横浜中華街発展会協同組合は、横浜春節祭2023において「春節デジタルスタンプラリー」を実施した。この新しい取り組みを支援したのが、NTT東日本 神奈川事業部だ。デジタルスタンプラリーの目的とその効果について詳しく聞いてみたい。

チャーシューが有名な中華料理店「一楽」でお話を伺った

○横浜中華街の春節と横浜春節祭の違い

国内外から多数の観光客が訪れる横浜中華街。その知名度は非常に高く、中華街といえばまず最初にここが思い浮かぶ人は多いハズだ。そんな横浜中華街が旧正月の時期に開催しているのが「春節」というお祭り。中国の伝統文化を守り発展させていくために1986年から始めた催しだったが、すでに37回を数える人気イベントとなっている。

「もともとは小さな商店街だった横浜中華街のお祭りが、多くの観光客を呼ぶようになりました。多くの方に来ていただけるようになったのなら、地域に恩返しをしなくてはなりません。この集客力を生かして2022年から始めたのが『横浜春節祭』です」(横浜中華街発展会協同組合 副理事長 広報部長 石河陽一郎氏)

横浜中華街発展会協同組合 副理事長 広報部長 石河陽一郎氏

横浜春節祭の大きな目玉は「春節デジタルスタンプラリー」。これは横浜中華街2カ所、横浜ベイエリア13カ所に展開されたランタンオブジェに訪れると、スマートフォンにスタンプが付与されるというイベントだ。集めたスタンプは「紅包(ほんぱお)くじ」と交換でき、運が良ければ横浜中華街の食事券やホテル宿泊券などの賞品をゲットできる。

横浜春節祭2023「春節デジタルスタンプラリー」で配られたチラシ

「横浜駅やみなとみらい、赤レンガ倉庫、中華街といった各エリアは別の街のように捉えられていますが、実は横浜駅から中華街までは3キロほどしか離れていないのです。実際には近くて、歩こうと思えば歩ける距離なんですね。周遊できるエリアだと体感してもらいたいと思いました」(横浜中華街発展会協同組合 理事長付きアドバイザリー 安東千幸氏)

横浜中華街発展会協同組合 理事長付きアドバイザリー 安東千幸氏

1〜3月は観光において閑散期だが、横浜中華街は春節によって繁忙期を迎える。「さっぽろ雪まつり」が冬の札幌を観光繁忙期に変えたように、「横浜春節祭」で冬の横浜に観光客を呼び込む狙いもあったという。

この取り組みに使用されたのが、横浜市と横浜観光コンベンション・ビューローが、NTT東日本の運用協力のもと構築した、観光・回遊促進プラットフォームである、「横浜デジタルMAP」だ。 「横浜デジタルMAP」 では、QRコード、クイズ/キーワード、GPS、NFCタッチなど、さまざまな方式から安心・安全なオリジナルのデジタルスタンプラリーを構築でき、さらに観光客のデータを詳しく分析する仕組みも提供される。

「NTT東日本は、NTTグループの中でも地域を支えるフロント企業です。プラチナラリーも横浜のさまざまなイベントで提供しています。イベントごとに違うシステムを入れるとそのぶんコストが掛かりますし、スタンプポイントは同じ場所になりがちです。であれば、ひとつのプラットフォームとしてだれでも使え、多くの事業者でも参加できるものをということで、『プラチナマップ』を作りました。これを活用したのが『横浜デジタルMAP』です」(NTT東日本-南関東 神奈川事業部 関内関外街づくり推進部 地域ICT化推進部 兼務 安岡智子氏)

NTT東日本-南関東 神奈川事業部 関内関外街づくり推進部 地域ICT化推進部 兼務 安岡智子氏

「横浜デジタルMAP」には主な観光地などが登録されている。スタンプラリーを企画するときは、登録済みの観光地をそのままスタンプポイントに設定可能。春節デジタルスタンプラリーのようなイベントをすぐに実施することができる。

横浜の観光地がすぐに分かる「横浜デジタルMAP」

○人流データ分析で見えてきた横浜中華街の課題

そもそも横浜中華街が人流データの分析をスタートさせたきっかけは、新型コロナウイルスだったという。来訪者が95%ダウンした時期もあったそうだ。とくにダイヤモンドプリンセス号の停泊による風評被害は甚大で、そのような状況に対する自衛の意味もあった。

「コロナ禍の影響はとても大きく、当時は本当に中華街から光が消えてしまっていました。少しでも雰囲気を明るくするために伝統技術で作ったランタンを灯したら、『お昼でも夜でも綺麗』『灯りがあると安心する』とすごく好評でした」(安東氏)

