「コレラ」の症状・感染経路はご存知ですか?医師が監修!
コレラは、世界中に広がる感染症です。日本国内で感染する例は極めて少ないですが、海外渡航中に感染するなど日本人も感染しています。
感染するとどうなるのか、感染経路や潜伏期間・治療方法などコレラに関する知識を深めておきましょう。
また、海外に渡航する機会が多い方は感染するリスクが高くなります。感染を防ぐ方法についても理解しておきましょう。
コレラの症状や原因
コレラとはどんな病気ですか?
コレラは、コレラ菌の感染によって起こる急性感染性腸炎です。コレラ菌で汚染された水・飲食物を摂取することで感染し発症します。世界では、毎年約130万人~400万人の感染者がいるといわれています。
現在流行しているコレラはエルトールコレラといい、19世紀以前にたくさんの犠牲者を出したコレラとは異なる型です。エルトールコレラは、症状が比較的軽く死亡率も2%程度といわれています。
しかし、現在もコレラは世界各国に常在しており、その国の公衆衛生状況や社会の発展状況を示す指標にもなっています。
コレラではどんな症状が出ますか?
主な症状は、下痢・軟便・嘔吐です。軽症の場合は、水のような下痢・軟便の症状だけで済む場合が多いです。多くの場合、発熱・腹痛は伴いません。しかし、稀に米のとぎ汁のような匂いのない水っぽい下痢・激しい嘔吐を繰り返す場合もあります。
重症者の中には、1日に10リットル~数10リットルの大量の下痢が続く人もいます。その結果、重度の脱水症状となり、血圧低下・低カリウム血症による痙攣・皮膚の乾燥・皮膚の弾力の低下・無尿・意識消失などの症状につながることも珍しくありません。
高齢者・胃を切除した人は比較的重症化しやすく、死に至る場合もあります。重度の脱水を伴う激しい下痢がみられる場合は、治療をしなければ死に至る場合も少なくないため、適切な治療が求められます。
コレラの主な感染経路はなんですか?
コレラは、経口感染で起こる感染症です。汚染された水・食べ物が体内に入ることで感染します。水から作る氷にも注意が必要です。流行している地域では、飲み物に使用する氷・氷の上に飾られた果物・生の魚介類を食べて感染した事例もあります。また、プールの水が誤って口に入ったことで感染した例もあります。
一方、日本では、近年コレラの流行は報告されていません。日本では、ほとんどの患者が輸入感染です。コレラの流行地域への旅行によって、現地で感染する事例が大半です。
また、日本国内での感染例の場合もコレラ菌に汚染された輸入魚介類が原因と推定されています。
潜伏期間はどれくらいですか?
潜伏期間は、数時間から5日間とされています。多くの場合、1日前後の潜伏期間を経て発症します。ただし、ほとんどの感染者は軽症もしくは無症状です。稀に少数の人が重度の下痢・嘔吐を繰り返し、重篤な症状を引き起こします。
一方、無症状の場合でも感染してから1~10日間は排泄物中にコレラ菌が含まれており、排泄物を介して他の人に感染させる可能性があるため注意が必要です。
死亡することもあると聞いたのですが…。
近年、感染しても大半の場合は症状は比較的軽く、無症状あるいは軽度の下痢で済む場合がほとんどです。しかし、重症化し重篤な脱水症状につながってしまうと死に至る場合もあります。日本国内で死亡することは極めて稀な例です。
しかし、世界では毎年およそ21,000人~143,000人の人が死亡していると推定されています。
コレラの診断・治療法
コレラが疑われるときは何科を受診すべきですか?
水溶性の下痢が続くなど疑わしい症状がある場合は、内科・胃腸内科を受診しましょう。受診先に悩んだ場合は、お住まいの地域の保健所・福祉保健センターなどに相談するのも有効です。万が一、感染しても軽症で済む場合がほとんどですが、稀に重症化すると症状が急速に進行する場合もあります。
疑いがあるときは、迅速に医療機関・保健福祉機関に連絡・相談することが大切です。
コレラの診断はどのように行われますか?
