ソールオリエンスの二冠達成の可能性は? 日本ダービーの行方が見える「3歳牡馬ランキング」
今年の3歳牡馬路線は、クラシック開幕前までは「本命なき戦い」と言われるほどの大混戦だった。しかし、第1弾のGI皐月賞(4月16日/中山・芝2000m)で、ソールオリエンス(牡3歳/父キタサンブラック)が無傷の3連勝を決めて完勝。4コーナー最後方から豪快な決め手を繰り出して、ライバルたちをねじ伏せた。
その圧巻の走りによって、牡馬クラシック戦線は混戦模様から一転、"一強"ムードに様変わり。次なるGI日本ダービー(5月28日/東京・芝2400m)に向けては、「打倒ソールオリエンス」が最大のテーマとなりそうだ。
GI皐月賞ではソールオリエンス(写真左)が圧巻のレースを見せて戴冠を遂げた
そうしたなか、ダービー出走の最終切符を争うトライアル戦からも新興勢力が次々に名乗りを挙げてきた。GII青葉賞(4月29日/東京・芝2400m)ではスキルヴィング(牡3歳/父キタサンブラック)が、GII京都新聞杯(5月6日/京都・芝2200m)ではサトノグランツ(牡3歳/父サトノダイヤモンド)が、それぞれ3連勝で勝利。ダークホース以上の存在として、ダービーへと駒を進めてきた。
また、リステッド競走のプリンシパルS(5月6日/東京・芝2000m)では、パクスオトマニカ(牡3歳/父ヴィクトワールピサ)が逃げきり勝ち。大一番への出走権を獲得した。
こうした前哨戦組に加えて、GIホープフルS(12月28日/中山・芝2000m)の勝ち馬ドゥラエレーデ(牡3歳/父ドゥラメンテ)が、海外重賞のUAEダービー(2着。3月25日/UAE・ダート1900m)を経て、ダービーに参戦。競馬界最高峰の舞台へ、いよいよ役者がそろった印象だ。
そこで今回は、その3歳馬の頂上決戦に挑む面々の『Sportivaオリジナル番付(※)』を発表したい。
※『Sportivaオリジナル番付』とは、デイリー馬三郎の吉田順一記者、日刊スポーツの木南友輔記者、JRAのホームページでも重賞データ分析を寄稿する競馬評論家の伊吹雅也氏、フリーライターの土屋真光氏、Sportiva編集部競馬班の5者それぞれが、まもなく行なわれる日本ダービーに臨む3歳牡馬の実力・能力を分析しランク付け。さらに、そのランキングの1位を5点、2位を4点、3位を3点、4位を2点、5位を1点として、総合ポイントを集計したもの。
1位は、皐月賞で超絶なパフォーマンスを披露したソールオリエンス。24ポイントを獲得して、前回の2位からついに首位に立った。このまま、史上最少キャリアでの二冠達成となるのか、大いに注目される。
吉田順一氏(デイリー馬三郎)
「皐月賞で示した豪脚は強烈なインパクトを残しましたが、あれは馬場と展開によるものが大きいと見ます。芝の塊が飛ぶタフな渋化馬場で、2分00秒6の決着。前半1000mが58秒5という速い流れのなか、前目で運んで内側を通った馬たちは壊滅状態となり、中団から外を回る馬が上位を独占しました。
当馬は4角手前から踏みながらも、相変わらず逆手前でエンジンのかかりが遅かったのですが、最後にしっかり追い出せたことがゴール前の爆発力につながりました。
つなぎは短めで、ストライドを大きく伸ばすタイプではありませんが、クッションがあることで、ある程度長くいい脚を使えます。これは、良質なキタサンブラック産駒の特徴。加えて、この馬は回転の速さもあるため、同じキタサンブラック産駒のイクイノックスやスキルヴィングより、爆発力があります。
その分、距離適性は少し短いかもしれません。それでも折り合いひとつで、同世代の芝2400m戦は問題ないと思います。まだ若さはあるものの、レースを使うごとの伸びしろは大きく、内と前が強すぎるトラックバイアスがなければ、二冠達成の可能性は十分にあります」
木南友輔氏(日刊スポーツ)
「混戦だった3歳牡馬戦線を、皐月賞の走りで"一強"評価に変えました。展開がハマったのもありますが、差しきった脚がケタ外れなのも間違いありません。しかし、舞台も替わるダービーでは、高速決着に対応できるかどうか。そこが、ポイントになりそうです」
伊吹雅也氏(競馬評論家)
「5月14日終了時点の本賞金は2億4700万円。一走あたりの賞金は8233万円で、いずれの数字もJRAに所属する現3歳世代の馬としては単独トップ。無敗の皐月賞馬ですから、相応に高く評価せざるを得ません。
ただ、皐月賞の4コーナー通過順が17番手だった点は若干気がかり。近年の日本ダービーは、どちらかと言うと先行力のある馬が優勢で、前走の4コーナー通過順が6番手以下だった馬は2019年以降、2勝、2着0回、3着2回、着外35回(3着内率10.3%)とやや安定感を欠いています。
