「テニス肘」の症状・原因はご存知ですか?医師が監修!
今回は、テニスなどの腕や手首を使うスポーツ・家事・パソコンのタイピング等により、肘から手首にかけて痛みが現れる「テニス肘」についてのお話です。このテニス肘とは、何が原因で引き起こされるのでしょうか。
その気になる原因や放置するリスク、具体的な検査や治療方法を分かりやすく解説します。
薬などを使用せず自分で行うことができる予防法やケアの方法もあります。正しい方法を身につけて、痛みによるストレスのないアクティブな毎日を過ごしたいですね。
テニス肘の症状と放置するリスク
テニス肘とはどのような病気でしょうか?
テニス肘とは、腕や手首の使い過ぎにより前腕(肘から手首まで)の外側に痛みが伴う病気のことです。もともと40代以降のテニス愛好家によく発症していたため、その名が付けられました。正式な病名は、「上腕骨外側上顆炎(じょうわんこつがいそくじょうかえん)」といいます。肘の骨と筋肉の付け根にある腱が炎症を起こすことにより痛みが生じる運動障害です。長期間にわたり、“ラケットを振り、ボールを打ち返す”という衝撃の強い動作を繰り返すことが引き金となります。スポーツ以外でも、日常的に重い荷物を運ぶ運送業の人や重いフライパンを繰り返し扱う料理人でも症状が現れやすといわれています。また、パソコンのタイピングを行うオフィスワーカーでも発症が報告されている病気です。腕を酷使し、慢性的な疲労やダメージが加わり続けることで腱の炎症に拍車がかかってしまいます。
どのような症状が現れますか?
主な症状は、重い物を持ち上げる動作やタオルを絞る・ペットボトルのフタを開けるなどの手首をひねる動作を行った際の前腕外側の痛みです。その他にも、フライパンを使う動作やパソコンのタイピング動作などでも症状が現れます。痛みの強さは人によって様々です。突然強い痛みを感じることもあれば、だんだんと痛みが増していくこともあります。通常、安静時には痛みを感じないことがほとんどです。人によっては安静にしていてもジンジンと痛み続けることがあります。
発症する原因を教えてください。
テニス肘が発症する原因は、大きく分けて以下の2つです。腕を酷使するスポーツや仕事
加齢や性別
日常的に腕や手首を酷使するスポーツや仕事を行っている場合、大半は使い過ぎ(オーバーワーク)が原因です。肘の外側にある骨の出っ張り部分を上腕骨外側上顆と呼びます。
ここに付着している筋肉のうち、手首を伸ばす際に使う短橈側手根伸筋という筋肉の付着部がダメージを受け、腱がもろくなることで発症します。
上腕骨外側上顆炎は、10代から20代の若年層での発症は少なく、30代後半から50代の中年層で好発する病気です。
このことから、年齢による筋力の衰えや骨と筋肉を繋ぐ腱がもろくなることが原因と考えられています。また、中年以降の主婦の発症例も多いのが特徴です。これは、女性は男性に比べて筋力が少ないことや、家事などにより腕や手首を酷使する機会が多いことが要因として挙げられます。
テニス肘を放置するとどうなりますか?
日常生活に支障が出ないような軽い痛みの場合には、放っておいても自然に治ってしまうことがあります。ただし、痛みを我慢して腕を使い続けた場合、痛みが増して物が持てなくなったり、肘を動かすことが困難になったりすることがありるので注意しましょう。また、一度慢性的な状態に陥ると回復に時間がかかってしまうため、痛みは我慢せず早めに受診することがおすすめです。
テニス肘の検査と治療
受診を検討するべき初期症状を教えてください。
痛みが軽い場合には、まずは安静にして様子を見ましょう。患部を冷やしたり、軽くストレッチをしたりすることで痛みが改善することもあります。患部を安静にしても痛みが改善しない場合・痛みがだんだんと強くなってきた場合・患部が腫れて熱を持っている場合には、整形外科へ受診しましょう。
どのような検査を行うのでしょうか?
