統一選・兵庫県三田市の投票済証(NO YOUTH NO JAPAN提供)

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2023年4月9日、23日に投開票が行われた統一地方選挙。SNS上で話題を呼んだのは、各自治体が投票者に交付する「投票済証」だ。人気作家の作品を起用したデザインや、本の栞として使えるものなど、そのポップさが人々の目を惹いた。「おしゃれ投票済証」を手がけた自治体・団体にねらいを聞いた。

鎌倉市は安野モヨコ氏作品を起用

「投票済証なかなかオシャレだった」「めちゃくちゃ可愛い」――。SNS上でこんな声が聞かれたのは、4月9日に投開票が行われた兵庫県議会議員選挙で、三田市(兵庫県)の投票所が交付した「投票済証」だ。

その形は縦長で、「投票済証」の文字をモチーフにしたデザインがあしらわている。投票済証を手がけたのは、一般社団法人NO YOUTH NO JAPAN。同団体は大学生中心のメンバーで構成され、若者に政治への関心を持ってもらうための啓発活動を行っている。担当者は4月28日の取材に、若者の選挙参加を促す目的で「SNSでシェアしたくなるようなポップなデザイン」の投票済証を手がけたとする。普段から選挙のことを話題にしてもらうため、本の栞としても使えるようにした。

同団体では、メンバーが出身自治体で選挙情報などを発信する「VOTE FOR MY TOWNプロジェクト」を実施。活動を進める中、21年7月の兵庫県知事選で三田市に投票済証をポップなデザインに出来ないかと打診したことが、「おしゃれ投票済証」が生まれたきっかけだった。今回の統一選では三田市と豊中市(大阪府)、荒川区(東京都)でデザインを手がけた。担当者は、今後も継続して投票済証のデザインに関わることで「かわいい投票済証の収集を続けよう、選挙に継続して行こうというモチベーションになれば」とした。

鎌倉市(神奈川県)が神奈川県知事選挙(4月9日投開票)で交付したのは、漫画家・安野モヨコ氏による、鎌倉が舞台の児童漫画「オチビサン」のキャラクターをデザインした投票済証だ。市選挙管理委員会事務局の担当者は4月25日の取材に、市議会で若年層啓発のために投票済証をリニューアルした方がいいという意見が出たことを受け、安野氏側に許可を得て採用したと説明。デザインは4種類あり、SNS上で「かわいいー!いいなー」「あれは揃えたくなる」と話題を呼んだ。

それでも全国の投票率は「過去最低」...「まだまだ他にやるべきことがある」

今回の統一選では三田市や鎌倉市のほかにも「おしゃれ投票済証」を導入した自治体があった。神戸市は4月9日の市議会・兵庫県会議員選挙で、神戸の街並みが描かれた投票済証を交付し、SNS上で「かっこいい」と話題に。

品川区(東京都)は4月23日の区議会議員選挙で同区の観光大使を務めるサンリオのキャラクター「シナモロール」などを起用した投票済証を交付した。静岡市は4月9日の市長・市議会選挙の投票済証に、ご当地バーチャルYouTuberの「木乃華サクヤ」を起用。静岡市は22年7月参院選の投票済証に、同市出身の漫画家・さくらももこさんの人気作品「ちびまる子ちゃん」のイラストを起用したことでも話題になった。

ユニークな投票済証が話題を呼ぶ一方、振るわなかったのが投票率だ。4月9日の9道府県知事選・41道府県議選、4月23日の市町村議選・町村長選はいずれも投票率が前回を下回り、過去最低を更新した。

NO YOUTH NO JAPANが投票済証のデザインを手がけた3自治体では、三田市(兵庫県議会議員選挙)の投票率は前回(19年)の39.07%から42.4%と約3ポイント上昇。また荒川区議会議員選挙でも前回(44%)から44.57%に微増した。一方で、豊中市の府知事・府議会議員選挙では府知事選(49.56%→47.93%)、府議会選(49.38%→47.53%)ともに、19年の前回から減少している。安野モヨコ氏作品を投票済証に起用した鎌倉市の神奈川県知事選では、前回の39.9%から32.04%と約7ポイント減少した。

NO YOUTH NO JAPANの担当者は、投票済証のデザインに関わった2自治体で投票率が上昇したことについて「投票済証が要因で投票率が上がったのかまでは断定できませんが、投票率が上がっていることは素直に嬉しいです」と喜びを伝える。

一方で、全体の投票率が低下したことについては「投票済証は選挙について知る、関心を持ってもらうためのきっかけづくりの一つであって、投票率を上げるためにはまだまだ他にやるべきことがあるということを示された結果だと思います」と受け止める。その上で次のように話した。

「投票率を上げるためには、まず、投票率が低い理由を人々の政治関心の低さに矮小化しないことが重要だと考えています。若者の投票率が低いのは若者の意識が低いせいだ、で終わらせるのではなく、関心をもてないようにさせている制度や環境がなんなのか、どういう施策が必要なのか、行政も企業もメディアも社会全体で取り組んでいくことが必要です」