東京はエリアが変われば、街の色が変わる。それぞれの街が特徴的なのは、住人の個性によって変化するからだ。

東カレが、街に住まう人々やレストランを徹底取材して、その個性をご紹介しよう!

今回は都内東部で人気のエリア、「清澄白河・門前仲町」に注目。

東京の街の個性を徹底調査する連載「東京ご近所探訪」。過去にご紹介した街も、要チェック!


今月のエリア【清澄白河・門前仲町】


今回取り上げるのは、都内東部で人気の清澄白河と門前仲町。

門前町として江戸時代から栄えてきたこのエリアには、今も下町の風情と人情が色濃く残っている。

その上、東京駅まで3km圏内、東京メトロの東西線と半蔵門線、都営大江戸線が通っており、都心へのアクセスも抜群。


パリさながらの落ち着きを感じる、清澄白河の品の良さ

隅田川が近く、大横川、仙台堀川など運河も多数残るエリア。夜になると青くライトアップされる「清洲橋」は、重厚で男性的な「永代橋」と対になるよう、繊細で女性的なデザインが施されている。抜群に艶やか


北側の清澄白河エリアは、「清澄庭園」を筆頭に、緑が豊富で落ち着いた雰囲気。

「今でこそ“コーヒーとカフェの街”と認知されていますが、2013年にうちがオープンしたときは、本当にお寺しかありませんでした。門仲と森下に挟まれた場所で、2000年までは駅もなく、まさに“陸の孤島”。それが、“お洒落な街”と注目されるようになって以降、森下や千石なのに“清澄白河”と名の付く建物を見るようになりました。ここ10年でエリアが広がりましたね」と語るのは、地元の人が足繁く通うコーヒースタンド『ARiSE COFFEE ROASTERS』の代表、林 大樹さん。

取材時、コーヒーを買いに来た常連の30代男性は「この辺りに住んで5年。古い街並みに新しいお店ができて、落ち着いているのに面白い街になっています。ずっと住み続けたいと思って、近くにマンションを買うことにしました」と話してくれた。

東京メトロ有楽町線の延伸が決まり新駅ができることも、購入のきっかけになったという。


『ARiSE COFFEE ROASTERS』


自家焙煎の豆とドリップコーヒーを販売する焙煎所兼コーヒースタンド。

6坪の小さな店内に、アフリカや中米を中心に質の高いアジア産のものまで常時15〜20種類の豆をそろえる。

超希少な沖縄県久米島のコーヒーを期間限定で扱っている。




「ドリップコーヒー」(500円〜)や珈琲豆を求めて、日々地元民や観光客が絶えない。



また、清澄界隈は、グルマンのあいだで近年注目を集めているエリアでもある。

ワインとのペアリングが楽しめる中華の人気店『O2』や、スペイン料理店『eman』をはじめ、独自の世界観を持つ飲食店が増えてきているのだ。

そもそも、築95年の「清澄長屋」をはじめ、築年数の古いビルや倉庫をリノベーションした店舗も多く、街全体がレトロモダンな雰囲気に包まれているのも清澄らしさと言えるだろう。

オープン以来6年にも渡り、行列の絶えないパティスリー『アンヴデット』のオーナーパティシエ、森 大祐さんは、高い建物がなく落ち着いた雰囲気が気に入って清澄白河を選んだ。

「古き良きところは残しつつ、新しいものも受け容れる街。下町なのに雑多なところがなくて、修業時代に4年間暮らしたパリにとても似ているんです。

3、4年前から、こだわりを持ったお店が増え、ますますいい街になってきましたね」

審美眼を持つ人に選ばれる街でもあるのだろう。


『アンヴデット』


店名の由来は、「主役」を意味するフランス語。

素材にこだわったケーキ、焼き菓子、パンが並ぶ人気店。




いちごのジュレとピスタチオクリームのコントラストが美しい「サントノーレ」648円。


待望の「深川祭」復活に湧き上がる門前仲町

「深川不動堂」は「深川のお不動さん」として親しまれている真言宗のお寺。地下鉄の1番出口をあがると、通称「人情深川ご利益通り」と呼ばれる参道の入口。大きな赤い鳥居がそびえる


清澄白河エリアの南側に位置する門前仲町は、大本山成田山新勝寺の東京別院「深川不動堂」と「富岡八幡宮」を中心に発展を遂げた街。

永代通り沿いには商店が連なり、週末にもなれば国内外から大勢の観光客もやってくる。

最大のイベントは、富岡八幡宮の例祭「深川祭」。江戸三大祭のひとつで、50基を超える神輿が練り歩く際に担ぎ手に豪快に水を掛けることから「水掛け祭」の名でも知られている。

「コロナ禍や東京オリンピックで延期になっていた本祭りが、今年6年ぶりに開催されるんです。祭り好きの地元の常連さんたちは、半年以上前から盛り上がっています」と、立ち飲み店『ますらお』の女将・麻子さん。

