真中満インタビュー(全2回)
後編「ヤクルト序盤戦」

2021年に日本一、2022年にセ・リーグ連覇をはたした東京ヤクルトスワローズは現在、リーグ5位(5月29日現在)と順位を落としている。自身も監督としてヤクルトを優勝に導いた経験がある野球解説者の真中満氏は、ヤクルトの現状と課題をどう見るのか?

●先発投手陣が長いイニングを投げられていない

ーー東京ヤクルトスワローズが、今年はなかなか波に乗れない日が続いています。

 開幕当初は、打線の調子がなかなか上がってこないなかで投手陣が本当によく頑張っていたけど、5月に入ってからは投打ともに苦しい時期が続いていますね。開幕当初は、たとえ先発投手陣が早い回でマウンドを降りても、中継ぎ陣が本当によく頑張った。

 この間に打線の調子が上向きになっていればよかったけど、その前に投手陣がピンチに陥ってしまった。それが、現在のチーム状況ですよね。特に投手陣はかなり苦しいですね。

ーーそれは、先発、リリーフ陣、ともにですか?

 そうですね。先発もリリーフも両方ですね。先発ピッチャーがある程度、長いイニングを投げて試合をつくることができれば、中継ぎ陣の負担も減らすことができるけど、現状は先発投手が早々にマウンドを降りるので、じわじわとそのしわ寄せが中継ぎ陣に来ているという感じですよね。

 首脳陣も連投をさせずに、なるべく登板過多を回避しているけれど、どうしても先発投手が長いイニングを投げられていない。そのストレスが押し寄せてきていますね。

ーー開幕以来ずっと打線は湿りがちでした。これは何か原因があるのでしょうか?

 これはヤクルトに限らずどのチームにも言えることだけど、巨人の坂本勇人に代表されるように、今年は全体的に「投高打低」の傾向がありますよね。特にヤクルトの場合は、村上宗隆中心に勝ってきたチームなので、村上の不振がそのままチーム状況に反映していますね。

ーー昨年、18年ぶり、そして史上最年少での三冠王を獲得した村上選手ですが、今季は不振に苦しんでいます。何か原因はあるのでしょうか?

 技術的なことで言えば、そもそもタイミングが合っていないですよね。僕が見ている感じだと、軸足である左足に体重が乗っている時間がすごく短い。後ろの足に体重が乗っかって、ボールをじっくりと見る、いわゆる「タメ」がない。だから、どうしても身体が前に突っ込んで、手先だけでバッティングしているように見えますね。


今季は不振にあえいでいるヤクルト村上宗隆 photo by Kyodo News

●村上はまだ本来のスイングができていない

ーー構えが立ち遅れたり、速球に差し込まれたりする場面が多く見られる気がします。

 開幕前にWBCでも苦しんでいたけど、メジャー級のピッチャーたちに対応するために、「コンパクトに打とう」「シンプルに打とう」という意識を持つようにしていたんだと思うんです。

 けれども、速いボールに対応するためにコンパクトなスイングを意識したことで、後ろ足に体重を乗せる時間を少なくした。それによって、間がなくなってしまってタイミングを狂わされていると思います。


プロ野球解説者の真中満氏 photo by Igarashi Kazuhiro

ーー軸足である左足に体重を乗せる時間をもっと長くしたほうがいいのでしょうか?

 速いボールに対応するには、バットを引いた状態でゆったり待っているぐらいの意識を持った方がいいと思うんだけど、現状はその反対で、「シンプルに、コンパクトに」という意識で、バッティング自体が浅くなっているように見えます。

 これが、開幕直後の4月上旬ぐらいであれば、「いろいろ試しているのかな?」とも思えるけど、もう5月も終わる段階でこの状態だと、「本当に去年のような状態に戻れるのか?」と、こちらとしても不安になってきました。

ーー先ほどの真中さんの指摘について、当然、指導者も本人も理解していますよね?

