インボイス制度 フリーランスが収入減を最小にとどめるために知るべきこと
2023年10月に導入されるインボイス制度によって、フリーランスで働く人は収入減の危機に直面している。
なかでも影響を受けやすいのは、フリーランスの中でも比較的小規模でこれまで消費税の納税を免除されてきた「免税事業者」と呼ばれる人々。彼らはインボイス制度導入によって売上が1割ほど減る可能性がある。
この事態を回避したり、少しでもダメージを少なくする方法はあるのか?
『フリーランスがインボイスで損をしない本』(日本実業出版社刊)の著者で税理士の原尚美さんにお話をうかがった。今回はその後編だ。
原尚美さんインタビュー前編を読む
■フリーランスがインボイスのダメージを最小にとどめるために
――インボイス制度にはかなり強い反発が起きています。フリーランスが「損」になる制度なのは確かですが、いかにその損を少なくするかという点ではかなり選択肢が多くあるように思います。
原:先ほどのお話にもありましたが、免税事業者は今まで少し恵まれすぎていたというのは確かで、インボイス制度によって収入が減るのはある程度仕方がないと思います。ただ、そのなかで被害をいかに最小限に抑えるかということが大事になってきます。
免税事業者から課税事業者になる選択肢もあるでしょうし、簡易課税を使う選択肢もあります。免税事業者のまま取引先と交渉して報酬を値上げしてもらう選択肢がベストの人もいるでしょう。
何が自分にとってベストなのかをシミュレーションして知りましょう、というのが今回の本のコンセプトなのです。
――インボイス制度の影響を受けやすいフリーランスと受けにくいフリーランスはいるのでしょうか?
原:影響を受けにくい人は先ほどのお話にもあったようにIT技術者のように特別なスキルをもっていたり、コンサルタントのように独自のノウハウを持っている人でしょうね。「この人だから頼みたい」ということで仕事をしている人は、取引先と交渉がしやすいのですが、取引先の方もまだインボイス制度をよくわかっていないところが多いんですよね。
――今回の本のなかで「インボイス制度がはじまったあと、免税事業者は消費税を請求できるのか」という問題提起をされていましたが、これはどういうことなのでしょうか?
原:これは現状だれもはっきり答えられない課題ですし、これからも明確になるのは難しいでしょう。法律には「登録業者以外がインボイスを発行してはいけません」と記載されているだけで、「登録業者以外が消費税を請求してはいけません」とはなっていないんです。
――「インボイスを発行すること」と「消費税を請求すること」は同じようで同じではないということですね。
原:そうなんです。来年の10月1日以降、免税事業者はインボイスを発行できなくなるだけで、消費税を請求できなくなるとは、少なくとも法的には示されていません。
――インボイスは発行できないけども消費税はください、と言うことは法的には可能なんですね。
原:そうですね。ただそうなると取引先が仕入税額控除を受けられませんから、「事実上消費税を請求するのは難しい」ということになります。
――免税事業者だった人が登録事業者になるための手続きについて教えていただければと思います。
原:これは、納税地を管轄する「インボイス登録センター」に申請書を出すだけなので簡単です。インボイス登録センターは、国税庁のホームページで調べることができます。申請してから登録されるまで今だと二ヶ月くらいでしょうか。登録されたら登録番号が国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」で確認できますし、登録通知書も届きます。この通知書にインボイスの登録番号が記載されていて、その番号を自分が発行するインボイスに記載します。
――申請は税理士に頼まずに個人でできるものですか?
原:税理士に頼んだ方が確実ではありますが、個人でもできるとは思います。
――インボイス制度の施行まであと一年弱です。この期間でフリーランスの人はどんな準備をしておくべきでしょうか。
原:まず現状把握です。登録業者になったらどのくらいの消費税を支払うことになるのかを把握することと、取引先の状況を分析し予測することです。取引先はインボイスの発行を必要としているか、自分が免税事業者のままだとどの程度の影響受けるのか、課税事業者にならないと取引してもらえなくなるのかなどをシミュレーションしたうえで、交渉に臨むのが大切だと思います。
もちろん交渉してみたけれど、これまで消費税分だった金額を報酬に上乗せしてもらえないというケースや、はなから交渉のテーブルにつけないというケースもあると思います。その場合は登録事業者になって消費税に課税されるのと、免税事業者のままでいて消費分報酬が減るのとどれだけ違いがあるのかを計算し比較してから、登録するかどうかを決めることをおすすめします。
――インボイス制度の導入にあたっては、経過措置もありますね。
原:そうなんです。じつは免税事業者に払った消費税の全額が、令和5年10月1日からいきなり仕入税額控除できなくなるわけではないのです。令和11年9月30日までは、インボイスの発行がなくても課税事業者に支払ったものとみなして、80%(令和8年9月まで)または50%(令和11年9月まで)の金額の仕入税額控除を認めましょうというものです。免税事業者と取引する会社の負担を軽減する制度なので、フリーランスは、取引先と価格交渉するための猶予期間として有効に使ってほしいですね。
――2022年12月の税制改正大綱でも、新しい経過措置が発表されました。
原:はい、これは免税事業者が登録事業者になったら、支払う消費税は2割でよいというものです。インボイス発行事業者にならなければ、免税事業者のメリットが受けられたはずの人が対象で、令和8年9月30日までの経過措置ですが、フリーランスはこれらの特例をうまく使って、もっとも損をしない方法を考えていきたいですね。
(新刊JP編集部)
原尚美さんインタビュー前編を読む
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この事態を回避したり、少しでもダメージを少なくする方法はあるのか?
