「腹膜炎」の症状・原因はご存知ですか?医師が監修!

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診断が遅いと命を落とす危険性がある腹膜炎ですが、ただの腹痛だと思っていたら注意が必要な病気です。一体どんな病気なのでしょうか?

虫垂炎にも似た症状で種類もあり、判断が難しいのでいざという時すばやく対応できるように、知識があるだけでも安心できます。

誰でも罹患する可能性がある腹膜炎の発症リスクをできるだけ回避していくためにも、具体的な原因と症状についてご紹介していきます。

腹膜炎の症状と原因

腹膜とはなんですか?

腸などを包んでいる膜のことです。
主に肝臓・胃・大腸・小腸などの内臓表面を覆っており、骨盤内にある膀胱・子宮・卵管などの表面を覆う腹膜もあります。広げると畳一枚分にもなる表面積の大きさです。

腹膜炎の症状を教えて下さい

急性腹膜炎慢性腹膜炎があります。
急性腹膜炎は、前兆として腹部の不快感や軽い腹痛が生じます。その後急激な腹痛がおき、部分的な痛みはやがて腹部全体におよび、吐き気や嘔吐・発熱・寒気などの諸症状があらわれることで歩行も困難になるほどの痛みを伴うのです。
一方で、慢性腹膜炎は2~3か月の間、腹痛や微熱・全身の倦怠感・食欲不振などの症状が悪化と緩和を繰り返します。
腹膜炎には部分的な炎症の限局性腹膜炎と、腹膜全体に広がる炎症の汎発性腹膜炎があります。
限局性腹膜炎より汎発性腹膜炎の方が炎症範囲が広いため、痛みも強い傾向です。汎発性腹膜炎は腹痛・吐き気・嘔吐以外にも、速い脈拍や速く浅い呼吸の症状がみられ、腹部を押さえると痛みが走り腹部の筋肉が緊張し硬くなることで血圧低下・頻脈・尿の量が減少するといった敗血症の症状もみられます。
腹膜に癌が転移する癌性腹膜炎の症状としては腹痛・発熱・嘔吐・体重の減少・消化液の逆流・不整脈・呼吸困難・腹部の膨満感です。また、腸閉塞や尿管閉塞・栄養失調になる方もいます。
特に女性が気を付けたいのが骨盤腹膜炎です。症状として下腹部痛・不正出血・性交痛・高熱・おりものの増量などがあげられます。虫垂炎と痛み方が似ているので間違えやすく注意が必要です。

腹膜炎になる原因はなんですか?

細菌要因と化学要因があり、細菌要因は急性虫垂炎・急性すい炎・急性胆のう炎など細菌感染です。肝臓・すい臓・胆のうなど腹腔内にある臓器の炎症が腹膜へ影響することが原因になります。
化学要因は外傷や腸間膜の虚血による消化管穿孔です。消化管穿孔とは消化管(胃・十二指腸・小腸・大腸)に穴があくことで、その穴から腹腔へ漏出した胃液・胆汁・大腸内の便が腹腔を刺激しその結果、炎症がおき胆のうや膀胱などに穴があいておきることもあります。
特発性細菌性腹膜炎は消化管の壁に明らかに穴がないのにおきる病気で、肝硬変が原因でおこる腹水により発症することもあり、腹部にたまった体液のある部位で多くみられるもので腹腔内に細菌が侵入することで発症するのです。
癌性腹膜炎の原因は、胃癌や生殖器系の癌・婦人科系の癌の細胞がお腹のなかに剥がれ落ちて転移します。
骨盤腹膜炎の場合、病原菌としてクラミジア・淋菌などが原因にあげられます。子宮頸管炎・子宮内膜炎から広がり発症することが多いです。

腹膜炎は重症化しますか?

腹膜炎は悪化すると重症化します。
全身に細菌が広がっておきる敗血症、またそれが進行すると多臓器不全になり命を落とす危険性があります。

腹膜炎のメカニズム・治療法

腹膜炎のメカニズムを教えて下さい。

発症するメカニズムは二つあり、一つは腹膜自体の炎症をおこす場合です。
腹膜炎のほとんどは消化管穿孔が原因です。消化管に穴が開きその穴から胃液などが腹腔内に漏出し炎症するケースですが、胃潰瘍が悪化し胃が穿孔することもあります。
消化管内の胃液や腸液などが腹膜を刺激してしまい、炎症がおきるというこの現象が消化管穿孔から腹膜炎をおこす最初の原因です。
二つめは腹腔内の臓器の炎症が腹膜に及ぶ場合です。
もともと腹腔内は無菌ですがそこへ消化液や便の中にいる細菌、バクテリアが血管内まで入り込むと無菌の腹腔内は菌の増殖も速く、血管内で毒素(エンドトキシン)を分泌します。
その毒素に対抗すべくサイトカインという感染から体を守ろうとするタンパク質が放出されますが、その数が多すぎると自らの肺や血液などの重要な臓器や器官を傷つけるという副作用もあるため、血液が全身に巡りづらくなってしまい敗血症や多臓器不全となり命を落とす場合もあるため注意が必要です。