その一方で、前走の4コーナー通過順が6番手以下、かつ前走のレースが皐月賞で、上がりタイムの順位が2位以内だった馬は2019年以降、2勝、2着0回、3着1回、着外3回(3着内率50.0%)というデータもあります。
さすがに皐月賞で出走メンバー最速の上がりをマークした同馬なら、評価を下げる必要はありません。ある程度は信頼してよさそうです」
2位は、皐月賞で1番人気に推されたファントームシーフ(牡3歳/父ハービンジャー)。結果は3着だったものの、レースの内容自体は悪くなく、今度は相性のいい東京競馬場に替わることもあって、評価を上げた感がある。
土屋真光氏(フリーライター)
「皐月賞では押し出される形での1番人気でしたので、3着という着順でも"人気を裏切った"という印象はありません。むしろ、勝負どころで大外を回されながら、長く脚を使って上がってきたことは評価できます。
しかもその間、"さぁ、伸びるぞ!"というところで前を少しカットされて、立て直す不利がありました。それを考えれば、"勝てた"とは言いませんが、もう少し接戦に持ち込めたのではないでしょうか。
また、ハービンジャー産駒でパワーの要る馬場は歓迎ですが、渋った馬場は歓迎でなかったと思われます。その点を踏まえれば、今の東京の馬場はこの馬にピッタリ。人気が落ちるようならもう一度、積極的に狙っていきたいです」
木南氏
「前走は、最後の直線でさばきながらの競馬をして、しっかりと3着を確保。ダービーには"テン乗りが勝てない"ジンクスがありますけど、武豊騎手とのコンビなら......という期待はあります」
3位には、2頭がランクイン。まずは、青葉賞を制したスキルヴィングが圏外から一気に浮上してきた。ソールオリエンスと同じキタサンブラック産駒。"青葉賞組はダービーを勝てない"のジンクスを崩せるか、注視したい。
吉田氏
「未勝利(11月19日/東京・芝2000m)→1勝クラスのゆりかもめ賞(2月5日/東京・芝2400m)→青葉賞と、3連勝を飾ってダービーの舞台へ上がってきました。キタサンブラック産駒らしいつなぎのクッション性があり、頭が高めで重心のブレが少ない走り。父が同じイクイノックス同様、踏んでいって長く脚を使えるタイプです。
鞍上は、ギアを少しずつ上げながらゴールまで脚を使わせることに優れたクリストフ・ルメール騎手。キタサンブラック産駒と、一番相性のいい乗り役です。
青葉賞の状態を維持することは優しくはないと思いますが、1週前追い切りでは長めからしっかりとやれた点は好材料。ダービーの舞台適性では、皐月賞組を上回っているイメージがあります」
3位に入ったもう1頭は、皐月賞で2着と好走したタスティエーラ(牡3歳/父サトノクラウン)。皐月賞は完璧な内容だっただけに、ダービーでそれ以上の走りができるかどうか。戴冠へのハードルは決して低くはない。
伊吹氏
「5月14日終了時点の一走あたりの賞金は3675万円で、JRAに所属する現3歳世代の牡馬としては、ソールオリエンスに次ぐ単独2位。一走あたりの賞金は、成績の優秀さとキャリアの浅さを掛け合わせた指標ですから、この数値が高い本馬は"伸びしろのありそうな実績馬"と言えるでしょう。
逆に言うと、ソールオリエンス以外の牡馬は、一走あたりの賞金がタスティエーラを下回っているわけで、新興勢力を過大評価してしまわないよう心がけたほうがいいかもしれません。
近年の日本ダービーは、ホープフルS、弥生賞、皐月賞で健闘した馬が堅実。"中山・芝2000m、かつGI・GIIのレース"において、3着以内となった経験がある馬は2019年以降、2勝、2着4回、3着4回、着外13回(3着内率43.5%)と安定しています。どちらかと言うと、先行力のある馬が優勢なレースでもあり、無事に出走してきたら楽しみです」
5位は、ドゥラエレーデ。昨年末のホープフルSの覇者で、皐月賞に出走していれば、それなりの人気になったはず。海外帰りでどんなレースを見せるのか、楽しみだ。
土屋氏
「GIII東京スポーツ杯2歳S(4着。11月19日/東京・芝1800m)でも、先行勢では唯一上位に残っています。それを思えば、ホープフルSは(14番人気と)人気がなさすぎました。
その後、海外のダート重賞で先行して2着。まったく異なる性格のレースでここまで安定して走れているのは、相当なポテンシャルを秘めているように思えます。
父は大当たりを出し続けているドゥラメンテ。同世代ではリバティアイランドだけじゃなく、シャンパンカラーもGINHKマイルCを制しました。この勢いも無視できません」
皐月賞前とはまた、大きくランキングが入れ替わった3歳牡馬戦線。はたして、ソールオリエンスがダービーでも驚異的な強さを見せるのか。あるいは、レース巧者が王者を出し抜くのか。熾烈な争いから目が離せない。