【金森栄治助監督の指導で打撃力アップ】

「去年の秋から『打倒・明治』を掲げてやってきたが、蓋を開けてみるとこれだけの大きな差があった。秋には逆襲できるようにしっかりやっていきたい」。

 5月14日の東京六大学野球の春季リーグ戦で明治大に敗れ、目の前で3連覇を見せつけられた早稲田大野球部の小宮山悟監督は、試合後の会見で悔しさを滲ませた。

明治大に優勝を許し、厳しいコメントを残した早稲田大の小宮山監督

「なかなか点がとれない試合が多かった」というオープン戦とは対照的に、春季リーグでは打線がつながり、開幕カードの東大との2戦、立教大との2戦、続く法政大第1回戦まで5連勝と幸先のいいスタートを切った。

 リーグ戦の序盤は、ケガからの復帰を果たした中村将希(4年)や、クリーンナップを担う熊田任洋(4年)、印出太一(3年)らの実力者が躍動。加えて、オーバートレーニング症候群により戦線を離脱している主将の森田朝陽(4年)に代わってリードオフマンを務めた尾瀬雄大(2年)や、小宮山監督が「当初はまったく使うつもりはなかった」という小澤周平(2年)など、下級生の「お釣りがくるくらいの活躍」で得点を重ねていった。

 なかでも、「毎打席、『塁に絶対出る』という気持ち。コンパクトに振っている」という尾瀬は、今季の打率ランキングで3位(5月23日現在)につけるなど、監督の起用に応え見事な結果を残した。

 打撃陣が好調を維持していた背景には、今季から早稲田大の助監督に就任した金森栄治氏の影響も大きかったという。尾瀬も「今まであまりうまく打てなかった高めの球を、金森さんに聞きながら練習していた」と話すなど、プロ球団などで実績を残してきた金森氏の指導力は甚大で、「打席を簡単に終わらせないという意識が浸透してきた。考えながら仕事ができるようになった。頼もしさを感じる」と、厚みを増した打線に小宮山監督も手応えを口にしていた。

【快進撃に暗雲が立ち込めた法政大戦】

「チームの雰囲気がよく、選手に自信がついてきたように思う。このまま最後までいくことができれば......」

 そんな小宮山監督の目論見に狂いが見えたのは、今季の最優秀防御率を獲得することが濃厚な法政大・篠木健太郎(3年)を相手に勝利を収め、チームの連勝を5に伸ばした法政大との2回戦(5月8日)でのことだった。

 雨天中止を挟んで行なわれた第2戦は、「春季キャンプであまり具合がよくなかったので、しばらく練習からも外れていた」という清水大成(4年)を先発に起用。履正社時代には奥川恭伸(当時は星稜/現東京ヤクルト)に投げ勝ち、夏の甲子園優勝を成し遂げた左腕の投球に期待を寄せたが、序盤から法大にリードを許して9対6で敗れた。

 小宮山監督は、試合後に淡々と振り返った。

「彼としては準備不足だったかもしれないが、『(卒業後もプロや社会人で)野球を継続したい』という彼の思いもある。就職活動のつもりで、しっかりと投げられる姿を見せないといけない登板だったが、法政もいい選手が揃っているのでそんなに簡単に抑えられるわけがない。甘くはなかった」

 続く第3戦(5月9日)には、昨秋に最優秀防御率のタイトルを手にしたエースの加藤孝太郎(4年)を起用。しかし、初戦のリベンジに燃える法政大・篠木と、小宮山悟監督が「惚れ惚れする投手。横から見ているだけですが、真っすぐ、カーブ、スライダーと申し分ない」と語るドラフト候補の左腕、尾粼完太(4年)の前に打線は沈黙した。

 互いに無得点で迎えた7回2死2、3塁の場面には、先発の加藤をそのまま打席に立たせて無得点に終わり、「勝負して代打を使っていたほうが、勝つとしても、仮に負けたとしても、9回で決着がついていたかもしれない。延長戦のことを考えてしまった。反省しています」と悔やんだ。試合は12回を終えてスコアレスドロー。加藤の8回無失点の好投を勝利につなげることはできなかった。

