「ファンタジー・オン・アイス 2023」幕張公演に出演した羽生結弦

●プロ転向から走り続ける半年間

 6月25日の神戸公演最終日まで、4会場で開催される「ファンタジー・オン・アイス2023」。

 5月26日の幕張公演初日、オープニングで着氷を少し乱しながらも4回転トーループを跳んだ羽生結弦は、ショーの大トリとして登場した。

 今回は、ダンスボーカルグループ「DA PUMP」リーダーのISSAと、ラップやMCを担当するKIMIのラップを加えてのコラボレーション。曲はグループを代表するヒット曲の『if...』だった。

 このファンタジー・オン・アイスに羽生は、2010年の第1回以来、ケガの治療に専念した2016年以外メインスケーターとして出演し続けている。羽生にとって、ホームとも言えるアイスショーだ。

 昨年7月に競技生活に区切りをつけ、プロアスリートとして活動していくと表明。以来、昨年11〜12月には「プロローグ」、そして今年2月26日には東京ドームの「GIFT」と、過去に例がなかった単独アイスショーを成功させ、その後も3月には地元の宮城で「羽生結弦 notte stellata」を開演と、突っ走り続けた半年間だった。

 そして、休む間もなく3月30日から11日間10公演の「スターズ・オン・アイス2023」に出演。その時に羽生は「正直、疲労はあります」と話していた。

●鬼気迫る演技に会場はざわめき

 今回はそれから1カ月半の時間をとっての公演。4回転トーループの着氷を乱した時には少し悔しそうな表情を見せていたが、体の状態はよさそうで、キレのある滑りを見せた。

 照明を落としたなかでリンクに登場し3回転ループを軽やかに跳んだ羽生は、まだ曲が始まらない暗いなかで、いきなりキャメルスピンをして演技を始めた。そして、曲が始まって照明が灯ると、キレのいいダンスで観客席を圧倒する。

 静止した状態から手足を激しく踊らせ、ISSAの歌声だけではなくパーカッションの鋭い音にもピタリと合わせ、さらにはラップの音もしっかり拾って休む間のない緩急の効いたダンスだった。

 そのなかですばやいターンのあとでその流れに溶け込ませたような、フワッと跳び上がる3回転ループを入れる。さらに後半にも3回転ループを跳び、スピンとともにすべての動きでひとつのプログラムをつくり上げるような演技を見せた。

 最後は鬼気迫るような激しい演技のなか、体ごと落下するような動きで両足を前後に180度開脚し、ピタリと止まっていきなりの終演。その迫力と予想外の展開に驚愕するように一瞬静まった観客席からは、迫真の演技を見た喜びが、密やかな歓喜の声となってざわめいた。

 3分38秒+αのその演技は、それだけでファンタジーの観客席に来た人たちを納得させ、満足させるほどの滑りだった。

●ショー中の地震に気づかいの言葉

 そのあとはDA PUMPの大ヒット曲『U.S.A』のフィナーレで気持ちよさそうに踊った羽生。グランドフィナーレでは初出演の山本草太と友野一希、昨季現役復帰した織田信成のグループでのトリプルアクセル挑戦に続き、羽生は4回転トーループに挑んだ。

 最初のジャンプは3回転になって苦笑いをしたが、もう一度挑戦してきれいに決めてショーを締めた。

 このアイスショー、後半第2部6番目の演者だったハビエル・フェルナンデス(スペイン)の演技が始まってすぐに千葉県東方沖マグニチュード6.2の地震が発生し、会場も震度3の長い揺れに見舞われて演技が一時中断され、10分後に再開した。

 最後に肉声で「ありがとうございました」とあいさつした羽生は、マイクを受け取って「地震、怖かったと思います。まだまだ揺れることがあると思いますが、最後まで気をつけて帰ってください」と観客に声をかけた。

 今回は、長い間一緒にショーをつくり上げてきた、幼い頃の憧れの存在でもあったジョニー・ウィアー(アメリカ)が、プロスケーターを引退するために最後となる公演。そんな思いもまた、羽生の最後の観客への優しい声かけになって表れていたように思う。