主にテニス肘の特徴的な痛みの反応を確認するための検査を行います。その他にも、MRI検査や超音波検査などで腱の損傷の程度や病状の進行状況を確認することがあります。痛みの反応を確認するための検査は、以下の3種類です。
「Thomsenテスト」
腕を前に出し、肘を延ばした状態で手首を上に反らします。医師が下の方向に力を加えた状態で、それに逆らうように上方向に力を入れ手首を反らし続けます。この状態で肘の外側に痛みが出るかを確認するテストです。
「Chairテスト」
肘を延ばしたままの状態で椅子を持ち上げ、肘の外側に痛みが出るかを確認します。
中指伸展テスト
腕を前に出し、肘を伸ばした状態で手首を上に反らします。医師が下の方向に力を加えたとき、肘の外側に痛みが出るかを確認するテストです。肘を伸ばしたままの状態で椅子を持ち上げ、肘の外側に痛みが出るかを確認します。
腕を前に出し、肘を指先まで真っすぐ伸ばした状態からテスト開始です。医師が中指を下方向に力を加えます。その力に逆らって、中指を上に持ち上げようとしたとき、肘の外側に痛みが出るかを確認します。
治療方法を教えてください。
基本的には、痛みの原因となったスポーツ等を一旦お休みし、患部を安静にすることが第一です。その上で、痛みの状況に応じて薬物療法・リハビリテーション・装具の装着などの治療を行います。
薬物療法
リハビリテーション
装具の装着
痛みの症状が比較的軽い場合には、炎症を抑える飲み薬(非ステロイド性消炎鎮痛剤=NSAIDs)や湿布で様子を見ます。痛みや炎症を抑える薬を長期にわたり内服することで胃腸が荒れてしまうことがあるので注意しましょう。
また、肘の外側が痛み始めてから1カ月半以内の急性期で痛みがあまりにも強い場合には、患部に直接ステロイドの注射し、症状の改善をはかります。物を持ち上げることができないなど、日常生活に支障が出るほどの症状がある場合でも、注射の翌日には痛みの症状が改善することがほとんどです。
痛み止めの効果は1~2か月間続きます。ただし、その後、再び患部が痛み始めることもあるので、薬物治療とリハビリテーションとの同時並行で改善を目指すことが基本です。
痛みへの即効性はないものの、ストレッチ・温熱療法・超音波療法などの理学療法も効果的です。
理学療法士とともに、患部に負荷がかかる原因を明らかにし、できるだけ負荷の少ないフォームを身につけることも長い目で見た病状の改善に繋がります。外側上顆付着部にかかる負担を軽減するための肘バンドを装着する方法もあります。
このバンドは、上腕骨外側上顆の骨の出っ張り部分から指2本手首側へ下げた位置に巻いて使用する装具です。筋肉を圧迫することで、動作時に患部へかかる力を弱め、安静を保つ効果が期待できます。
テニス肘は手術することもあるのでしょうか?
ほとんどの場合、痛みが改善するまでにかかる期間は数か月です。ただし、1年以上経過したにもかかわらず、内服薬・注射・リハビリ等で改善が見られないような場合には手術を選択することもあります。手術の方法は主に以下の2つです。
「オープン法」
「関節鏡視下法」
傷んだ腱を部分的に切除し、傷んでいない部分の腱と骨を縫い合わせる手術です。肘の外側を切開するため、神経が圧迫されている場合は、神経の圧迫を取り除く手術を同時に行うこともあります。
関節鏡を使って、関節の中から傷んだ腱を切除する手術です。直接切開する手術とは異なり、傷口が最小限に抑えられるというメリットがあります。
ただし、関節鏡手術の場合には、全身麻酔での処置が必要です。また、神経が障害されている場合、関節鏡で処置を行うことはできないため適応外となることもあります。
テニス肘の予後と予防
テニス肘は自然治癒するのでしょうか?
テニス肘は、自然治癒しやすい病気と言われています。軽度の場合は、痛みが自然に治まることがありますが、一度ダメージを受けた腱が元に戻ることはありません。繰り返し腕を酷使しているうちに再度痛み出すこともあります。
予防方法を教えてください。
痛みの原因となったスポーツや活動を行う前後には、腕と指のストレッチやマッサージを行うように心がけましょう。まず、患部に負担がかかる原因のひとつとして、間違ったフォームが身についていることが考えられます。理学療法士の指導のもと、できるだけ上腕骨外側上顆部に負担がかからない正しいフォームを身につけることも重要です。仕事などでどうしても腕を酷使しなくてはならない場合には、肘バンドやテーピングをして、筋肉や腱への負担を減らすように心がけましょう。
腕をたくさん動かした後には、痛みが出やすい部分を十分に冷やすのも効果的です。また、筋力低下はテニス肘の原因となります。痛みが治まってきたら、適度に筋力トレーニングを行うことも予防法のひとつです。
テニス肘になったときに自分でできるケアを教えてください。
とにかく患部の安静が第一です。原因となった活動を控え、患部を冷やすことが一番のケアになります。ただし、あまり冷やしすぎると凍傷のリスクが高まってしまうので、冷えによる痛みを感じない程度の範囲で行いましょう。肘の外側を伸ばすストレッチを行うのも効果的です。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
テニス肘は、日ごろから腕や手首を酷使している人にとって発症リスクが高い病気です。一度痛みが治っても、根本的な原因が解決しない限りは繰り返し発症しやすいというデータが報告されています。スポーツや仕事により、やむを得ず腕や手首を酷使する場合には、ストレッチやアイシングなどのセルフケアを行い、上手に付き合っていくことが大切です。
軽症の場合も多く自然治癒することもありますが、痛みが続いている場合には無理をせず早めに整形外科へ受診するようにしましょう。
編集部まとめ
スポーツや労働によって腕から手首にかけて痛みが生じるテニス肘は、数日で治ることがある一方、重症化して手術が必要になることもある病気です。
普段から腕や手首をたくさん使う人は、ストレッチ・アイシング・筋力トレーニングなどのセルフケアを行うことが予防に役立ちます。
安静時でも痛みが続く・痛みがだんだん増している・患部が腫れて熱を持っている場合には、痛みを我慢せず、すみやかに整形外科へ受診しましょう。
参考文献
「テニス肘(上腕骨外側上顆炎)」(日本整形外科学会)