検査方法について教えて下さい。

痛みなど症状がおきた時期、きっかけなど詳細の問診を行い過去の既往歴(虫垂炎や胃潰瘍など)も把握します。
血液検査・腹部エックス線検査・CT撮影・炎症の原因菌を調べる検査、呼吸機能を調べるための動脈血検査や細菌検査などの追加検査も必要に応じて行います。

主な治療法について教えて下さい。

汎発性腹膜炎の治療は主原因である消化管穿孔にあいた穴をふさぐ手術をし、同時に消化液や膿などで汚染された腹腔内を生理食塩水できれいに洗浄し、膿が再びのを防ぐため腹腔内に腹腔ドレーンを留置します。
もし手術ができないほど状態が悪い場合は、超音波やCT画像を確認して腹部に針を刺し体内から膿を取り出すドレナージと呼ばれる処置をし、汎発性腹膜炎が原因で腹部にたまった膿や水分を排出していくのです。
慢性腹膜炎は主に薬の治療になりますが管を入れ腹水を抜くこともあります。急性すい炎も薬の治療になりますが重症の場合は手術になることもあります。
癌性腹膜炎も腹水を抜く治療法をとりますが腹腔内に散らばった癌をすべて取り出すことが困難のため、外科手術を行うことはあまりなく鎮痛剤で痛みに対処することが多いです。
骨盤腹膜炎の治療は原因菌に合わせて抗菌薬が投与されます。

手術が必要な場合はありますか?

点滴しても改善しない場合や重症、もしくは急性腹膜炎は原則緊急手術になります。

胃・十二指腸潰瘍穿孔は腹腔鏡下に穴をふさぐ手術

大腸穿孔は腸の切除術とともに人工肛門になることが多い

虫垂炎は腹膜炎をおこした場合は手術で虫垂を切除

胆のう炎は体の外から胆のうに管を入れて胆汁を抜く処置、もしくは胆のう摘出術

急性すい炎は重症の場合手術になることがある

骨盤腹膜炎で炎症がひどくお腹に膿がたまっている場合、開腹手術で膿を出す

治療にはどれくらいの期間が必要か教えて下さい。

治療には入院後、抗生物質の投与など適切な処置を施し症状が治まるまで約1~2週間安静が必要です。
骨盤性腹膜炎は適切な治療を受けていただき完治まで4週間前後が目安です。

腹膜炎の予防法

腹膜炎の予防法を教えて下さい。

例えば、胃潰瘍や十二指腸潰瘍なら胃酸を抑えるお薬を服用することで胃や十二指腸に穴があいて腹膜炎になるのを予防することができます。
女性の場合の骨盤腹膜炎は、子宮頸管炎・子宮内膜炎・子宮付属器炎・性感染症が原因であることが多く完治まで時間がかかりますので性感染症にならないように対策をすること、予防をすることが大切です。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

早期発見・早期治療がなにより大切です。
人によっては少し調子が悪くても忙しくて後回しにしたり、我慢したりすることもあります。突然の腹痛・微熱を含む腹痛・歩くことが困難な腹痛などの症状がみられた時は、すぐに救急病院を受診しましょう。
体は資本です。仕事もプライベートも健康でなければめいっぱい取り組むことができませんので、毎日が楽しく過ごせるようご自身と周りの方の異変に気づいたらすぐに病院へ相談にいきましょう。少しでも読者の方々のお力になれたら嬉しく思います。

編集部まとめ


汎発性腹膜炎の原因のほとんどは消化管穿孔であることがよくわかりました。腹膜炎に限らずですがいつもと体調が違うと感じたら、先延ばしにしないことも悪化の予防策の一つになるのです。

痛みがひどいと自分の詳細な情報を伝えられないこともあると思いますので、ご家族など付き添いの方にも協力してもらいましょう。

参考文献

骨盤腹膜炎(塩野義製薬 女性感染症ナビ)