【ネタバレあり】木村拓哉&綾瀬はるか、映画『レジェバタ』話題のラスト…大友啓史監督の意図は?
東映創立70周年を記念する映画『レジェンド&バタフライ』が公開され、大ヒットスタートを切っている。「大うつけ」と呼ばれていた尾張の織田信長(木村拓哉)と、信長の元に嫁いできた「マムシの娘」と呼ばれる美濃の濃姫(綾瀬はるか)が、最悪の出会いから次第に強い絆で結ばれ、誰も成し遂げたことのない天下統一という夢に向かっていく姿を描いた同作。
監督を大友啓史氏、脚本を古沢良太氏が務めた今作で話題になっているのが、いわゆる「本能寺の変」のシーンから続く結末の描き方だ。最後のシーンに込めた思いについて、大友監督に話を聞いた。
※この記事には作品の重要部分のネタバレを含みます
映画『レジェンド&バタフライ』 (C)2023「THE LEGEND & BUTTERFLY」製作委員会
○■2人の人生をどうとらえるのか
――今回の結末として、2人が外国へ逃れられるんじゃないか、というところから一転しての…という展開が印象に残っています。「こう来るか」という二転三転の驚きもあり、どういった思いであの結末にされたんでしょうか?
どういう結末を迎えるか、そのアイディアは脚本の古沢さんがまず提示しててくれて。信長が死の間際にいわゆる走馬灯のように見たイメージがあり、分かりやすくいうとそれは、「2人が一緒だったら最強だよね」ということだと思うんですね。試写を観た方には、「あの夢で終わって欲しかったけど、大友監督が撮ってるんだから、そうはいかないですよね」と言われました。僕は今回のように2人の最期まで描いた方が、実はハッピーエンディングだと思っているんですね。
2人の関係性をリアルに考えていくと、結局は信長も濃姫も時代の駒として使われてしまっていたのではないかと思うんです。でも、裏側の感情、やり取りがどうだったかという真実の姿は誰にもわからない。古沢さんがその辺をうまく掘り当ててくれたのですが、濃姫が斎藤道三の娘であったことを考えると、男に生まれていたら天下を取った器かもしれないと想像できます。信長も、先駆性のある人物だったと言われていますし、今作では2人が当時の人たちが考えられなかった新しい未来を夢見ていて、あの時代にすでに個人主義的な考えも持ち、「自由」という概念に連なるような思想を持っていたとしたら? という描き方をしています。
南蛮船で大海原に2人が旅立つシーンでは、短い尺の中で、「人生の何十年かで体感するであろう喜怒哀楽」を、端的に凝縮して詰め込みました。山あり谷ありの人生の機微を、余分なものを剥ぎ取って共にするということが2人の夢だったし、そんなことをあの時代に夢見ることができたということ自体が2人の先駆性の証左でもある、というのが僕なりの一つの仮説です。死ぬ直前まで同じビジョンを共有できる夫婦がリアルにどのくらい存在するのかと考えると、悲劇的に見える2人の人生も見え方が変わってくる。男として女として、そして夫婦として、ある種互いの人生に添い遂げるように、同じ刻に生を終えた2人の人生を、僕はハッピーエンドの一つの形と捉えて撮っていましたね。
――「こうあってほしい」と思いながらのラストという、切なさも強く感じました。
エンドロールにも主題歌などを入れなかったのは、観た方にすぐに現実に戻ってほしくないという思いがあったからです。信長と濃姫の人生をしっかり受け止めていただく時間というか、その余韻を作りたかった。キャスト・スタッフのクレジットと共に「これはフィクションでした」と目が覚めてほしくはない。しばらくは映画の中で起きた出来事に思いを馳せてほしい。二人を手向ける時間になってほしい。エンドクレジット内の音の構成も、まずは崩壊する本能寺の音の中から、もう一度南蛮音楽が立ちあがってくる。二人の蜜月の頃の姿が、きっと脳裏に思い浮かぶはずです。そして最後は、まさに「最強の二人」という言葉が相応しい、1番勢いのある2人が思い浮かぶような、佐藤直紀さんの壮大な劇伴で終わっています。エンドクレジットの最期の瞬間まで、物語は繋がっています。信長と濃姫は僕らの心に永遠に生き続ける。席を立たずに、そこまでしっかり見届けてもらえると嬉しいですね。
■大友啓史監督
1966年生まれ。岩手県出身。慶應義塾大学法学部卒業。1990年にNHKに入局し、連続テレビ小説『ちゅらさん』シリーズ(01〜04年)、『ハゲタカ』(07年)、『白洲次郎』(09年)、大河ドラマ『龍馬伝』(10年)などを演出。イタリア賞始め国内外の賞を多数受賞する。2009年『ハゲタカ』で映画監督デビュー。2011年5月に独立し、『るろうに剣心』(12年)、『プラチナデータ』(13年)、『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』(14年)の2部作を手がける。その後も『秘密 THE TOP SECRET』『ミュージアム』(16年)、『3月のライオン 前編/後編』(17年)、『億男』(18年)、『影裏』(20年)と話題作を次々と世に送り出し、2021年には映画『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』と2部作で興収65億円を突破するヒットとなった。
(C)2023「THE LEGEND & BUTTERFLY」製作委員会
監督を大友啓史氏、脚本を古沢良太氏が務めた今作で話題になっているのが、いわゆる「本能寺の変」のシーンから続く結末の描き方だ。最後のシーンに込めた思いについて、大友監督に話を聞いた。
映画『レジェンド&バタフライ』 (C)2023「THE LEGEND & BUTTERFLY」製作委員会
○■2人の人生をどうとらえるのか
――今回の結末として、2人が外国へ逃れられるんじゃないか、というところから一転しての…という展開が印象に残っています。「こう来るか」という二転三転の驚きもあり、どういった思いであの結末にされたんでしょうか?
