久保建英の1年を「レアル・ソシエダのすべてを知る男」が分析 日本代表での違いは「創造的なプレーが限定されている」
「特記すべきは、極めて集中力が高い点だろう。ボールに関わっている時も、関わっていない時も、常にプレーにコミットしていることが、素早い動きを可能にしている。技術的にも戦術的にも非常にクオリティが高い」
スペインの指導者、ミケル・エチャリはレアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)の久保建英について、そう分析している。
エチャリはラ・レアルで20年近く、強化部長、育成部長、ヘッドコーチ、セカンドチーム監督、戦略分析担当、スカウトなど、あらゆる役職に従事してきた。イマノル・アルグアシル監督との親交も深く、かつては麾下(きか)の選手だった。そこで今回はラ・レアルのスカウトのスタイルで、久保のプレーを分析してもらった。
貴重なプロフェッショナルの視点とは?
今季はレアル・ソシエダに移籍し、その才能を開花させた久保建英
「今シーズンの久保は、主にふたつの異なるシステムのなかで、ほとんど完璧に適応している。
まず、4−4−2の中盤ダイヤモンド型では、アレクサンダー・セルロートとトップの一角でプレーすることが多かった。モビリティ(可動性)は特筆すべきレベルで、ダイアゴナルのランニングだけでなく、バックラインの裏にも走り、オフサイドギリギリまで深みをつけていた。
自由な動きを許されていたこともあってか、そのインテリジェンスを存分に発揮した。2列目、3列目の選手たちとも絶え間なくスペースを分かち合い、連係力の高さを見せたと言える。空間の使い方は出色だ。
今まで所属したチームと違って、周りの選手のプレークオリティが非常に高かったことも、久保のプレーの質を高める結果になったと言えるだろう。
4−3−3では、主に右アタッカーでプレーした。俊敏性とゴールに入っていく覇気が特徴だろう。サイドバックや右サイドのインサイドハーフ(ブライス・メンデスやミケル・メリーノなど)と良好な関係性を保ち、サイドからのドリブルで敵に怖さを与えていた。カットインし、横切ることでも戦術的に相手にダメージに与えていたが、何よりゴールに迫っていくプレーが際立った」
【一方、日本代表では...】
バスク地方のクラブでは、高いプレー強度のなかで技術を出せてこそ、認められる。惰弱さの見える選手は、敬意を与えられない。この点でも、エチャリは久保に合格点をつけた。
「久保は小柄だが、ボールを巡る闘争には強い。見かけ以上に、相当にタフ。また、サイドでのロングキックに対する空中戦も巧みで、ヘディングも及第点を与えられるだろう。
アルグアシル監督が久保について『とても才能のある選手で、技術だけでなく、戦術的にも知性を感じさせる。すばらしい選手に囲まれながら、あらゆるポジションに適応している』と話しているように、当初から俊敏さ、ドリブル、パス、シュートというあらゆる技術、チームプレーヤーとしてやるべき、守備を含めた仕事の質は高かった。
試合を重ねるなかで成長を示したが、これは集中力のなせる業だろう。
集中力が高いことで、常に学習することができる。守備では前線からのプレスでスイッチを入れられるし、同時に何をすべきか、周りも見えている。一方で、カウンターなどゴールに関わる攻撃にも迅速に対応。単純にシュートセンスも傑出しており、豊富な判断から適切に簡潔に選択できていた。
シーズン9得点、8アシスト(アシストは定義づけが難しく、媒体によって6あるいは7という表記もある)はすばらしい数字だ」
エチャリはスカウティングリポートのなかで久保を絶賛した。一方で、改善すべき課題や代表チームでのプレーの違いにも触れている。
「あえて改善すべき課題を挙げるなら、たまにエゴが出る点だろう。シュート能力が高いのは歴然としているが、判断を急ぎすぎてしまい、得点機を逃している。その勝気さがシューターとしての魅力はわかるが、ラストパスも含めて最善の判断をできるようになったら、もうひとつ上のステージの選手になるかもしれない。シュートセンスの高さもさらに光り出すだろう。
一方、日本代表での久保はやや窮屈そうに映る。
ラ・レアルでのプレーと比べると、多くの場合、左サイドに固定されてしまっていることが多いのが原因だろう。結果的に、"コンビネーションの巧みさ"という彼本来の持ち味を出せていない。
また、日本代表はチームスタイルとしてやや守備的なだけに、敵ゴール前の仕事よりも自陣を守るタスクが多く、創造的なプレーが限定されてしまい、"生産性"を低くしていると見られる。
いずれにせよ久保はすばらしいシーズンを送ったと言える。地元ファンや関係者の間で、拍手喝采を浴びた。自由な動きのなか、トップレベルのプレーヤーと技を高め合うことにより、さらなる活躍が期待できるだろう」