「変形性脊椎症」になると現れる初期症状はご存知ですか?医師が監修!
高齢化社会になりロコモ外来が新設されるなど加齢による疾患や介護が必要な患者数は増えています。その中でも変形性脊椎症は4千万人近くいるといわれています。
スマートフォンやパソコンを見る時の前かがみの姿勢は現代病であるストレートネックになりやすく、そこから変形性脊椎症に繋がる恐れも…。
首・腰・足にしびれや痛みが続いたら脊椎変形のサインかもしれません。将来、介護にならないよう今から対策していきましょう。
変形性脊椎症の症状と原因
変形性脊椎症の症状は何ですか?
加齢により椎間板と骨が変形し、首や腰に痛みが出た状態を「変形性脊椎症」といいます。軟骨の変性により起きる病気で軽症だと無症状なことが多いです。少しずつ臀部や下肢に放散するしびれや痛みが出始め、腰全体が重だるい感じになります。進行すると脊椎のずれ・変形が起き脊柱管の中で神経が圧迫され、しびれや麻痺などの症状も悪化していきます。脊柱の可動域が制限され、局所の圧迫痛や側弯・後弯の症状がみられることが多いです。椎間板が変性すると骨棘という骨のとげが形成され、痛みの程度が強くなっていきます。足のしびれや痛みにより、休息をとりながら歩く「間欠跛行」の症状も出やすくなります。変形性脊椎症の原因は何ですか
長年の使用による消耗で椎間板が傷むことや作業姿勢・環境が原因です。脊椎と脊椎の間でクッションの役割をする椎間板は、体の中で最も負担のかかる組織でほとんど血行がないため栄養が届きにくく、10代後半から老化が始まります。加齢により椎間板からみずみずしさが失われ、クッション機能がなくなり椎間板が潰れてくることで、周囲の関節・靱帯・筋肉に負担がかかり首や腰の痛みが出やすくなるのです。また、この椎間板が変性する原因は加齢・労働・喫煙・遺伝が関係しており、加齢に伴い臓器や組織に対して酸化ストレス(炎症性サイトカイン・ニトロタイロシン)が増えることが分かっています。椎間板変性のあるラットと人のそれぞれで実験を行い酸化ストレスの指標である炎症性サイトカインとニトロタイロシンの発現の増加があったと研究結果で明らかになっており、これらの酸化ストレスが変性を引き起こしている可能性も考えられています。
そのためNACやビタミンEなどの抗酸化剤を加えると椎間板変性を抑制する効果があると判明したため、できるだけ手術を受けずに済むよう新規治療薬の研究開発中です。
受診を検討するべき初期症状を教えてください。
体が変形してきた
背中・手足のしびれが1ヶ月近く続いている
尿や便が出にくい・漏らしてしまう
肛門周りがしびれて感覚がない
首・腰・足に強い痛みやしびれ、麻痺や脱力があり歩けない
高いところから落ちたり大きな交通事故などで体を強打したりした後である
夜も痛む・楽な姿勢がない
背中や胸がひどく痛い
全般的に体調が良くない
「寝違い」や「ぎっくり腰」は動けなくなるほどの強い症状が出ることもありますが、楽な姿勢で安静にしていると通常は2~3日で動けるようになるため、この時点で受診しても遅くはありませんので慌てる必要はありません。首や腰の痛みと同時に上記のような症状がある場合や、手の使いにくさ・歩きにくさなどを自覚した場合は重大な病気が隠れている可能性がありますので早めに整形外科専門医を受診してください。
変形性脊椎症の検査と治療法
変形性脊椎症の検査方法について教えてください。
レントゲン・MRI検査・CTにて画像検査を行い、MRI検査で正面・側面から背骨の配列をチェックし、神経が圧迫されていないかなどの確認と症状の原因を調べていきます。骨粗鬆症の可能性も視野に骨密度検査を行い、病態が不明確な場合は筋電図検査や神経内科疾患の精査などを行います。変形性脊椎症はどのようなリハビリを行いますか?
