「取り調べ」と「事情聴取」の違いって?

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 事件・事故に関する報道の他、ドラマや映画などの劇中でも耳にする機会が多い法令関連用語の一つに「取り調べ」があります。また、よく似た用語として「事情聴取」という言葉が使われることもあります。「事件・事故の関係者のことを調べる」という点では共通しているように見える両者ですが、どんな意味と違いがあるのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

違いは「聴取する対象」

Q.まず、「取り調べ」という言葉の意味について教えてください。

佐藤さん「『取り調べ』とは一般に、捜査機関が、容疑者から事件に関して詳しく事情を聞くことをいいます。

何らかの罪を犯した疑いがかけられ、刑事事件の容疑者になると、捜査の一環として、警察から取り調べを受けることになります。警察から取り調べのため、任意に出頭するよう求められた場合、拒否することは可能です(刑事訴訟法198条1項)。しかし、協力しないことにより、罪証隠滅や逃亡の恐れがあると判断され、逮捕される可能性もあるため、取り調べを求められたら、弁護士に相談した上で、応じるのが望ましいでしょう。

一方、逮捕されている場合、取調室に行くことを拒否したり、取り調べ中に自由に退去したりすることはできません。もちろん、黙秘権(憲法38条1項、刑事訴訟法198条2項)があるので、取り調べの場で何も話さないことは可能です。

警察での取り調べでは、事件に関する事柄だけでなく、身上に関する事柄(生い立ち、家族関係、趣味など)も含め、広く聴取されることが多いです。なお、事件が検察庁に送られると、通常、検察官からも取り調べを受けることになります。検察官による取り調べは、警察での取り調べを前提に、的を絞った質問になることが多いでしょう。

取り調べの回数や時間は、事件の内容や捜査の進み具合などによって異なります。単純な事件で、容疑者が犯行を認めているような場合、警察で1回、検察で1回だけで終わることもありますが、複雑な事件で捜査が難航しているような場合、何度も取り調べが繰り返されたり、取り調べ時間が長時間に及んだりすることも少なくありません。長時間の強引な取り調べにより、自白の強要などにつながらないよう、取り調べが数時間に及ぶ場合は、休憩を挟みながら行われます」

Q.次に、「事情聴取」という言葉の意味について教えてください。

佐藤さん「『事情聴取』とは一般に、捜査機関が、刑事事件の被害者や目撃者などの関係者から、事件に関して事情を聞くことをいいます。

事件について何らかの事情を知っていたり、容疑者と一定の関係があったりすると、捜査の一環として、警察や検察から『事情聴取に応じてほしい』とお願いされることがあります。他にも、専門家として事情聴取を求められることもあります。

事情聴取に応じるかどうかは任意なので、拒否することは可能です。ただし、捜査機関も捜査の必要性があると判断して、事情聴取への協力を求めているので、できる限り応じるべきでしょう。日時や場所などは、柔軟に対応してくれることが多いです。

なお、事情聴取についても、その回数や時間は、事件の内容や、捜査機関が聴取対象者から得たい情報の性質・内容などによってまちまちであり、1回30分程度で終わることもあれば、数時間に及ぶこともあります」

Q.つまり、「取り調べ」と「事情聴取」の違いとは何でしょうか。

佐藤さん「『取り調べ』と『事情聴取』は、明確に区別されずに使われることも多いですが、区別するのであれば、『取り調べ』は容疑者から聴取するもの、『事情聴取』は容疑者以外の事件の関係者などから聴取するものと考えればよいでしょう。

なお、容疑者の可能性があるものの、まだはっきりしていないとして事情聴取を受け、その場で容疑が固まり、容疑者として逮捕されるケースなどもあります」