「卒業生の抜けた穴はまだ埋めきれていない」エース不在、ハーフも結果が出ず…箱根駅伝の王座奪還を狙う青学大の明と暗
2023年の箱根駅伝では7区を走った佐藤一世
昨季の駅伝シーズン、近藤幸太郎、岸本大紀、横田俊吾ら強力な4年生がいながら無冠に終わった青学大。その近藤らが卒業し、志貴勇斗(4年)が新キャプテンとなり、新たなチーム作りに着手しているが、秋からの駅伝シーズンに向けての中間考査となる関東インカレでは、不安と期待が交差する結果になった。
大会初日の10000m1組にはまず太田蒼生(3年)が出場した。太田は、前回の箱根駅伝で4区3位と好走したあと、新型コロナウイルスに感染し、その後、右膝の故障が再発し、ロードシーズンに練習を積めなかった。箱根を100%とすると50%程度しか状態が上がらないなか出走し、「思った以上に調子が戻らず、途中から悲惨な走りになってしまった」という内容で29分20秒24の総合43位に終わった。
荒巻朋煕(2年)は、中盤までいい走りだったが最終的に総合40位。
10000m2組に出場した佐藤一世(4年)は、最上級生としての意地を見せた。留学生たちによるペースのアップ&ダウンにも対応し、粘って6位入賞は目標の「日本人トップ」には届かなかったが、「自信になった」と言うように、今後につながるレースになった。
佐藤一世がいい流れを作り、2日目の1500mでは宇田川瞬矢(2年)が優勝、山内健登(4年)が2位とワンツーフィニッシュを飾り、チームに勢いをつけたかに思われた。
【ハーフマラソンは全員が大苦戦】だが、4日目のハーフマラソンは、松並昂勢(4年)が20位、キャプテンの志貴が23位、白石光星(3年)が38位に終わり、入賞に届かずに終わった。
21年のハーフでは西久保遼が優勝し、前回大会では西久保が3位、横田が5位、田中悠登(3年)が7位と3人が入賞し、長距離での青学の強さを見せつけた。
今回は苦しい走りに終始し、志貴は「青学大はハーフで結果を出さないといけないなか、こういう結果になってしまったのは自分としても情けないですし、チームとしてもこの結果を見直していかないといけない」と、厳しい表情で語った。
【3000m障害、5000mでは好結果】重苦しい空気を打ち破ったのは同じく4日目の3000m障害に出走した3人だった。小原響(4年)が優勝し、黒田朝日(2年)が2位、山下悠河(4年)が5位入賞を果たした。小原は「2年の時は優勝できましたが3年時は勝負弱さがあった。今回は副キャプテンという立場もあり、青学にいい流れを持っていきたいと思っていたので、僕と黒田でワンツーということでその流れが作れたと思います」と笑顔を見せた。
5000mでは、鶴川正也(3年)がゴールになだれこむ際に転倒するほど順位への執着心を見せて、3位に入った。3月の学生ハーフ前に、疲労骨折をして大会まで3週間ほどしか練習できなかったが、それでも3位は力がある証拠。「ラスト10m、20mのところでうしろを見ちゃって......その時、腕振りが一瞬止まるのでそのまま前を追っていけば2位になれたかなと思う。そこは本当に悔しい」と唇を噛みしめたが、昨年に続き今年も3位と安定した結果を残したことで、秋の駅伝シーズンにつなげていきたいところだ。
【大きかった卒業した選手たちの穴】ハーフマラソン以外は、結果は上々だろう。
だが、青学大の強みは、ロングにある。そこでの強さが箱根駅伝につながり、これまで結果を残してきた。また、本来は走るべき若林宏樹(3年)、倉本玄太(4年)らもエントリーしていなかった。
関東インカレの結果を踏まえて、秋の駅伝シーズンに向けて、近藤ら強い4年生が抜けたチーム作りをどう進めていくのだろうか。
佐藤一世はこう語る。
「昨年の4年生の抜けた穴というのは、まだ埋めきれていないです。新体制になったチームとしても、故障あがりで復帰段階の選手が多く、少しずつ足並みがそろってきている感じです。まずは、スタートラインに全員が立つということが今は大事なことだと思います。夏合宿をみんなでしっかりこなし、徐々にチーム力をあげていって(学生)3大駅伝(出雲、全日本、箱根)に間に合えばいいかなと思っています」
鶴川は、昨季の反省を踏まえて今年に臨みたいと語る。
「昨年は4年生の力があったんで、任せっきりになっているというか、下の層の選手が『自分が出てやろう』とか『自分が引っ張ってやろう』という気持ちがなかった。駅伝はチーム全員で戦うスポーツなので、下の層の選手が(上の層の選手の)頑張っている姿を見て『俺たちもやらなきゃ』っていう気持ちになれるようなチーム作りを目指しています」
