施設やビルなどの駐車場を一括で借り受け、転貸する駐車場事業を展開する日本駐車場開発が3位に入った。白馬八方尾根、川場などのスキー場運営や、那須ハイランドパークなどテーマパーク運営も手がける。予想ROEは38.8%で、こちらも高い資本収益性となっている。さらに、6月9日に発行済み株式の1.25%を上限とする自己株買いの実施を発表。さらなる資本効率の向上を目指している。

ランキング上位は中長期での企業価値向上に期待

一方、ZOZOと同様にJPXプライム150指数に採用されたのが4位のベイカレント・コンサルティング。金融やIT、製薬、エネルギーなど幅広い業界の大企業向けを中心に、事業戦略立案やDX(デジタルトランスフォーメーション)などのコンサルサービスを提供している。顧客がDXを推進する流れを受け、大幅な増収増益が続いている好業績企業だ。40%を超える高いROEを背景に、エクイティスプレッドは34.7となっている。

JPXプライム150指数には、10位の飲食店検索サイト『食べログ』と価格比較サイト『価格.com』を運営するカカクコム、11位の先端半導体向けマスク欠陥検査装置のレーザーテック、23位の間接資材ECのMonotaRO、26位の「ザ・ノース・フェイス」などスポーツ・アウトドアブランドを展開するゴールドウインも、エクイティスプレッドの基準を満たしたことで選出されている。

上場企業は、株主や金融機関から調達した資金を活用して事業活動を行い、その調達コストを超える収益を生み出すことが求められる。高いエクイティスプレッドを継続することができれば、中長期的に企業価値は向上していくことになる。ランキング上位に入った企業は、企業価値の向上が期待できる有力候補だ。

なお、『プロ500』の誌面では、業績やテーマ性、株価の動向などをもとに全上場企業から500銘柄を厳選して掲載している。今回のエクイティスプレッドランキングの上位に入った銘柄でも、誌面では非掲載となっているものもある。『プロ500』に非掲載の企業については、全上場企業を掲載している『会社四季報』や、オンライン版の『会社四季報オンライン』で概要をチェックしてみていただきたい。


(本記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

(島 大輔 : 『会社四季報プロ500』編集長)