強盗対策における「3つの壁」とは?

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 日本各地で被害が相次いだ、一連の凶悪な連続強盗事件。暴力という原始的な犯罪を「手っ取り早い」という理由で行う者がいる以上、対策が必要です。

 犯罪者は、少しでも狙いやすい相手をターゲットにします。つまり、犯行のハードルを上げれば、その分だけ犯罪者から敬遠されるのです。ボディーガードは依頼ごとに、アプローチの違う3つの対策を「壁」として、脅威に備えます。壁といっても、物理的な壁とは限りません。『犯行の障害になる要素全て』です。

 今回は、ボディーガード歴27年で、一般社団法人暴犯被害相談センター代表理事を務める筆者が、強盗に有効な「3つの壁」について解説します。

第1の壁「目を付けられない」

 結論から言うと、1つ目の壁は「情報を漏らさない」こと。すなわち、ターゲットに選ばれないことです。

 強盗犯は、押し入り先を決めて犯行に及びます。今回、連日多く報道された強盗事件は、実行犯がSNSでかき集められたという特徴があります。これは「振り込め詐欺」と同じ構造であり、独自に作ったリストからターゲットが選ばれたようです。では、連中はどのようにリストを作成しているのでしょうか。

 情報を集める有力な方法として、アンケートを名目とした「直接電話」があります。名前、住所、年収、現金資産の有無、既婚/未婚、家族構成はもちろん、介護業者を装えば、入居費用の蓄えや子どもの援助など、家族の状況まで聞き出せます。

「知らない者からの質問には答えるべきでない」のが正しいのは当然ですが、連中は“断りにくい空気”をつくるプロです。「答えないと冷たく思われるかも…」という心理と、そうした気持ちになりやすい人をひたすら求めています。断るのが苦手な人は、「家族に相談しないと答えられないルールなので」など、自分に決定権がないことを理由に避け続けるのも手です。その場での回答を求める者も多いですが、即答が必要なのは相手の都合です。

 また近年、犯行の情報集めに欠かせないのがSNSです。犯罪者が知りたいのは、自宅の住所や電話番号だけではありません。通勤時間や帰宅時間、資産価値のある物の有無、同居人やペット、あなたの容姿、自宅の間取り、セキュリティー対策など、個人情報の全てです。

 さらにリストの精度を上げるため、最終的にはターゲット宅まで足を運びます。業者を装った現地調査も、古典的ながら確実な手段です。実際に、今回の一連の事件のうち、東京都狛江市で起きた事件でも、約1年前から屋根のリフォームを呼びかける数人がうろついていたといわれています。自分自身のことはもちろん、ご近所の情報も一切語るべきではありません。

第2の壁「侵入させない」

 空き巣は、家人との接触を避けるため、留守宅を狙います。しかし、強盗は在宅中に押し入ります。つまり接触を前提にしており、暴力も前提にしているということです。

 本来、自宅は最も安全な場所ですが、一度侵入されると外に異変が漏れにくい密室となり、最も危険な場所に変わります。そのため、「お隣が遠い」「不在にしがち」など、叫び声や物音で異変が伝えにくい家は、特に危険といえます。

 侵入を防ぎ、被害に遭わないためには「自らドアを開けない」、そして「突破されない」の2つを考える必要があります。宅配業者などを装って玄関を開けさせるのは、最もオーソドックスな方法です。これを防ぐには、次の2例のように、ドアを開けずに対応するしかありません。

・置き配を利用する(死角で待っている可能性があるので、置かれた荷物をすぐには取らない)
・ドアチェーンで対応(ただし、一度隙間ができるとドアごと破壊できるようになる)

 いずれにせよ、中から開けない限り、基本的にドアからは入れません。ただし、窓からの侵入を防ぐには、強化ガラスや防犯フィルム、補助錠といった物理的な防止策が必要です。

 犯罪者もコスパを考えます。つまり、労力と報酬のバランスです。裕福に見える家は「収穫が大きい」と判断されやすくなります。また、高い壁で囲まれた家は、敷地内に入られると不審者の行動が周りから見えなくなります。犯罪者のターゲットになりやすい富裕層は、ホームセキュリティーだけでなく、窓やドアなど侵入口に、ワンランク上の物理的な対策が必要です。もちろん、完全に侵入を防ぐことはできませんが、間違いなく突破が困難になります。110番通報と、内鍵のある部屋に隠れる時間が確保できれば、暴力による被害の可能性は大きく減ります。

