5月20日、トップリーグ時代も含めて過去最多となる41,794人のファンが詰めかけた東京・国立競技場で「リーグワン・ディビジョン1」のプレーオフ決勝が行なわれた。

 3連覇を目指した埼玉パナソニックワイルドナイツ(リーグ戦1位)は、初優勝を狙うクボタスピアーズ船橋・東京ベイ(リーグ戦2位)と激突。「逆転の埼玉」の異名どおり、ワイルドナイツは後半25分にルーキーWTB(ウィング)長田智希のトライで15-12と逆転する。しかし4分後、スピアーズにトライを奪われ15-17でノーサイド。3連覇の夢は国立で散った。


絶対王者ワイルドナイツはなぜ負けてしまったのか

「今日はスピアーズさんが強かったし、チームがうまくいっていない時間帯も多かった。だが、勝つか負けるかゲームとしてわからないところまで居続けたのは、チームの力、みんなの力。今日だけでなく、今シーズン戦い続けたチームを誇りに思う」

 日本代表キャプテンでもあるHO(フッカー)坂手淳史主将は試合後、ワイルドナイツの今シーズンをこう振り返った。

 リーグ戦は15勝1敗。プレーオフ準決勝でも横浜キヤノンイーグルスに51-20と快勝。坂手も「試合に入る前の準備が悪かったわけじゃない。自信を持って迎えた」と話していたとおり、3連覇に死角はないと思われていた。

 ではなぜ、ワイルドナイツは勝てなかったのか──。

 南アフリカ代表HOマルコム・マークスを軸にリーグ屈指のFWを擁するスピアーズに対し、ワイルドナイツはボールを動かして相手を疲れさせるゲームプランだった。しかし、試合序盤から攻守にわたってスピアーズのプレッシャーを浴びて、受けにまわってしまった。

 特にスピアーズの前に出るディフェンスに、ワイルドナイツBK陣の展開力は封じられ、次第にFW戦へと持ち込まれた。それはイコール、相手の土俵に引っ張られたことを意味する。SO(スタンドオフ)松田力也が「少し相手に飲まれてしまった」と言うように、相手陣で戦う時間が増えたことにより、前半だけで3本のペナルティゴールを許した。

【堀江翔太が語った王者の敗因】

 一方、反撃の糸口を探りたいアタックでも、前半8分にはゴール前でノックオンを犯し、前半21分のチャンスでもスクラムを落とすなど、なかなか得点につなげられない。ワイルドナイツの伝統「堅守速攻」でカウンターを仕掛けるが、簡単なミスで何度も好機を失った。

「相手のプレッシャーは強かったが、自分たちで焦りすぎたところもあった。決勝という大きな舞台で、ひとつのミスが次のミスを生んだ。負のスパイラルの時間帯があった。個人プレーも多かったので、もう少しつながりたかった」(坂手)

「(国立競技場という)いいスタジアムでの決勝の舞台で、一人ひとりがいつもよりちょっと足をためる(出るタイミングを調整する)のが速くなったりしてパスが通らなかった」(松田)

「前半は規律が守れていなかったし、トライのチャンスも何個かあったが取れなかった。相手がどうこうより、自分たちから崩れてしまった」(SH=スクラムハーフ内田啓介)

 ワイルドナイツの選手は皆、いつもと違うミスの多さを悔いていた。

 名将ロビー・ディーンズ監督は「3連覇という言葉は使っていない。連覇は過去のこと。この1年、このチームのメンバーで、目の前の努力が大事になってくる」と選手たちに話していた。だが、メンタル的に少なからず「勝てるのでは......」との油断はあったのかもしれない。

 ワイルドナイツの精神的支柱であるHO堀江翔太はこう語る。

「前半は3本くらい(トライを)取れるところはあったが、決勝の舞台で(連覇の)プレッシャーを感じていたのかな......。個人的に(3連覇の)先を見ちゃった人がいたかもしれない。やっぱり、ラグビーはメンタル競技な部分がある」

 ただし後半のワイルドナイツは、ディフェンディングチャンピオンらしいプレーも見せた。

 堀江、PR(プロップ)クレイグ・ミラー、SO山沢拓也といった国際経験豊富なリザーブメンバーを投入した後半18分、モールを押し切って堀江がトライ。さらに後半25分、今季好調のフェーズアタックがやっと機能し、最後は山沢から長田に絶妙なパスが通ってトライを奪い、15-12と逆転に成功した。

【名将ディーンズが残した言葉】

 悔やまれるのは後半29分、名手のFB(フルバック)野口竜司がスピアーズのハイパントキックをキャッチミスしたプレーだろうか。その流れからトライを奪われ、15-17の再逆転につながってしまった。

 このシーンについて、坂手は「勝負のアヤがどういう形で進むか、どう転ぶかはわからない。今日はそれがクボタさんに入った。時の運でもある」と言い、堀江も「最後にサイコロ(の目)でクボタが出た。うちのチームでハイボールキャッチが一番うまい(野口)竜司が取れなかったら、誰も取れないのでしょうがない」とチームメイトをかばった。

 ただ、残り10分もあってペナルティゴール1本で逆転できる状況のなか、ラインアウトでのミスやBKの連携ミスも起きてしまった。PR稲垣啓太は「修正できたと思ったら、相手にいいトライを与えてしまった。修正しきれなかったのが敗因だと思います」と語った。

 昨シーズン、ケガによってプレーオフに出場できなかった司令塔の松田は、目を赤くしてその想いを語った。

「悔しさしかない。ワイルドナイツのラグビーを出しきれなかった。プレーの精度で引っ張りたかったが、打開できなかった。今後のラグビー人生につなげていきたい」

 スピアーズの攻守にわたる圧力、そして自分たちで作り出してしまったプレッシャーの前に、最後まで歯車を噛み合わせることができなかったワイルドナイツ。それでも、リーグワンが始まって2シーズン、リーグ戦で通算29勝3敗(コロナ禍の影響による不戦敗ふたつを含む)と無類の強さを誇っている事実に変わりはない。

「これまでやってきたことは、間違えていたわけじゃない。負けてしまったが、何かが変わるわけでもない。これからも自信を持っていきたい。みんなもう1回やり返したいと思っているので、ここに戻ってくるために何をすべきか考えたい」(坂手)

 今回の敗戦から、ワイルドナイツは多くのことを学んだはずだ。来シーズン、さらなる進化を果たして戻ってくることは間違いない。

「We'll Be Back」

 ディーンズ監督は語気を強めて、国立のスタジアムをあとにした。