祭りのおかげで世代を越えた交流も活発で、「街を歩けば知り合いに会う」というほど強固なネットワークが構築されており、飲食店にも常連コミュニティができあがっている。


『ますらお』


元寿司職人の西川 敦さんが豊洲で仕入れた新鮮な魚介を、手軽に楽しめる大人気立ち飲み店。




自家製の「海老しんじょう」など、ひと手間かけた一品も多い。

「季節の刺身」680円〜。夏は「うざく」(500円)もオススメ。



江戸時代からの歴史ある街ゆえ、古くからの住民も多いが、通勤の便利さから移住してくる人も多い。

地元生まれの住民によれば「良くも悪くも人と人との距離が近いので、“下町的なご近所づきあい”を楽しめる人には最高です。“通勤に便利だから”と独身時代に引っ越してきた人が、結婚しても門仲内の広い物件に移るケースも多いですね」

深川にある明治小学校は、江東区で最も古く、勉強や課外活動に力を入れている伝統校。

子どもの小学校入学のタイミングで転入してくる人も多いのだとか。



門前仲町のメインストリートである永代通りの南側、大横川とのあいだの一角は、飲み屋が並ぶ繁華街。個性的な個人店が多く、『ますらお』もこのエリアにある


単身者からファミリー層、リタイア世代まで幅広い年齢層に人気のエリアゆえ、不動産物件は需要が供給を大きく上回っていて常に不足気味だ。

「江東区内では豊洲や有明にタワーマンションが次々に建設されていますが、門仲・清澄界隈は非常に少ない。すでに街が完成しているので、住居の絶対数が増えないんです」と創業75年目を迎えた地元の『高砂不動産』の代表取締役、貝瀬栄治さん。

賑やかなイメージがある門仲だが、店舗の多い永代通りから5分も離れれば静かな住宅街。そんなメリハリがあるところも、暮らしやすさにつながっている。

新大橋や北砂など少し離れたエリアには新築マンションもできているが、門仲・清澄の「ど真ん中」と言えるエリアは築30年超の古い中層マンションが主流。

リノベ済の中古物件やDIY可の賃貸物件も増えているため、最近では、レトロな雰囲気が好きなクリエイターたちのあいだで争奪戦が繰り広げられている。

住人の転居を事前に知った知人がそのまま申し込んで入居するケースもあるそう。

「門仲・清澄エリアはいい物件がなかなか出てこない」と言われる裏には、そんな事情が隠れていたのだ。

門前町として栄えた町ながら、限られた商業エリアを一歩抜ければ猥雑さやせわしなさを感じさせない落ち着いた街並みが待っている。

歴史とセンスが一体となった街の空気感を、ぜひ肌で感じてみて。


地元の不動産店に聞いた!街の基本スペック


・賃貸相場(1LDK 40平米目安)
 13万円〜15万円

・販売相場
 マンション(中古物件が主)40平米 4,000万円前後、60平米 5,000万円前後
 新築建売(ex.15坪 3F建て 建物面積100平米)6,000万円〜

・駅周りの人口
 門前仲町駅 約3万1,000人
 清澄白河駅 約2万8,000人

◆協力してくれたのは◆
店名:高砂不動産
住所:江東区富岡1-23-15
TEL:03-3642-5001



【清澄白河の磐石の人気店】素材の味を生かしたセンス抜群の清澄イタリアンの美しさたるや
『il tram』



各所に緑を感じる清澄白河。

ここ数年で美食の街としても定着してきたが、中でも街の変遷を見てきた人気イタリアンをご紹介。



元々喫茶店だったこともあり、丸窓だけを残してリノベ


三ツ目通りから少し入った閑静な場所に、一見すると喫茶店のようなイタリアンがある。



「好きなものを集めただけ」と店主。知人の画家が描いたイラストやレザーのメニューなどが雑然と並ぶが、自然と統一感を感じる


店内は木の温もりが優しく、ドライフラワーや風合いのあるイラストが飾られ、上質でお洒落。

店主の川邊亮祐さんは「ゆったりした時間を過ごしてほしい」と、ダウンライトの落ち着いた空間を作り上げた。


究極にミニマルな表現とは裏腹に料理に感じる確かな旨さ

「カマスのロースト」。カマスを巻き上げ、魚の持つ水分で蒸し焼きに。金美人参の甘いペーストを添え、味変で5種類のハーブを後のせできるような仕掛けに


料理はコースのみで、旬の素材をシンプルかつ美しく調理。

極力、素材を生かしつつ、スープには米で粘度を加えたり、カマスはまずソースで食べ、その後ハーブを加えたりと一皿ごとの創意が光る。

「この地で10年やっていますが、年々料理がシンプルになっています。素材の美味しさを楽しんでほしいですね」と店主。




「ポモドーロ」は手打ちのタヤリンとトマトソースによる究極の逸品。




「新玉ねぎのズッパ」。昆布だしで旨みを増幅。清廉な飲み口。




名物「アスパラガスのビスマルク風」。那須で採れた瑞々しいアスパラガスを焼き、カラスミで塩味をプラス。

すべてコース(6,380円)より。



ワインは、ナチュラルワインを多数そろえる。店主お気に入りの「シャトー・ド・ゴール」は常備し、ペアリングなどで必ず入れるという。グラス 1,000円〜、ボトル 5,000円〜