『フリーランスがインボイスで損をしない本』(日本実業出版社刊)の著者で税理士の原尚美さんにお話をうかがった。今回はその後編だ。
■フリーランスがインボイスのダメージを最小にとどめるために
――インボイス制度にはかなり強い反発が起きています。フリーランスが「損」になる制度なのは確かですが、いかにその損を少なくするかという点ではかなり選択肢が多くあるように思います。
原:先ほどのお話にもありましたが、免税事業者は今まで少し恵まれすぎていたというのは確かで、インボイス制度によって収入が減るのはある程度仕方がないと思います。ただ、そのなかで被害をいかに最小限に抑えるかということが大事になってきます。
免税事業者から課税事業者になる選択肢もあるでしょうし、簡易課税を使う選択肢もあります。免税事業者のまま取引先と交渉して報酬を値上げしてもらう選択肢がベストの人もいるでしょう。
何が自分にとってベストなのかをシミュレーションして知りましょう、というのが今回の本のコンセプトなのです。
――インボイス制度の影響を受けやすいフリーランスと受けにくいフリーランスはいるのでしょうか?
原:影響を受けにくい人は先ほどのお話にもあったようにIT技術者のように特別なスキルをもっていたり、コンサルタントのように独自のノウハウを持っている人でしょうね。「この人だから頼みたい」ということで仕事をしている人は、取引先と交渉がしやすいのですが、取引先の方もまだインボイス制度をよくわかっていないところが多いんですよね。
――今回の本のなかで「インボイス制度がはじまったあと、免税事業者は消費税を請求できるのか」という問題提起をされていましたが、これはどういうことなのでしょうか?
原:これは現状だれもはっきり答えられない課題ですし、これからも明確になるのは難しいでしょう。法律には「登録業者以外がインボイスを発行してはいけません」と記載されているだけで、「登録業者以外が消費税を請求してはいけません」とはなっていないんです。
――「インボイスを発行すること」と「消費税を請求すること」は同じようで同じではないということですね。
原:そうなんです。来年の10月1日以降、免税事業者はインボイスを発行できなくなるだけで、消費税を請求できなくなるとは、少なくとも法的には示されていません。
――インボイスは発行できないけども消費税はください、と言うことは法的には可能なんですね。
原:そうですね。ただそうなると取引先が仕入税額控除を受けられませんから、「事実上消費税を請求するのは難しい」ということになります。
――免税事業者だった人が登録事業者になるための手続きについて教えていただければと思います。
原:これは、納税地を管轄する「インボイス登録センター」に申請書を出すだけなので簡単です。インボイス登録センターは、国税庁のホームページで調べることができます。申請してから登録されるまで今だと二ヶ月くらいでしょうか。登録されたら登録番号が国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」で確認できますし、登録通知書も届きます。この通知書にインボイスの登録番号が記載されていて、その番号を自分が発行するインボイスに記載します。
――申請は税理士に頼まずに個人でできるものですか?
原:税理士に頼んだ方が確実ではありますが、個人でもできるとは思います。
――インボイス制度の施行まであと一年弱です。この期間でフリーランスの人はどんな準備をしておくべきでしょうか。
原:まず現状把握です。登録業者になったらどのくらいの消費税を支払うことになるのかを把握することと、取引先の状況を分析し予測することです。取引先はインボイスの発行を必要としているか、自分が免税事業者のままだとどの程度の影響受けるのか、課税事業者にならないと取引してもらえなくなるのかなどをシミュレーションしたうえで、交渉に臨むのが大切だと思います。
もちろん交渉してみたけれど、これまで消費税分だった金額を報酬に上乗せしてもらえないというケースや、はなから交渉のテーブルにつけないというケースもあると思います。その場合は登録事業者になって消費税に課税されるのと、免税事業者のままでいて消費分報酬が減るのとどれだけ違いがあるのかを計算し比較してから、登録するかどうかを決めることをおすすめします。
――インボイス制度の導入にあたっては、経過措置もありますね。
原:そうなんです。じつは免税事業者に払った消費税の全額が、令和5年10月1日からいきなり仕入税額控除できなくなるわけではないのです。令和11年9月30日までは、インボイスの発行がなくても課税事業者に支払ったものとみなして、80%(令和8年9月まで)または50%(令和11年9月まで)の金額の仕入税額控除を認めましょうというものです。免税事業者と取引する会社の負担を軽減する制度なので、フリーランスは、取引先と価格交渉するための猶予期間として有効に使ってほしいですね。
――2022年12月の税制改正大綱でも、新しい経過措置が発表されました。
原:はい、これは免税事業者が登録事業者になったら、支払う消費税は2割でよいというものです。インボイス発行事業者にならなければ、免税事業者のメリットが受けられたはずの人が対象で、令和8年9月30日までの経過措置ですが、フリーランスはこれらの特例をうまく使って、もっとも損をしない方法を考えていきたいですね。
(新刊JP編集部)
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