病状に応じて運動療法・コルセット・薬物療法・理学療法などを含む保存治療、あるいは神経ブロック治療などを行います。動作に伴う症状の悪化に気を付けながらストレッチや全身の調整運動を行う運動療法は有効な保存療法として推奨されています。柔軟性を高める体操・筋力増強運動・ウォーキング・サイクリングなどの有酸素運動・腰部安定化運動がおすすめです。脊柱後弯患者に対する運動療法では可動域と背筋力の改善を目的とした運動療法が効果的と考えられます。退院後も歩行活動の向上・術後3~6か月まではコルセットの着用を徹底すると良いでしょう。水中運動療法も推奨します。水中では浮力による体重の軽減により腰痛が軽減しますので、腹背筋群・下肢筋群の緊張がゆるみ、脊柱の運動がスムーズになり左右対称のバランスのとれた筋力増強運動が可能になるのです。有酸素運動により全身の持久力の向上が望めます。この水中運動療法は腰痛患者に週2回、1回1時間の短時間の運動療法にも関わらず全例に腰痛の軽減がみられ、更に腹背筋群・下肢筋群の増強効果も確認されています。
手術が必要な場合があるか教えてください。
保存治療による効果が充分でない場合や麻痺などの神経障害がでた場合、または初診の時すでに運動障害・歩行障害や排尿・排便障害がみられる場合は手術治療になります。神経組織の圧迫をなくし脊椎を固定・安定化することにより、痛みや神経の症状を改善します。全脊椎に対して各種インプラントを用いた矯正固定手術、内視鏡・顕微鏡を用いた体に優しい低侵襲手術などの最先端の治療も可能です。若者でも変形性脊椎症になる可能性はありますか?
先天性の側弯症など小児時から罹患するものを除き、長年軟骨が摩耗することが原因です。若年での罹患の可能性は低く基本的には加齢に伴う変化のため、高齢の方に多くみられる症状です。変形性脊椎症は完治しますか?
現段階では関節の変形は自然に戻ることは難しいとされていますが、現在の治療法は痛みの改善や症状の進行を抑制するものが多く、保存的治療で症状がかなり軽減できるようになっています。変形性脊椎症の予防
変形性脊椎症はストレッチや筋トレで予防できますか。
ストレッチや筋トレは予防・治療の基本です。足腰の筋力強化とバランス力の強化になります。中高年者など脊椎や膝関節軟骨の変性がすでに始まっている場合は膝・腰に過剰の負荷をかけないようなトレーニングが前提です。腰痛体操も推奨されている変形性脊椎症の予防法であり、リハビリ療法としても効果的です。腰椎を支える主な4つの筋肉は腹筋・背筋・ハムストリングス・腸腰筋で、これらの4つの筋力の維持と柔軟性を保つことが重要になります。また、骨粗鬆症にならないように気を付けることも予防の一つです。骨密度は50代を過ぎると急激に減少します。骨粗鬆症に伴う腰椎圧迫骨折と大腿骨頸部骨折の発生率が上がり、脊椎の骨折により背中が曲がりやすくなります。カルシウムを摂り、適度な運動・日光浴をして骨を強くすることも必要です。反り返った姿勢(歯科治療、美容院の洗髪時など)は症状を悪化させることがありますので、なるべく脊椎に負担をかけない正しい姿勢を心掛けましょう。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
「歳によるものだから仕方がない」と諦めていませんか。腰の痛みが改善される可能性があります。脊椎の手術は大変であると敬遠される方もいらっしゃると思いますが、的確な診断と治療を行うことで患者さまは痛みから解放されます。機能が改善し笑顔で退院した後も、好きなことを始める・楽しむといった生活の質を向上させることもできます。2036年には3人に1人が65歳という超高齢化社会になるといわれていますので、健康寿命をのばすためにも老化現象に負けない健康な体をつくっていきましょう。
編集部まとめ
スマ―トフォン・パソコンの使用で肩こりも低年齢化しているそうです。長時間同じ姿勢でいると筋肉が硬くなり骨が曲がりやすくなります。
首・背中・腰・股関節・膝など普段よく動かす関節は、加齢と共に骨に負担がかかる部位です。予防に体操やストレッチで柔軟にしておきましょう。
また、変形した骨は元の状態に戻すのが難しいので姿勢に注意を払うことが大切です。健康寿命をのばしいつまでも元気な体で過ごしていきたいですね。
参考文献
「変形性脊椎症」(日本整形外科学会)