街のゆったりした空気を体現したような、優しい料理は心に染み入る美味しさ。

ぜひ、清澄で緑を感じつつ時間に縛られないひとときを。


■店舗概要
店名:il tram
住所:江東区三好4-9-5 1F
TEL:03-5621-8383
営業時間:【水〜金】18:00〜22:00
     【土・日・祝】ランチ 12:00〜14:30
            ディナー 18:00〜22:00
定休日:月曜、火曜
席数:テーブル8席、カウンター4席



【門前仲町の注目の新店】お寺の一角に潜む新フレンチが抜群にカジュアルで丁度いい
『Paraiso』



大衆的な飲み屋が多い門前仲町だが、実力派のレストランも多数。

デートにも使えるカジュアルフレンチの話題の新店がこちら。


暖簾の先には開放的でスタイリッシュな空間が広がる

フレンチレストランらしからぬ構えが印象的。暖簾の文字は、増林寺のご住職の揮毫だそう


門前仲町から清澄通りを北へ。

立派な数寄屋門にかかる大きな暖簾をくぐると、瓦屋根のフレンチレストランが現れる。



お寺のギャラリーだった建物を改装。2階は、4席のテーブルがひとつとカウンター4席の半個室


オーナーシェフの内山 豊さんは、木のぬくもりが感じられる高い吹き抜けの空間に魅せられ店を構えた。



「マグレカナールのロースト」はコース(6,600円〜)の一品


ディナーは「魚介のオードヴル」、「フォアグラの一皿」、「マグレカナールのロースト」の3品のコースに、お好みでアラカルトを追加するスタイル。

中でも「スクランブルトリュフ」は絶品と評判で、これを目掛けてくる人もいるほど。




アラカルトの「スクランブルトリュフ」1,800円。

トリュフ入りスクランブルエッグに、トリュフを削りかけた贅沢な一品。




ナッツの香ばしさとスパイスの香りが際立つ「マリネ仔羊の網焼き」2,400円。




左から「マルキ・ド・グーレーヌ トゥーレーヌ ソーヴィニヨンブラン」5,400円、「アナヨン シャルドネ」7,300円、「クーヴァン・デ・ヴィジタンディーヌ ブルゴーニュ ピノ・ノワール」(6,700円)などボトルも豊富。

+2,000円でペアリングも。


これからの時期はテラス席もあり!


テラス席では、軽い食事とお酒などの楽しみ方もできる。

カフェの時間帯も営業しているので、シーンに合わせて利用したい。



日常のちょっとした贅沢として、ひと手間かけた本格フレンチをカジュアルに楽しみたい。


■店舗概要
店名:Paraiso
住所:江東区深川2-19-2 増林寺西門
TEL:03-6240-3988
営業時間:ブランチ 11:00〜14:00
     カフェ 14:00〜16:00
     ディナー 18:00〜21:00
定休日:火曜
席数:テーブル16席、カウンター4席、テラス12席



担当編集・船山が街の酒場の様子を現地リポート
〜門仲の夜は古き良き横丁で永遠に飲み浸る〜



日々、西の方にいる自分にとって清澄・門仲は馴染みが薄い街。

飲み好きな地元住民に聞くと、訪れるべきは門仲の「辰巳新道」。戦後3年目に近隣の露天商が協力して造り上げた飲み屋街だ。



50mほどの路地に30軒ほどの飲み屋が並ぶ「辰巳新道」


この日、訪れたのは『ナイスアイディア』というおでん店。




エスニックな「サイクロギョーザ」500円。




「ブラックまぜそば」500円。




マジシャンやミュージシャンなどひと癖あるスタッフ陣が日替わりで開ける店のようで、この日は本業がMCというMASAさん(写真)がカウンターに立ち、一見さんと盛り上がること5時間強。

系列の『和イン御ハン』を挟み、その日だけで計11人と新たに出会い、腹がよじれるほど笑いました。

人の温かさに触れたディープ門仲、おすすめです!




同企画担当編集。2年前に門仲を取り上げた際には、東京五大煮込みに数えられる『大坂屋』の味に感動した。


▶このほか:「あの多幸感、忘れません」桐谷健太がペアリングを愉しんだ、住宅街に潜む老舗ビストロ