当時、人流調査を依頼した先はクロスロケーションズ。2020年にレポートを確認すると、これまで漠然とイメージしてきた客層と実際の客層には隔たりがあることが分かったという。

例えば来訪者は8割が東京・神奈川。立地や交通を踏まえると当然だが、想像以上に偏りがあった。都心からのアクセスが良いぶん日中観光が多く、夜間消費や宿泊が弱いという横浜ならではの課題も見えてくる。

また、中華街大通りには10〜20代の客層が目立つが、実は50代が最も多かった。これは若年層ほど食べ歩きを好む一方、中年層・高年層は店舗内で食事を楽しんでいるためと考えられる。この傾向にはコロナ禍も大きく影響しているだろう。一方、60代以降では男性1人で訪れる方が増えるというデータもあった。これは定年退職後の日中に、自由な時間ができたためと考察されている。

「3年ぶりにフル開催した2023年の春節には、おかげさまで15日の間に約70万人の来訪がありました。とはいえ、コロナ禍以前はおよそ90〜100万人でしたから、まだまだ同水準には達していません。また大通りは108%と以前より増加していますが、全体でみると89%です。人流のピークはランチタイムとディナータイムなのですが、まだディナーに人が戻っていません」(石河氏)

ビッグデータから得られる気づきは、横浜中華街の今後を考える大きな指標になっているという。こういった活動が、横浜春節祭の開催へと繋がっていく。

○国交省のモデル事業となった横浜春節祭

ビックデータに大きな価値があると分かっても、やはり一商店街である横浜中華街にその費用負担は重い。そこで横浜中華街発展会協同組合は、国土交通省のビッグデータを活用した実証実験事業の公募に注目。クロスロケーションズからNTT東日本の紹介を受け、見事に41事業体の中から選定された8事業者のひとつとなった。モデル事業なら、国交省が1,500万円まで費用を100%負担してくれる。

「『すでにあるお祭りをより良くする』という案を出したのは私たちだけでした。採用基準の中に横展開があったのが良かったのかもしれません。横浜の課題は周遊性と対流性に尽きます。どのように発展させるかというビジョンを持ち、観光と交通を結んだことが評価されたと感じます」(安東)

こうしてスタートした横浜春節祭では、クロスロケーションズの「Location AI Platform(LAP)」を用いたGPS調査、アドインテの「AI Beacon」を用いたWi-Fi&GPS調査、NTT東日本の「横浜デジタルMAP」上でのデジタルアンケート、現地におけるアナログアンケートという4つの方法で調査が行われた。アナログアンケートでは、4日間で1,500件近い回答が得られたという。

春節デジタルスタンプラリーのWeb画面と現地でのアナログアンケート

15カ所のランタンオブジェをコンプリートした率は約20%と、想像以上に多い。一方で、平均利用金額はコンプリートしていない参加者の方が多いというデータもあった。これは、あまり移動せずにそのエリアで観光を楽しんだということだろう。

またエリアごとの参加者の動きを見るとスタンプラリーの開始・終了ともに元町・中華街エリアが多く、とくに終了エリアにおいては突出していた。また横浜駅エリアや新高島エリアからスタートした参加者は訪問エリア数が多く、一方で新港エリアや元町・中華街エリアからスタートした人は訪問エリア数が少ないが平均利用金額が多いというデータも見て取れた。

○コロナ禍によって生まれた地域との結束力

昨年より始まった横浜春節祭だが、2年目から非常に高い効果を見せているという。横浜中華街発展会協同組合は、中華街をゲートウェイとして、横浜のさらなる発展に貢献していく考えだ。

「コロナ禍以前、横浜中華街には営業や販促を行ったことがない方がいっぱいいました。それでもお客さんが来る街だったからです。しかしコロナ禍で大きな影響を受け、横浜中華街の知名度がいかにすごいのかを皆が認識できたんです。コロナ禍が地域の結束力を育んでくれて、この街と地域を守るという協力意識が生まれました。ありがたいことに、全国のファンの方も頑張りを見て助けてくださいました。その感謝を忘れずにいきたいと思います」(安東氏)

「これまでは中華街を中心に考えてきましたが、我々もまた地域に生かされています。我々が観光客のマグネットになり、そこから横浜という街に送ることで、自分たち含む地域全体の活性化に繋がるでしょう。さらに地域全体がこういった取り組みを行えば、お客さまを互いに送り合えます。"おらが町からみんなの町へ"をテーマに活動を続けていきたいと思います」(石河氏)