【メッシが去り、シャビ監督就任後初のリーグタイトル】

 エスタディ・コルネリャ=エル・プラットに試合終了の笛が鳴り響くと、バルセロナの選手たちはピッチの中央で喜びを爆発させた。


バルセロナはラ・リーガで4シーズンぶりの優勝をはたした photo by Nakashima Daisuke

 5月14日にエスパニョールのホームで4−2と快勝し、4節を残して今季ラ・リーガの優勝を決めた瞬間だ。降格圏に沈む相手との力の差は大きく、難なく白星を掴んだようにも見えたが、ブラウグラナ(バルセロナの愛称)の選手たちは溢れる感情を隠そうとしなかった。

 それはこのカタルーニャ随一の名門にとって、4シーズンぶりの優勝だった。またそれはリオネル・メッシが去ってから、そしてシャビ・エルナンデスが指揮官に就いてから手にした初のリーグタイトルでもある。

 少年時代にバルセロナの下部組織ラ・マシアで鍛えられ、プロになってからは主力として黄金期を謳歌したシャビは、2021年11月に監督として古巣に帰還。前任者ロナルド・クーマンから引き継いだチームにメッシはおらず(その3カ月前にパリ・サンジェルマンへ移籍)、その特大の穴を埋めることもできていなかった。

 ラ・リーガで2位、スペイン国王杯は16強どまり、チャンピオンズリーグ(CL)ではグループステージで敗退し、その後に回ったヨーロッパリーグも8強で終了。スペインの二大クラブにあるまじき成績で昨季を終えると、フロントはクラブ公式テレビの先々の権利を売却するなどして、財政をなんとか立て直し、夏の移籍市場で大型補強を敢行した。

 アンドレアス・クリステンセン、ジュール・クンデ、マルコス・アロンソ、フランク・ケシエ、ラフィーニャ、そしてロベルト・レバンドフスキらを迎え、攻守を格段に向上させた。

 なかでも得点力を一気に上げたレバンドフスキは、リーグ優勝の立役者のひとりに。本稿執筆時点で、リーグ戦23得点6アシストの成績を残しているが、その貢献は数字以外にも現れている。

 現在34歳のポーランド代表ストライカーは見事なパフォーマンスだけでなく、献身性やプロフェッショナリズムで、ガビやペドリ、アンス・ファティら、多くの若手の新たなロールモデルとなっただけでなく、チーム全体のメンタリティーをポジティブに変えた。

「彼が偉大なゴールスコアラーだということは知っていたが、これほどまでに特別なリーダーシップを備えているとはね。今や、ロッカールームのキープレーヤーのひとりだ」とシャビ監督も手放しで称えている。

【人員整理と審判買収疑惑】

 また右のラテラル(サイドバック)に本来はセンターバックのクンデを配したこともあって守備力が劇的に高まり、失点数が非常に少なかったことも優勝の要因に挙げられる。ただし、そのクンデは自身がもっとも得意とするポジションでのプレーを望み、それが叶えられなければ、今夏に移籍を志願するとも漏れ聞こえてくる。

 ラ・リーガが定めるファイナンシャル・フェアプレーにより、バルセロナは今オフ、選手の総サラリーを約2億ユーロ(約300億円)削減しないかぎり、新戦力を獲得できない状況にある。そのため、クンデを1シーズンだけで放出してもおかしくはない。

 また、高給取りのセルヒオ・ブスケツとジョルディ・アルバが、今季終了後に去るのは既定路線となっている。7月1日に、ジョルディ・クライフに代わって新たにスポーツ・ディレクターに就任する予定のデコも、人員の整理から仕事を始めることになるだろう。

 ただし──。今夏の移籍マーケットでどれだけうまく立ち回ることができたとしても、バルセロナは来季のCLに出場できないかもしれない。なぜなら2001年から2018年まで、同クラブが審判を買収していたのではないかという疑惑が浮上しているのだ。

 2月にこのスキャンダルが明るみになると、続報が連なり、多くの議論が交わされ、現在は裁判所に判決が委ねられている。ここですべてを詳細に語ることは文字数の関係で不可能だが、要点を記すと、バルセロナがスペイン審判委員会の副会長を務めていたホセ・マリア・エンリケス・ネグレイラに、その17年間で総額730万ユーロ(約10億9500万円)を支払っていたと疑われているのだ。

 2018年にエンリケス・ネグレイラは同職を離れており、このことからもバルセロナが審判を買収するために献金していたとの疑念が広がっている。これを受け、UEFAのアレクサンデル・チェフェリン会長は、「過去50年の欧州フットボールにおける最大の汚職事件」とまで非難し、来季のCL出場権を剥奪する可能性を示唆している。

【来季CLに出られない可能性も】

 もしそうなれば、クラブは甚大な財政的損失を被るだけでなく、同大会への出場を望む主力選手たちが離れていく可能性も捨てきれない。噂されていたリオネル・メッシのパリ・サンジェルマンからの帰還の線も、完全に消滅するに違いない。

 バルセロナは興行収入を確保するために、世界中でフレンドリーマッチを行なうプランBも考えているようだが、そんなことをしても、選手やファンは納得しないだろう。一難去って、また一難──。2年前に財政面の問題によりメッシを手放してしまったバルセロナの経営陣の問題は、想像以上に根が深そうだ。