 そして勝ち点(※先に2勝したチームが勝ち点を獲得する)をかけた第4戦(5月10日)は、2対1とリードした9回、法政大の4番内海貴斗(4年)の2ラン本塁打と西村友哉(3年)のタイムリーで逆転を許すと、そのまま4対2で試合終了。4試合に及ぶ熱戦を戦ったものの、勝ち点を手にすることはできなかった。

「1本のヒットで本塁まで帰って来られるかどうか。そこにはっきりとした差があったと思う。残念な負け方だが、課題の克服に向けていい勉強になった。(前日に8回を投げた)加藤をベンチに入れておくことができれば違う展開になったと思うが、それはリーグ戦の綾(あや)かもしれない。明治に勝って、最終週の早慶戦まで優勝の望みをつなぎたい」

 先に白星を手にしながら勝ち点を落とした敗戦の悔しさと、3日後に控えた明治大との天王山に向けて指揮官は意欲を覗かせていた。

【明治大に連敗で3連覇を許す「秋のリーグ戦で逆襲したい」】

 その明治大との初戦のマウンドには「体力は万全でなかったと思う」という加藤を中3日で起用。だが、ふだんは制球力に定評のある右腕も、この日は連投による疲れのせいかコントロールが乱れ、4回を投げて5四球7失点となった。

 小宮山監督が「覚悟はしていたが、それでも(早稲田のエースナンバーでもある)11番はそれを乗り越えないといけない。こういう状況でも戦える力をつけなければいけない」と大事な試合を振り返った。マウンドを託されたエースは、初回に明治大の主将で4番を務める上田希由翔 (きゅうと・4年)に先制タイムリーを許し、失点を重ねていった。

 その後も、5投手の継投で15失点。好調だったはずの打線も、明治大の先発村田賢一(4年)らの前に沈黙した。試合中、小宮山監督自らがマウンドに向かって加藤に檄を飛ばす光景からは、この試合にかける小宮山監督の並々ならぬ気持ちも感じさせたが......その心情とは対照的に、15対4の大差で初戦を落とした。

 そして、明治大の優勝に王手がかかった第2戦も、初回に明治大の上田と杉崎成(3年)のタイムリーで3失点を喫し、終始リードを許す展開で試合は進んだ。早稲田大は6回に吉納翼(3年)の3ラン本塁打で1点差に詰め寄るものの、8回に明治大の小島大河(2年)の2ラン本塁打で再び突き放されると、6対3で試合終了。勝ち点を逃した早稲田大は、目の前で明治大に85年ぶりの3連覇を許すこととなった。

「秋に明治に勝つためには、すべてで上回らないといけない」。

 2試合を振り返った小宮山監督は、今季の最終カードとして5月27日から行われる"早慶戦"を「秋のリーグ戦につながる試合にしたい」としながら、「夏はチームを徹底的に鍛えて、秋のリーグ戦で逆襲できるようにしっかりやっていきたい。そのためにはチームの一人ひとりが、どこを目指すのかが大事だと思う。もし彼らが望むのであれば、私は"最強の鬼"になる。その心意気に応えたい」とコメント。5連勝のあと、1分4敗と苦しんだチームの逆襲に意欲を見せた。

「すぐには(気持ちを)切り替えられないけど、秋のリーグ戦につなげられるようにしたい。最後は4年生に笑って卒業してもらいたい」(吉納翼)と、選手たちも小宮山監督の気持ちに応える覚悟だ。ただ、春季は中継ぎとして安定した投球を披露した田和廉(2年)が肘の手術による離脱を強いられるなど、厳しい戦力事情も垣間見える。

 圧倒的な選手層を武器に、日替わりのヒーローが生まれた明治大を上回る戦う集団を作り上げることができるのか。2020年秋大会以来の王座奪還に向け、捲土重来を期す小宮山監督の手腕が問われることになりそうだ。