第3の壁「もしも侵入されたら…」

 強盗犯が在宅中を狙うのは、金品の場所を聞き出し、探す手間を省くため。顔を合わせるリスクよりも、隠し場所の情報というリターンを重視した結果です。そして、情報を得る手段として暴力を使います。

 凶悪犯に侵入されてしまうと、基本的にアウトです。とはいえ、諦めるわけにはいきません。この場合、選択肢は次の4つです。

【(1)無抵抗】

基本的に、強盗の目的は金品です。つまり、重い量刑は望まないはずです。そのため、結果的に“無抵抗”が被害を最小限に抑えるケースもあります。しかし一方で、1995年に発生した「八王子スーパー強盗殺人事件」のように、無抵抗の相手を手にかける事件も少なからず存在します。「目の前の相手がどちらのタイプか」を見極めるのは容易ではありません。

暴力には「衝動的なケース」と「計画的なケース」があります。どちらの場合も、犯人が口にするのは「おとなしくすれば何もしない」という言葉。しかし目的が異なれば、その行動にも微妙な違いが出ます。

では、ここで質問です。家に押し入った強盗が、次に挙げる3つの行動を取りました。3つそれぞれの目的を想像してみてください。

1.犯行を終えた後、台所に向かった
2.急にテレビのボリュームを上げた
3.引き上げる前に、窓を閉め始めた

これらは全て、これから立ち去る者には必要のない行動です。つまり、次のような目的が考えられます。

1.台所に包丁を探しに行ったのではないか
2.物音が聞こえないように、テレビの音を上げたのではないか
3.悲鳴が漏れ聞こえないないように、窓を閉めたのではないか

実際の目的は何なのか、本当の答えは分かりません。しかし、相手の行動や言動は何らかのヒントを含んでいます。違和感と“内なる声”は、自分を守る最大の武器です。

【(2)逃げる】

もちろん最優先するべきは、その場から遠くに離れることです。ただし、よほどの豪邸でない限り、逃げる前に捕まります。基本的に、家の中は袋小路です。こちらが玄関の外で、家に背を向けていない限り、逃げ切ることは難しいでしょう。

逃げ切るには、「相手との距離」「地形」「脚力の差」など、条件がそろわなければ不可能であり、むしろそろうケースはまれです。よって、「逃げる」はベストな選択ではあるものの、あくまで“理想”であり、選択肢にないケースが少なくありません。

【(3)隠れる】

映画のように、ベッドの下やクローゼットに身を潜めることなど、現実ではできません。ただし、トイレや納戸といった内鍵がある部屋に逃げ込むのは有効です。

とはいえ、逃げ込むまでの時間と、助けが来るまで持ちこたえる時間は必要です。万が一のときにシェルターとして使う部屋を決め、助けを呼ぶための電話(子機)や緊急通報ボタンを常備するか、家でも常にスマホを携帯する必要があります。

どんなに丈夫なドアでも、破壊は可能です。外部にSOSを発信しなければ、突破されるのは時間の問題です。もしも通信手段がなければ、110番通報をしている振りをしましょう。

【(4)戦う】

本来は避けるべき最悪の選択肢です。しかし現実には、他に方法がないケースも多く、その場合は行動するしかないでしょう。とはいえ、押し入った暴漢を撃退することは至難の業です。どう転んでも、こちらの不利は覆りません。ただし、わずかながら有利に近づけることは可能です。

戦いは強い武器を持つ方が有利であり、自分よりも強い相手に対抗するには「道具」が必要です。身の回りにはモップ、ペン、はさみ、椅子など、武器に転用できるものが多くあり、それらを使うのは悪い方法ではありません。

しかし最も効果的なのは、身を守るために作られた「護身用品」です。身を守る目的でデザインされた物の方がよりよいのは当然です。護身用品は持ち歩くと、職務質問でとがめられる恐れがありますが、家庭内に置いておくのは問題ありません。暴力犯罪の約3割が住宅で起きている事実を鑑みると、護身用品の常備は当然といえます。

 報道されている連続強盗事件の手口から、現代の犯罪傾向が垣間見えます。犯罪に抵抗感の低い若者が一定数存在すること、そしてSNSを使えば、そうした者を簡単にリクルートできること…非常に恐ろしい現実です。しかし、安易な犯行を好む連中にとって、防犯意識の高い人はターゲットに選びにくいともいえます。

 犯罪は決して撲滅されません。残念ながら、誰かが被害者になります。しかし、「狙われにくい人」や「狙われにくい家」となり、被害に遭う確率を下げることは難しくありません。