メッシの目の前にある移籍の選択肢は4つか。そのなかでバルサ復帰が有力視される理由
メッシのパリ・サンジェルマン(PSG)との契約は2023年の6月30日まである。本人が望めば2024年までのオプションがついているため、PSGは延長の交渉をしていると言うが、奇跡でも起こらない限りメッシが残ることはないだろう。メッシはPSGに来た日から今まで、ずっと幸せではなかったはずだ。そもそもパリに来たこと自体、PSGでプレーしたい気持ちより、どちらかというとバルセロナへの復讐でもあった。代理人を務める父親のホルヘ・メッシも、「この移籍は間違いだった」と内々に認めたと言われている。
メッシ本人もアントネッラ夫人も子どもたちも、言葉の通じない新しい環境に馴染めなかった。2人の監督ともうまくいかず、サポーターともうまくいかない。メッシが世界王者になったあとも、パリのサポーターは何度も彼にブーイングを浴びせた。チャンピオンズリーグ(CL)優勝の望みがまたしても絶たれ、格下チームに負けてリーグ優勝が先延ばしされると、「出て行け!」のコールが彼に降り注いだ。
パリ・サンジェルマン退団が決定的だと言われているリオネル・メッシ photo by AP/AFLO
また、チームは先日、メッシに2週間の出場停止を課した。これはメッシがチームに無断でサウジアラビアに行き、練習を欠席したからだと言われている。つまり、練習を勝手に休んだことが理由だとされているのだが、それだけではない部分もあるのではないか。
メッシは2022年からサウジアラビアの観光大使を務めている。今回の渡航もそのプロモーションの一環だった。だが、PSGの実質のオーナーであるカタールは、サウジアラビアとは犬猿の仲だ。2017年には国交を断ったこともある。自分のチームの選手がサウジアラビアに近しいことは面白くないだろう。
とにかく、この2週間のペナルティ(その後、メッシは謝罪の動画をインスタグラムに投稿。これが評価されてペナルティの期間は短縮され、メッシは練習に復帰している)は、メッシにとって移籍を決意する最後の後押しになったと思われる。
では、晴れて自由の身となったメッシはいったいどこに行くのか。現時点で、可能性は4つある。
【大金を用意しているサウジアラビア】
まずは彼が観光大使を務めるサウジアラビア。現在世界で唯一メッシに正式なオファーをしているのはアル・ヒラルで、年間4億ユーロ(約600億円)というとてつもない報酬を提示している。今回のメッシのサウジ行きはそれも関係したのではないかと言われている。また同じサウジのアル・ナスルが、水面下でメッシに6億ユーロ(約900億円)のオファーをしているという噂もある。もしそれが実現すればメッシとクリスティアーノ・ロナウドが同じチームでプレーすることになる。サウジアラビアは「Vision2030」と銘打って、2030年までにサウジアラビアのイメージを変えていくプロジェクトを進めている。メッシはそのプロジェクトの重要な駒であると考えられている。
しかし、メッシがサウジアラビアに行くことには多くの人が批判的だ。そもそも彼が観光大使になったこと自体「人権のない国の片棒を担ぐのか」「キャリアの汚点となった」と非難されている。例えば元オランダ代表のマルコ・ファン・バステンはブラジルのテレビ番組のインタビューで、強い言葉でこう語った。
「もしメッシがサウジに移籍したら、それは何とも貧しい決断だ。これまで多くの金を儲けてきたというのに、まだ自分の情熱ではなく、金で動くのか」
次に可能性があるのはアメリカのユナイテッド・マイアミ。共同オーナーであるデイビッド・ベッカムはもう何年も前からメッシにラブコールを送り続けている。またチーム名は判明していないが、マイアミの他に複数のMLSのチームがメッシに興味を示しているという。もしアメリカに行ったなら、パリでのようにサポーターにブーイングされることもなく、心穏やかにプレーできるだろう。報酬も悪くないはずだ。ただ彼がまだ代表でプレーを続けたいと思うなら、アメリカ行きは名案ではない。