志貴キャプテンも、「4年生が抜けた危機感はありますが、今年は誰かに頼るんじゃなくて、全員で戦う、全員でチームを作り上げていくという意識でやっていきたい」と語り、4年生が抜けた穴を全員でフォローしていくチーム作りを目指しているという。
一方、4年生が抜けてもチームに絶対的な自信を持っている選手もいる。田中は、「4年生が抜けた危機感はあまり感じていない。夏を終えてチームの状態をうまく上げていければ全然勝てるチームになると思う」と、語った。
チーム作りやチームに対する見方は個人差があるものの、共通しているのは、夏合宿でどこまで個々とチームの力を上げられるかという点だ。
【エースに名乗り出るのは......】ただ、勝利を確実に手繰り寄せるためには、精神的な支柱となるようなエースの存在が必要になる。エースが走ればチームに勢いが出るが、前回の箱根駅伝の近藤や岸本の走りはまさにそうだった。
そのエースについて、佐藤一世は「近藤さんには、陸上だけではなく、プライベートでもお世話になった。大好きな4年生が抜けて、そこを埋めるのは自分しかいないというふうに思っています」と、エースに名乗りを上げている。
鶴川は、近藤のようなエースになると覚悟を決めている。
「今年は大エースがいないと言われていますけど、僕が大エースになりたいと思っています。近藤さんは、当たり前のことを毎日継続していました。僕はそれが苦手なのですが、そういうのを行動で見せられるように力をつけて、鶴川が走れば勝てるだろう、先頭で来てくれるだろうと思われるような選手になりたいですし、みんなの心を動かせるようなエースになりたいです」
夏の終わりに、佐藤一世、鶴川がエースとして成長していれば、あるいは下級生からそういう存在が出てくれば青学の強みは増す。それまで全員でチームを支える意識で成長できれば、エースが誕生した時には個々のレベルも間違いなく上がっているはずだ。
「青学は、やはり3冠を獲るべき大学だと思いますし、獲れると思っています」
【立ちはだかるのは駒澤大】田中はそう語るが、その前に大きく立ちはだかるのが駒澤大だ。昨季は圧倒的な強さで3冠を達成し、その勢いは今シーズンも続いている。関東インカレでは、10000mで唐澤拓海(4年)が日本人トップ、ハーフではワンツーフィニッシュを決めた。鈴木芽吹(4年)、篠原倖太朗(3年)、佐藤圭汰(2年)ら主力抜きでも結果を残しており、分厚い選手層は大学ナンバー1だ。
今回の関東インカレで、青学大の選手の駒澤大への対抗意識は、相当に強かった。佐藤一世は、ラスト、先を行く駒澤大の唐澤に追いつこうと必死の走りを見せた。
レース後、佐藤一世は悔しそうな表情を見せて、こう言った。
「今年は、駒澤大に負けたくないです。昨年はあれだけの差を見せつけられ、圧倒されて負けました。自分だけではなく、みんな、駒澤大は倒すべき相手だと思っているので、そのためにも今回のレースも勝ちたかったんですが......他のレースでは勝っていきたいと思います」
田中も「昨年、駒澤大は3冠という成績を残したので、自分たちも負けてられない。強い選手が揃っているので、同じレースで当たれば意識しますし、負けられないです」と、佐藤一世と同じくふだんのレースから駒澤大に勝ち、勝ち癖をつけていきたいと考えている。どんなレースでもコツコツと勝ちを重ねていけば、駒澤大に負けないメンタルが身についていくだろう。
そうして目指すは、箱根駅伝の王座奪還になる。
志貴は、そのために不可欠な要素があるという。
「チーム作りは、全体で取り組んでいきますが、そのなかでも4年生である僕たちがチームを引っ張っていかないといけないですし、チームとしてまとまりも出てこないと思います。今回、(佐藤)一世や山内が10000mや1500mで入賞してくれたのを見ていると4年生として引っ張っていく意識が出てきているのかなと思いました。同時に、自分も(勝利の場に)戻ってこなくちゃいけない選手だと思うので、関東インカレでの負けを次のレースに活かして4年生としての強さを見せていきたいと思います」
原晋監督は常々、「駅伝は4年生の力が重要」と語っている。これから志貴キャプテンが結果を出し、4年生がチームを引っ張る流れができたなか夏合宿で走力をつけることができれば、秋は実りの季節を迎えることができるはずだ。そうやって青学大は、これまで勝ってきた。
今年の青学大のスローガンは、「All For Green」。
果たして、3大駅伝すべてを青学カラーに染められるか──。