診断は、便検査によって行います。毒素を産出するO1 またはO139 血清型のコレラ菌が検出された場合、コレラと診断されます。
コレラにはどのような治療を行いますか?
軽症の場合は、まずは下痢によって失われた水分を補うために経口補水液を摂取します。脱水症状を防ぐための水分補給がコレラの治療の基本です。無症状・軽症の場合は、何もしなくても3~6日で自然に軽快する場合もあります。しかし、重症の場合は、点滴治療・抗生物質を用いた治療が必要です。
WHOでは、1リットルの水に塩化ナトリウム3.5g・塩化カリウム1.5g・グルコース20g・重炭酸ナトリウム2.5gを溶かした経口輸液(ORS)の投与を推奨しています。抗生物質による治療は、下痢の期間の短縮につながり、脱水を軽減する効果があります。
自分でできる対処法を教えてください。
下痢によって体外に出てしまった水分を補うことが大切です。経口補水液を積極的に摂取しましょう。症状が軽度の場合は、経口補水液の摂取によって順調に回復する場合が多いです。また、生後6ヶ月から5歳までの乳幼児において、亜鉛の摂取が補助的な治療になることがわかっています。
ただし、激しい下痢や嘔吐が続き、重い脱水症状がみられる場合は速やかに点滴による治療が必要となります。症状がみられる場合には、速やかに医療機関・保健福祉機関に連絡・相談しましょう。
コレラの予防方法
コレラが流行しやすい国はどこですか?
流行しやすい国は、主にアフリカ・アジア・中南米の一部の地域です。1817年に始まった第1次世界流行から第6次世界流行までは、全てインドのベンガル地域から世界中に広がりました。
現代において世界中に広がっているエルトールコレラ菌は、インドネシアのセレベス島が発生地域とされています。コレラは世界各地に広がっていますが、衛生環境が整っておらず安全な水の供給が行われていない地域で特に発生しやすい感染症です。
日本人の海外感染における推定感染地として多い国は、インド・フィリピン・インドネシア・パキスタンなどが挙げられます。これらの国に渡航される場合には、感染しないように十分に注意しましょう。
コレラを予防する方法はありますか?
コレラは、汚染された水・食品を口にすることで感染する病気です。流行している国に旅行・滞在する場合は特に以下のことに注意しましょう。生水・氷・生の生鮮食品を口にしない
十分に加熱したものを食べる
水・牛乳は一度沸騰させてから冷ましたものを飲む
安全な水から作ったことが確認できる氷以外の氷は避ける
野菜や果物は自分で皮を剥いたものを食べる
食事・調理の前・トイレの後は必ず手を洗う
プール・川などに入る場合は、誤って水を口にしないように注意する
食べ物や飲み物に気を付けていても、誤って口に入ってしまったプールの水から感染した例もあります。コレラの流行地に行く場合は、こまめに手を洗い、飲食物・水に注意することが予防として重要です。
経口コレラワクチンが使用されている例もありますが、日本では承認されている経口コレラワクチンはありません。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
コレラは、世界で流行している感染症です。日本国内で感染する可能性は低いですが、海外滞在中に感染する可能性は十分にあります。しかし、コレラは大半の人が適切な治療で治る病気です。
まずは感染を未然に防ぐことが大切ですから、流行地に行かれる際は予防に努め、万が一感染が疑われる場合には速やかに受診しましょう。
編集部まとめ
コレラと聞くと、命に関わる怖い感染症とイメージしている人も少なくないかもしれません。
しかし、現代では19世紀以前に多くの人が亡くなったものとは異なり、死亡率は2%と非常に低くなっています。
コレラは、適切な治療で治る病気です。適切な予防・対処がとれるように理解を深めておきましょう。
ただし、重症化する場合もあり死に至る可能性もゼロではありません。胃を切除された方・高齢の方は、重症化リスクが特に高いとされています。
命を守るためにも重症化リスクを抱えている人は、万が一の場合には速やかに医師に相談してください。
参考文献
コレラ(厚生労働省)
コレラとは(NIID 国立感染症研究所)