最近になって浮上してきているのがプレミアのニューカッスル。今、世界で一番金持ちと言われるチームだ。バックにはメッシと関係の深いサウジアラビアがついている。巷ではネイマールがニューカッスルに移籍するのではとも噂になっているが、ネイマールの友人によると、実はニューカッスルはネイマールとメッシのふたりをそろってほしがっているという。彼らを同時に奪えれば、サウジアラビアにとっては快挙だろう。
【ネックはサラリーキャップだが...】
そして最後はバルセロナだ。メッシが本当に望んでいるのは古巣への帰還だろう。家族もバルセロナに帰ることを強く望んでいる。バルセロナのサポーターも一時期はメッシを恨んだが、今はまた彼を歓迎したい気持ちになっているし、ラ・ポルタ会長は彼を取り戻すためには何でもしたいと思っている。
ただし、選手やチームの意向だけでは決められない。彼らの前にはサラリーキャップという高い壁が立ちはだかっているのだ。メッシが出ていった時から、バルサの経済状況は改善されてはいない。チームの財政を適正に保ちつつメッシの給料を払うには、何人もの高給取りの選手を手放す必要がある。ラフィーニャ、フェラン・トーレス、アンス・ファティ......実際そのうちの多くに移籍の噂が出ているし、セルヒオ・ブスケツにいたっては退団が決まっている。
また、メッシ自身も年俸をかなり下げなければいけなくなるだろう。今のバルサは年俸1300万ユーロ(約19億5000万円)ぐらいしかメッシには払えないと言われている。メッシのPSGでの年俸は4000万ユーロ(約60億円)なので、かなりの減額だ。
数日前、バルセロナはリーガ・エスパニョーラに今後の経営再建プランを提出した。そこに何が書かれているのかは知る由もない。だが、もしそれがメッシ込みのプランであり、リーガも納得いくものならば、メッシの帰還の可能性はずっと高くなる。バルセロナの経済面がクリアになるなら、実はリーガもメッシに戻ってきてほしいのだ。リーグはより活気づき、観客も増え、テレビ放映権も上がり、スポンサーも増えるに違いない。
いずれにせよシーズンが終了するまで、メッシは何も言うことはできない。彼の代理人である父も、「お願いだから静かに見守ってほしい」と再三言っている。
ただし、私はメッシがバルセロナに戻ると思っている。
皆さんは南米人のメンタリティーをご存じだろうか。我々にとっては、慣れ親しんだ家と感じられるような場所にいることが何よりも大事なのだ。選手の場合、活躍をするには必要不可欠でもある。
バルセロナ以外にメッシが心から居心地よくプレーできる場所はない。パリで受けた冷たい仕打ちで、彼はより強くそれを感じているに違いない。マイアミもニューカッスルもサウジアラビアも、彼には見知らぬ新しい土地だ。ニューカッスルでネイマールとまた一緒にというアイデアは多少気になるかもしれないが、メッシがバルサにひと足早く行き、その後、ネイマールを呼び寄せる可能性もある。
そう思う根拠となるキーパーソンがふたりいる。ひとりはバルセロナ監督のシャビ・エルナンデス。PSGで監督との確執が続いたメッシにとって、気心の知れたかつての盟友のもとでプレーできることは願ってもないことだろう。そしてもうひとりはアンドレス・イニエスタ。仮に日本からスペインに戻った場合、彼はそのままバルサの幹部になるという噂がある。もしそうであれば、メッシの居心地はさらによくなるに違いない。
メッシの去就について、カタルーニャのメディアは最近、わざとらしいほど沈黙を守っている。PSG退団がよりスムーズにいくよう、できるだけ波風を立てないようにしている気がしてならないのだ。
選手メッシの最終章が、ほどなく始まろうとしている。