 もちろん、本人もわかっているし、バッティングコーチも理解していると思います。だけど、村上レベルの選手になればコーチが細々(こまごま)とアドバイスすることもないし、厳しくても本人が乗り越えていくしかないですよね。原因を理解したうえで、それでもあのスタイルを貫いているのであれば、そこには村上自身の考えや目的があるんだと思います。

ーー村上選手に対しては「リフレッシュを兼ねて休養を」だとか、「4番から外して、ラクな気持ちで打たせてみてはどうか?」とか、さまざまな意見があります。真中さんはどうお考えですか?

 ファンの人の間で、いろいろな意見があることは承知しているけど、やっぱり村上を外すことはできないですよ。実績から言っても、能力から言っても、わずか2カ月結果が出ないだけで外すような選手ではないですから。

 打順に関して言えば、僕はもともと、「4番打者がチームの中心だ」とは思っていません。村上は2番でも3番でも全然いいと思います。単純に「打順を変えれば打てるようになる」とは思わないけど、気分転換を兼ねて打順を変更するのはアリだと思いますね。

●故障者、離脱者がいつ戦線復帰するのかがポイントに

ーーこれから交流戦が始まります。昨年はこの時期に圧倒的な強さを見せて、最終的にリーグ連覇を成し遂げました。ここからのヤクルトの戦いはどうすればいいでしょう?

 打撃陣に関しては、もういじりようがないと思います。先ほど、村上の打順について話したけど、オスナ、サンタナの両外国人も、山田哲人も外すことはできないですから。

 あえて言うとすれば、ショートの長岡秀樹は守備での貢献度は認められるけど、バッティングは本調子ではないから、ここを変えるのはあるかもしれない。それでも、そう大きくは変わらないし、変えなくてもいいと思います。

ーーそうなると、やっぱり投手陣の整備がポイントとなりますね。

 現状は先発投手に小川泰弘、サイスニード、ピーターズの3人しか名前が挙がってこないのも厳しいですよね。ルーキーの吉村貢司郎がファームに落ちたのも痛い。コンディション的に何か問題があったのかはわからないけど、大事に至らないといいんですが......。

 ファームでは高橋奎二も投げ始めたけど、いつ頃復帰できるのかは不透明。そうなると、交流戦を得意にしている石川雅規に期待しつつ、高橋奎二の復帰を待つ。さらに、いつになるかはわからないけど、奥川恭伸がどうなるかを見守ることになるのかな?

ーー投手陣の整備は、あくまでも離脱者の復帰待ちということになりそうですね。

 残念ながら、そうなりますね。あとは打線の爆発を待つしかない。

ーー新たな戦力補強が難しい現状では、打線の奮起に期待するしかない、と。

 開幕当初はピッチャーに助けてもらったんだから、今度はバッター陣がピッチャーを助ける番でしょう。その中心にいるのは、当然村上です。プレッシャーも大きいけど、去年あれだけ活躍したし、年俸もたくさんもらっているんだから、彼にはその責任があります。

ーー現在、阪神とDeNAが快調な戦いを続けていますが、3連覇は難しくなってきたでしょうか?

 確かに、タイガースとベイスターズが上位を走っているけど、開幕前の順位予想で言ったように、今年のセ・リーグはどこも拮抗しているので、まだまだわからないですよ。何とか5割前後で食らいついていけば、逆転のチャンスはまだまだありますからね。今は投打の歯車が噛み合っていないけれど、まさにここが踏ん張りどころです。

前編<阪神は好調の背景に「アメとムチ」采配、巨人・坂本勇人は「復調すると思っていた」 真中満がセ・リーグ序盤戦を評価>

【プロフィール】
真中満 まなか・みつる 
1971年、栃木県生まれ。宇都宮学園、日本大を卒業後、1992年ドラフト3位でヤクルトスワローズに入団。2001年には打率.312でリーグ優勝、日本一に貢献した。計4回の日本一を経験し、2008年に現役引退。その後、ヤクルトの一軍チーフ打撃コーチなどを経て、監督に就任。2015年にはチームをリーグ優勝に導いた。現在は、野球解説者として活躍している。