写真の加工やイラストの仕上げなどで、Adobe Photoshopは欠かせないツールのひとつとなっています。Photoshopはツールの名前でありながら、英語では「Photoshop」という動詞として用いられることがあります。ソフトのリリースから約20年たって「Photoshop」という動詞が普及した経緯について、テクノロジー系メディアのThe Vergeが解説しています。

How photoshop became a verb - The Verge

https://www.theverge.com/2020/2/19/21143794/photoshop-30th-anniversary-adobe-verb-origin-story



Adobe Photoshopは1990年に最初のバージョンであるPhotoshop 1.0をリリースしました。The Vergeによるとリリースからわずか数年後にはインターネットのブログやコメントなどで「Photoshopする」という用語が用いられていたそうです。1999年10月にはWiredが「Photoshopped set designs(デザインセットをPhotoshopした)」と記事中で表現していたり、インターネットカルチャーに焦点を当てたユーモアサイトのサムシング・オーフルは2001年に初めて「Photoshop」という動詞を使用していたり、ガジェット系メディアのEngadgetは2004年に「Photoshopped an image(画像をPhotoshopした)」と書いていたりと、テクノロジー系のメディアでは初期からPhotoshopという動詞の使用が見られています。



また、主流の出版物における「Photoshopする」の使用は少し遅れて確認されています。ニューヨークタイムズは2006年に「a model whose body was “apparently Adobe Photoshopped(明らかにAdobe Photoshopされたモデル)」と書いており、ウォール・ストリート・ジャーナルも2006年の記事中で「he has Photoshopped it in his mind(彼は心の中でPhotoshopした)」と比喩的に用いて「Photoshop」という動詞を使用しています。

しかし、「photoshop an image(画像をPhotoshopする)」という言い方はなかなか普及することはなく、あくまで「edit an image with Photoshop(Photoshopで加工する)」という表現が一般的でした。The Vergeによると、Photoshopのリリースから20年間は一部で「Photoshopする」という表現が用いられるものの普及することはなく、広く受け入れられるようになったのはここ10年となっているとのこと。「Photoshopする」という用語の普及にAdobeが直接働きかけたわけではありませんが、2009年の報告書ではPCソフトの40%以上が海賊版であると推定する報告書が作成されたように、Photoshopがより広くアクセスされるようになったことから、動詞としての「Photoshop」という用語も広まりつつあったとThe Vergeは指摘しています。

2000年代後半に「Photoshopする」という用語の使用量が増加したことを見て、参考図書を出版するアメリカのメリアム・ウェブスターは2008年に動詞としての「photoshop」を辞書に追加しました。メリアム・ウェブスターの上級編集者であるエミリー・ブリュースター氏は「使用量が増えるにつれて、それが簡単に消えてしまう単語ではないということは明らかでした。動詞としての使用は、動作を指すのに効率的すぎるのです。特に、名詞が何かを行うプロセスや方法を指す場合、それは動詞への変換に非常に適しています」と語っています。



メリアム・ウェブスターによると、最も初期の「Photoshopする」の使用は、1992年にインターネットディスカッションシステムのUsenet内に見られたそうです。ほかにも、古いフォーラムやウェブサイトで「Photoshopped」「Photoshopping」といった使い方が見られており、次第に広まっていきました。伝統的な出版物は、読者に一般的に理解されるまで口語的な言葉の採用を避けますが、それらの出版物に「Photoshopする」が広く使用されるようになったことで、メリアム・ウェブスターは「新しい単語」として承認する判断をしたとのこと。

近年ではさらに、「Photoshopする」という言葉は「Photoshopなどの画像加工アプリを使って画像を編集する」という意味だけではなく、「嘘をつく」という意味で用いられるようになっています。「ヒップホップの新王者」と呼ばれるアメリカのラッパーであるケンドリック・ラマー氏は「Humble」という曲の中で「フォトショップなんてもううんざりだ。何か自然なものを見てほしい」と歌っていたり、ラッパーであり実業家でもあるジェイ・Z氏は「Everything is Love」の中で「フォトショップは使わない、ただ現実の生活だけ」と結婚について語っていたりと、「Photoshop」が「偽物、嘘をついたもの」と表現されています。

Photoshopは商標登録された単語であり、口語的に動詞として用いられたり、一般的な用語になりすぎたりすると、商標の普通名称化によって商標としての機能が失われる場合があります。実際に、「エスカレーター」はもともと企業名でしたが、その名称が一般的になりすぎたため普通名詞となって企業は商標を失った例があります。しかしAdobeは、「Photoshopする」という動詞の使用を推奨こそしていませんが、動詞の使用を避けるよう指示することはしていません。The Vergeの取材に対し、Adobeは「私たちはPhotoshopブランド、文化における地位、そしてすべての人の創造性を促進するうえで、Photoshopが果たし続ける役割を非常に誇りに思っています」と回答しています。