5月28日、マドリード。レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)は敵地に乗り込み、アトレティコ・マドリードに2−1と敗れたが、試合後はチーム一同が歓喜の輪を作っている。同時刻に行なわれていた試合で、4位争いをしていたビジャレアルもバジェカーノに負けたというニュースが入ってきて、来季のチャンピオンズリーグ(CL)出場権獲得が決まったからだ。

 その祝祭は、「成功」のシーズンの象徴だった。

 2022−23シーズンをとおして久保建英がその殊勲者になったのは間違いない。34試合出場、9得点。1年を通じて考えた場合、最も高いアベレージを叩き出した前線の選手と言える。チームに勝利をもたらし、9得点した試合では全勝という記録は出色だ。

「22歳でCL出場」

 久保はそう目標を掲げていたが、見事にやり遂げてしまった。リーガ・エスパニョーラでは自らCL出場を勝ち取った初めての日本人選手になっている。レアル・マドリード復帰説は未だに燻り続けるし(ただし来季は考えられない)、年間ベストイレブン候補の一角に推す声も多く、21歳でトッププレーヤーの仲間入りをしたと言えるだろう。


来季のチャンピオンズリーグ出場が決まり歓喜に沸く久保建英らレアル・ソシエダの選手たち

 来シーズンは、いよいよ最高峰の戦いに挑むことになるわけだが、アトレティコ戦は一つの試金石になったかもしれない。

 アトレティコ戦の久保は4−3−3の右アタッカーで先発している。

 今シーズンは4−4−2中盤ダイヤモンド型の2トップの一角を中心に、トップ下、左、といくつかポジションを担当してきたが、どのポジションでも長所を出せるようになった。なかでも右サイドはもともと得意な位置と言える。切り込んでシュート、縦に入ってクロスを使い分けることができる。前節のアルメリア戦では相手を置き去りに、左足でファーサイドに美しい軌道のシュートを流し込んだ。

 しかし、ラ・リーガのビッグ3の一角であるアトレティコは、徹底的な「久保対策」を用意してきた。攻撃的な左ウイングバックのヤニック・カラスコを一列上げ、密着マークができるセルヒオ・レギロンを左ウイングバックに抜擢。久保の通路を封鎖した。加えて、左センターバックのマリオ・エルモソが中央に入ってきた久保を早い段階で潰しにいった。

【久保にとって必要なコンビネーション】

 久保は、完全に孤立していた。自陣、もしくはブロックの外側でボールを持つだけで、敵の戦線に入り込めない。そこで、積極的な前線からの守備でスイッチを入れようとしたが、ディエゴ・シメオネ監督率いるアトレティコは無理してボールをつなぐチームではなく、肩透かしを食らった。

 それは単騎で門を閉じた城に攻めかかるに等しかったか。

 味方の援護さえあれば、コンビネーションを使って怖さを与えられただろう。しかし、この日はダビド・シルバがケガで不在、近くにサポートを得られなかった。逆サイドのミケル・オヤルサバルも不調で(前十字靭帯断裂からの復帰で、トップフォームを取り戻すには時間がかかっている)、チーム全体の攻撃が手詰まりになったのもあるだろう。

 ラ・レアルは打開策が見つからず、手をこまねいている間にペースを奪われる。フランス代表アントワーヌ・グリーズマンなど有力選手を擁する相手に押し込まれ、5−4−1の守備陣形を敷かざるを得なくなると、持ち味の攻撃力が出せなくなった。そして、一瞬の隙をグリーズマンに突かれて失点。堅陣を前に、このハンデは大きかった。終盤はオープンな展開になったが、チームの厚みで敗れた。

「久保が最高の技術のディテールを示したのは間違いない。しかし、その影響が(脅威を与えるには)届かない位置だった。アトレティコのディフェンスは彼をうまく封じていた」

 スペイン大手スポーツ紙『アス』は、この試合の久保についてそう評価している。

 久保は高いボール技術を見せ、何度か相手に潰されたが、ほとんどが自陣、もしくは敵ゴールから遠いところだった。ドリブルで運ぶ技は見るべきものはあったが、危険な地域の外側。アンデル・バレネチェアが左サイドに投入された後、レギロンが足を使って消耗していたこともあって、久保も躍動し始めたが、71分で交代を命じられている。

 この敗戦は来季に向け、ひとつの教訓と言える。

 久保は単独で切り崩す力も持っているが、あくまでコンビネーションがあることで、それを十全に生かしている。三笘薫やヴィニシウス・ジュニオールのように、スピードを生かしたドリブラーではない。複数のプレー選択肢のなかで、味方の持ち味を引き出し、自らの力も引き出される。それ故、ダビド・シルバと組むことで無敵の存在になれるのだ。

 周囲が久保と近いサポート関係を周りが作り出せば、自ずと優位な状況に立てる。そのプレーの渦は相手を凌駕するだろう。FCバルセロナであろうが、レアル・マドリードであろうが、マンチェスター・ユナイテッドであろうが、ビッグクラブ相手にも証明している。

 最終節はホームのセビージャ戦。久保はもうひとつの目標である「二桁得点」をクリアできるか。あらゆる戦いが来季につながっている。