「過眠症」の初期症状・発症しやすい人の特徴はご存知ですか?医師が監修!

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寝たいわけではないのに、寝てはいけない場面であることは理解しているのに、どうしても強い眠気を感じてしまったり、居眠りをしてしまったりする過眠症。

それゆえに、周りから冷たい視線を向けられたり、いじめられてしまったりする方も少なくありません。

過眠症は「怠慢」だと思われてしまいがちですが、紛れもない病気です。では、過眠症とはどのような病気であるのか、過眠症の概要や経過・生活の注意点についてお伝えしていきます。

過眠症はどのような病気?

過眠症とはどのような病気でしょうか?

厚生労働省では、過眠を以下のように定義しています。「夜間十分な睡眠をとっているはずなのに、日中に目覚めていられないような病的な眠気がみられること。」このように過眠症とは、夜間の睡眠時間に関係なく日中に起きていられないほどの病的な眠気を感じたり居眠りをしてしまったりする睡眠障害の一種です。
過眠症には、オレキシンを生みだす神経細胞が機能しなくなることで発症するナルコレプシーや、中枢神経系の機能が異常を起こすことにより発症すると考えられる特発性過眠症などの病気があります。いずれにおいても、夜間にしっかり眠ることができているのにもかかわらず、日中に強い眠気や居眠りなどの症状が現れるのが特徴です。
一方で、睡眠時無呼吸症候群やうつ病など、睡眠の質が低下することにより過眠の状態を引き起こしている病気であることも考えられるため、治療をするうえで正確な鑑別が必要になります。また、過眠症では日中に眠気を感じるだけでなく、時間や場所・自分の意思にかかわらず居眠りをしてしまうことがあります。そのため、会議や商談中に居眠りをしてしまったり、眠気が強く授業中に集中できなかったりと日常生活に大きな影響を及ぼすことも少なくありません。
また、本人が居眠りをしてしまっている状態に気づかないこともあり最悪の場合は、居眠り運転で事故を起こしたり転落や転倒などの事故を起こす原因になったりすることもあります。そのため、周囲の人からは冷たい視線を向けられることや「怠けている」といわれてしまうこともありますが、過眠症は適切な治療が必要な病気です。

過眠症の症状を教えてください。

過眠症であるナルコレプシーや特発性過眠症では、日中の強い眠気や居眠りといった症状が共通して現れるのが特徴です。しかし、ナルコレプシーや特発性過眠症、睡眠時無呼吸症候群など、病気の種類によって現れる症状が異なる場合もあります。
ナルコレプシーの場合には、笑う・怒る・驚く・恐怖を感じるなどの突発的な感情が原因となり筋力低下が起こる情動脱力発作や幻覚、金縛りなどの症状が現れることがあります。
一方で、特発性過眠症はナルコレプシーと異なり、情動脱力発作や幻覚・金縛りなどの症状が現れないのが特徴です。また、夜間の睡眠時間を長く必要とするタイプと一般的な睡眠時間で目覚められるタイプがあり、さらにナルコレプシーと比較して日中の居眠りが長いという特徴もあります。睡眠時無呼吸症候群の場合には、日中の眠気のほかにもいびきや夜中に目が覚めるなどが症状としてあげられます。

どのような人がなりやすいのでしょうか?

過眠という状態は、実にさまざまな要因によって引き起こされるといわれています。つまり、過眠症という病気が眠気を引き起こしているのではなく、睡眠時無呼吸症候群やむずむず脚症候群・うつ病などのほかの病気の症状として現れている可能性があるということです。
しかし、病気がない方でも昼夜が逆転していたり疲労により睡眠不足の状態になっていたりすることで、日中に眠気を感じることもあります。その場合には、しっかりと休息を取ることで、自然と眠気がなくなるのが特徴です。

ストレスが原因と聞きましたが…。

前項でもお伝えしたように、過眠症の原因は多岐にわたります。過度な緊張感や不安がストレスになっていた場合、それらのストレスが直接的に過眠症の原因になっているわけではなくても、うつ病や双極性障害などを発症することがあります。それらの病気が日中の眠気を引き起こす原因の1つになることもあるため、見極めることが大切です。

過眠症の受診と治療

受診を検討するべき初期症状を教えてください。

夜間に十分な睡眠時間をとっているのにもかかわらず、日中に自分の意思と反して居眠りをしてしまったり、強い眠気を感じたりする方は医療機関を受診しましょう。受診するか迷ったときには、「自分自身の生活リズムを見直し、睡眠不足や疲労の蓄積によるものであるか」が1つの指標になります。
睡眠不足や疲労の蓄積による眠気の場合には、睡眠時間をしっかりと確保することで自然と眠気がなくなりますので、受診せずに休息を取ることが必要です。しかし、過眠症の場合には強い眠気や居眠りにより会社や学校など日常生活に大きな影響を与える可能性があります。自分自身の状態をしっかりと見極め、病的な眠気であると判断した場合には迷わず医療機関を受診しましょう。

過眠症を疑う場合は何科を受診すればよいでしょうか?

