あなたは大丈夫?

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 あなたは「迎え舌」という言葉を知っていますか。「迎え舌」とは、食べ物を口に入れるときに舌を出し、“迎える”ように食べ物を舌で受け止めてから食べる方法を意味するものです。一般的には、食事におけるマナー違反として認識されており、その食べ方を「汚い」「不快」と感じる人は多くいます。ネット上でも「迎え舌の人、本当に無理」「気持ち悪い」「下品な感じがする」「お行儀が悪いよね」と辛らつな声が多く上がっていますが、中には「治したい」「自分も迎え舌だったらどうしよう…」と気にする人もいるようです。

 食事の場で悪印象を与えかねない「迎え舌」は、治すことができるのでしょうか。高谷秀雄歯科クリニック(宇都宮市)院長で歯科医師の高谷秀雄さんに聞きました。

「歯並びが悪い」「口呼吸」など原因多数

Q.そもそも、なぜ「迎え舌」になってしまうのでしょうか。

高谷さん「迎え舌になる理由として、次の10個の原因が考えられます」

【口周りや舌の筋力が弱い】

口周りや舌の筋力が弱いと、食べ物を受け止める力が弱くなり、自然に舌が出てしまうようになります。口を閉じているときは、舌の先端が上の前歯のすぐ後ろの上顎部分についているのが通常ですが、歯に押し付けるように舌を置いていると、舌筋が弱くなり、迎え舌の原因となることがあります。

【顎の発育不足】

顎の発育が悪く、力が弱いと「口を閉じる」ことができず、無意識に口が開いてしまい、結果として舌が出る原因となります。幼少期に軟らかい食べ物ばかりを食べているなど、「よくかんで食べる」習慣がない場合、顎の発育不足を招き、迎え舌の原因になり得ます。

【歯並びが悪い】

歯並びが悪く、かみ合わせが悪いと、口を閉じにくくなってしまうため、迎え舌の原因になることがあります。

【普段から、口がポカンと開いている/「口呼吸」をしていることが多い】

リラックスしているときなどに、自然と口が開いている人は、口呼吸していることが多いです。口が開いているということは、舌が前に出やすい状態になっているため、迎え舌の原因になることが考えられます。

【食事時の一口のサイズが大きい、または一口の量が多い】

たくさんの食べ物を口に入れるとき、またサイズの大きい食べ物を口に入れるときは、口を大きく開ける必要があります。こうした食べ方が習慣化していると、舌が出てしまう原因となります。

【「前歯でかみ、食べ物を受け止める」感覚が薄い】

食べ物を口に入れるとき、本来は舌でキャッチせず、前歯でかみ、受け止めるのが通常です。その意識が薄いと、舌で食べ物を受け止めるようになってしまいます。

【食事時、顔全体が下向きか上向きになっている】

食べるとき、顔が下向きになっている人は「食べ物をこぼさないように」と、舌が前に出てしまうことが多くなります。反対に、顔がやや上向きになっている人も、食べ物をキャッチするように舌が出てしまうことがあります。

【「食事をこぼしたくない」という深層心理】

一口が大きく、一気に食べ物を口に入れようとすることで、こぼさないようにと舌を出してカバーしようとする心理が働きやすくなると考えられます。

【親のしつけがよくなかった】

子どもの頃は、無意識に舌が口から出やすいため、そのまま癖になってしまうお子さんもいます。癖を直すには、食事中に親が注意し、しつけることが大切です。

【食べ物のすくい方が悪い】

すくい方がよくないと、「こぼさず口まで運ばなければならない」という気持ちが先行し、舌が口の外に出てしまいやすくなります。

Q.迎え舌になりやすい人の特徴はありますか。

高谷さん「顎の発育が望める幼少期に、軟らかい食べ物ばかりを食べていると、歯並びが悪くなる原因となり、迎え舌を生じやすくなると考えられます。また、舌は筋肉の働きで、前に出てしまいやすい器官です。歯並びが悪かったり、鼻疾患の影響で口呼吸をしていたりして口が開きがちな人は、前方に舌が出やすくなってしまいます。なお、年齢や性別に有意差はないと思われます」

Q.自分が迎え舌かどうかをセルフチェックする方法はありますか。

高谷さん「簡単に確認するには、自分が食事している様子を鏡で見てみることです。また、食事中の様子を動画で撮影し、自分の姿勢や口周りの筋肉の動き、舌が前に出ていないかどうかを確認することが、最もよいチェック方法といえます」

Q.迎え舌を治すことは可能なのでしょうか。

高谷さん「次の6点を継続的に実践することで、迎え舌が治る可能性があります」

(1)姿勢を正して食べる
(2)食事中、口に運ぶ「一口の量」を少なくする
(3)食べ物を口の中でよくかみ、舌や顔周りの筋力を強化する
(4)普段から「舌を上顎につける」練習をする
(5)食べ物を「前歯で受け止める」ことを意識する
(6)「鼻呼吸」を普段から心掛ける

歯科医院で診療をしている中で、患者さんから直接的に迎え舌の相談を受ける機会はないのですが、舌を前に出す癖がある人の場合は、たとえ食事中の姿を見なくても、歯並びや口周りの筋肉、舌の動きを見れば分かるため、気付いた際は患者さんにお伝えするようにしています。

実際、お子さんの中にも、舌が前に出ようとする際にかかる力が強すぎて、前歯が『出っ歯』の傾向になってしまうケースがみられます。そのため、舌が前に出ることを防ぐ専用の矯正器具『タングクリブ』を使用しているお子さんもいます。気になることが少しでもあれば、歯科医院で一度相談してみるのがよいでしょう」