どういう結末を迎えるか、そのアイディアは脚本の古沢さんがまず提示しててくれて。信長が死の間際にいわゆる走馬灯のように見たイメージがあり、分かりやすくいうとそれは、「2人が一緒だったら最強だよね」ということだと思うんですね。試写を観た方には、「あの夢で終わって欲しかったけど、大友監督が撮ってるんだから、そうはいかないですよね」と言われました。僕は今回のように2人の最期まで描いた方が、実はハッピーエンディングだと思っているんですね。
2人の関係性をリアルに考えていくと、結局は信長も濃姫も時代の駒として使われてしまっていたのではないかと思うんです。でも、裏側の感情、やり取りがどうだったかという真実の姿は誰にもわからない。古沢さんがその辺をうまく掘り当ててくれたのですが、濃姫が斎藤道三の娘であったことを考えると、男に生まれていたら天下を取った器かもしれないと想像できます。信長も、先駆性のある人物だったと言われていますし、今作では2人が当時の人たちが考えられなかった新しい未来を夢見ていて、あの時代にすでに個人主義的な考えも持ち、「自由」という概念に連なるような思想を持っていたとしたら? という描き方をしています。
南蛮船で大海原に2人が旅立つシーンでは、短い尺の中で、「人生の何十年かで体感するであろう喜怒哀楽」を、端的に凝縮して詰め込みました。山あり谷ありの人生の機微を、余分なものを剥ぎ取って共にするということが2人の夢だったし、そんなことをあの時代に夢見ることができたということ自体が2人の先駆性の証左でもある、というのが僕なりの一つの仮説です。死ぬ直前まで同じビジョンを共有できる夫婦がリアルにどのくらい存在するのかと考えると、悲劇的に見える2人の人生も見え方が変わってくる。男として女として、そして夫婦として、ある種互いの人生に添い遂げるように、同じ刻に生を終えた2人の人生を、僕はハッピーエンドの一つの形と捉えて撮っていましたね。
――「こうあってほしい」と思いながらのラストという、切なさも強く感じました。
エンドロールにも主題歌などを入れなかったのは、観た方にすぐに現実に戻ってほしくないという思いがあったからです。信長と濃姫の人生をしっかり受け止めていただく時間というか、その余韻を作りたかった。キャスト・スタッフのクレジットと共に「これはフィクションでした」と目が覚めてほしくはない。しばらくは映画の中で起きた出来事に思いを馳せてほしい。二人を手向ける時間になってほしい。エンドクレジット内の音の構成も、まずは崩壊する本能寺の音の中から、もう一度南蛮音楽が立ちあがってくる。二人の蜜月の頃の姿が、きっと脳裏に思い浮かぶはずです。そして最後は、まさに「最強の二人」という言葉が相応しい、1番勢いのある2人が思い浮かぶような、佐藤直紀さんの壮大な劇伴で終わっています。エンドクレジットの最期の瞬間まで、物語は繋がっています。信長と濃姫は僕らの心に永遠に生き続ける。席を立たずに、そこまでしっかり見届けてもらえると嬉しいですね。
■大友啓史監督
1966年生まれ。岩手県出身。慶應義塾大学法学部卒業。1990年にNHKに入局し、連続テレビ小説『ちゅらさん』シリーズ(01〜04年)、『ハゲタカ』(07年)、『白洲次郎』(09年)、大河ドラマ『龍馬伝』(10年)などを演出。イタリア賞始め国内外の賞を多数受賞する。2009年『ハゲタカ』で映画監督デビュー。2011年5月に独立し、『るろうに剣心』(12年)、『プラチナデータ』(13年)、『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』(14年)の2部作を手がける。その後も『秘密 THE TOP SECRET』『ミュージアム』(16年)、『3月のライオン 前編/後編』(17年)、『億男』(18年)、『影裏』(20年)と話題作を次々と世に送り出し、2021年には映画『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』と2部作で興収65億円を突破するヒットとなった。
(C)2023「THE LEGEND & BUTTERFLY」製作委員会