過眠症を疑う場合には、心療内科や精神科・脳神経内科・呼吸器内科・耳鼻咽喉科などを受診しましょう。過眠症の原因は多岐にわたることから、それぞれの症状に合わせた診療科を受診する必要があります。
しかし、過眠症の原因を自分自身で見極め、診療科を判断するのは容易なことではありません。どの診療科を受診したらよいか判断に迷ったら、かかりつけの先生に相談をしたり、睡眠障害を専門とした外来を設けている医療機関を受診したりするのもよいでしょう。

どのような検査を行いますか?

過眠症を疑う場合には、終夜眠ポリグラフ検査(PSG)や反復睡眠潜時測定検査(MSLT検査)などの検査を行います。終夜眠ポリグラフ検査(PSG)は、体に脳波や眼球運動などの情報を集積するセンサーを装着し、夜間の睡眠の質を分析する検査です。
睡眠時無呼吸症候群や睡眠時の不整脈などの病気を検知することもできる検査で、基本的に1泊2日で実施されています。反復睡眠潜時測定検査(MSLT検査)も同じく脳波や眼球運動を調べる検査ですが、日中の眠気の状態や居眠りをした際の入眠状態などを調べることが可能です。

治療方法を教えてください。

過眠症の治療は、ナルコレプシーや特発性過眠症などの「睡眠の質に関係しない病気による過眠症」、あるいは睡眠時無呼吸症候群やうつ病などの「睡眠の質に関係する病気による過眠症」のどちらに該当するかで治療法が異なります。「睡眠の質に関係する病気」に該当する睡眠時無呼吸症候群は、その病気に対する治療が行われます。
一方で、「睡眠の質に関係しない病気」に該当するナルコレプシーや特発性過眠症では、まず睡眠や休息をしっかりと取ることが重要です。十分な睡眠時間を確保したうえで、アルコールやカフェインなどの睡眠に影響する成分の摂取を控えたり、薬剤治療を取り入れたりします。

過眠症の予後と注意点

過眠症は完治するのでしょうか?

2022年10月時点では、ナルコレプシーや特発性過眠症などの過眠症を根本的に完治させる治療法は確立されていません。しかし、日々の睡眠時間の確保・睡眠に影響を及ぼす成分摂取の制限・薬剤治療などを行うことで、日中の眠気が落ち着いたり居眠りの回数が減ったりするなど改善傾向に進むことがあります。
睡眠時無呼吸症候群やうつ病などの病気による眠気である場合は、それらに対する治療を行うことで過眠の症状が落ち着く可能性がありますので、先生の指示に従って治療を行いましょう。

過眠症と診断された場合に日常生活で注意することを教えてください。

過眠症を発症していると、夜間に十分な睡眠をとっていても日中に強烈な眠気を感じたり、居眠りをしてしまったりすることがあります。学生であれば勉学に身が入らないだけでなく、授業中に居眠りをしてしまうことで学業不振に陥ってしまうことが考えられます。また、仕事をしている方であれば会議や商談に集中できず判断ミスをしてしまったり、居眠り運転や転落・転倒事故を引き起こす原因になってしまったりすることもあるかもしれません。
しかし、それらは怠慢や注意不足からくるものではなく、過眠症やそのほかの病気からくるものです。過眠症と診断されたら、周りの方から理解や協力を得ることがとても大切です。学校や会社などと相談し、医療機関の先生と協力しながら自身にあった方法を見つけていきましょう。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

寝てはいけないタイミングであることは理解しているのに、強い眠気や気づかないうちに居眠りしてしまうことで、周りからの冷たい視線やいじめ・冷やかしに悩んでいる方もいるのではないでしょうか。しかし、過眠症は「怠慢」ではなく、概念が確立された「病気」です。しっかりと治療をすることで過眠症の症状を緩和させることができますし、過眠を引き起こす原因によっては症状が落ち着くこともあります。そのため、過眠症を疑ったらまずは医療機関を受診し、専門の先生に相談するようにしましょう。

編集部まとめ


過眠症は自分の意思に関係なく、ウトウトしてしまったり居眠りをしてしまったりする病気です。日中の眠気は睡眠不足からくるものが大半であることから、周囲の方から理解を得られず悩んでいる方も少なくありません。

夜間にしっかりと睡眠時間を確保しているのにもかかわらず、日中に強い眠気や居眠りを繰り返してしまう場合には、心療内科や精神科・脳神経内科・呼吸器内科・耳鼻咽喉科を始めとする診療科がある医療機関を受診しましょう。

参考文献

過眠(e-ヘルスネット)