アメリカニューヨークにはエンパイア・ステート・ビルディングをはじめとする数多くの高層ビルが建設されています。ロードアイランド大学のトム・パーソンズ氏らの研究チームが新たに発表した研究結果では、ニューヨークは高層ビルの重量によって年間1〜2ミリメートル沈んでいる可能性が示されました。

The Weight of New York City: Possible Contributions to Subsidence From Anthropogenic Sources - Parsons - 2023 - Earth's Future - Wiley Online Library

https://doi.org/10.1029/2022EF003465



New York City May Be Sinking Under the Weight of Its Skyscrapers | Architectural Digest

https://www.architecturaldigest.com/story/new-york-city-may-be-sinking-under-weight-skyscrapers



New York City Could Be Sinking Under The Weight of Its Skyscrapers : ScienceAlert

https://www.sciencealert.com/new-york-city-could-be-sinking-under-the-weight-of-its-skyscrapers

パーソンズ氏らの研究チームは、ニューヨーク氏に存在する、道路や歩道、橋、鉄道、その他の舗装地域を除く100万を超える建物の累積質量を概算しました。計算の結果、ニューヨーク市の累積質量は約1兆6800億ポンド(約7億6400万トン)と推定されました。

次に研究チームはニューヨーク氏を100×100メートルの正方形に分割し、建物の質量が地面の大部分を構成する粘土や砂、シルトなどの堆積物に及ぼす下向きの圧力を計算しました。ニューヨークの地盤にかかる圧力を示した図が以下。Bの図では中央のマンハッタン区の一部地域が赤く示されており、地盤に強い圧力がかかっていることが確認できます。



研究チームによる計算の結果、地盤沈下に関係する沈下率は1年間で平均1〜2ミリメートルであることが判明しました。また粘土が豊富な土壌のロウアー・マンハッタンやブルックリン区とクイーンズ区の一部の地域では特に沈下率が高いことが明らかになりました。

一見すると年間1〜2ミリという沈下率はそれほど高くないように見えますが、パーソンズ氏はこの沈下率について「将来的にニューヨークの沿岸部に深刻な問題を引き起こすのに十分過ぎます」と警告しています。パーソンズ氏らによると、ロウアー・マンハッタンの多くが海抜1〜2メートル以下の地点にあり、潜在的に洪水のリスクが高いとされています。加えて地球温暖化による気候変動と海面上昇、ハリケーンの規模の拡大に伴い、ロウアー・マンハッタンを含む沿岸部などの地域においてさらなる洪水のリスクが高まっています。

これまでにも2012年のハリケーン「サンディ」や2021年の「アイダ」によってロウアー・マンハッタン地区は浸水や停電などの被害が発生しています。

パーソンズ氏は「度重なる洪水によって建物の基礎が海水などに繰り返しさらされると、建物を構築する鉄筋が腐食するだけでなく、コンクリートがもろくなり、建物の強度が低くなって最終的には倒壊のおそれがあります」と指摘しています。またパーソンズ氏は、ニューヨークの開発者は依然として地盤沈下のリスクを十分に受け止めていないと主張し、「ニューヨークは沿岸部の洪水リスクが世界第3位であるにもかかわらず、ハリケーン『サンディ』後に建設された約6万7000件の構造物のうち約90%は、洪水リスクに対する基準に従って建設されていません」と警告しています。



パーソンズ氏はさらに「ニューヨークは地盤沈下が進んでいることが観測されている沿岸都市の象徴的な存在で、世界中で増大する地盤沈下に伴う浸水のリスクに対する対抗策という世界的な課題をニューヨークも抱えています」と述べています。科学系ニュースメディアのSceinceAlertはは「地盤沈下が進むニューヨークにはすでにたくさんの高層ビルが建設されてしまっています。一概にこれらの高層ビルを解体するのではなく、温室効果ガスの排出を制限するなどの措置を行い、気候変動を抑制することで、海面上昇や巨大ハリケーンなどの将来的なリスクを軽減することが可能です」と語っています。