今年の“年クルマ”に選ばれたのは「日産 サクラ/三菱 eKクロスEV」だった(写真:日本カー・オブ・ザ・イヤー公式サイト)

12月9日、今年の「年クルマ」を選出する「2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤー(略称:COTY<Car Of the Year Japan>)」の最終選考会が横浜・みなとみらいにあるランドマークホールで行われた。

今年のイヤーカーに選出されたのは「日産 サクラ/三菱 eKクロス EV」だ。ちなみに日本カー・オブ・ザ・イヤーが1980年に創設されて以降43回目の開催となるが、軽自動車が受賞したのは史上初となる。

日産は2年連続、三菱は26年ぶりのイヤーカー受賞

この2台は日産自動車と三菱自動車が共同開発した兄弟車だが、日産自動車としては昨年のノートシリーズに続く受賞、三菱自動車としては第17回のギャラン/レグナム以来26年ぶりの受賞となった。

最も上位の点数を獲得した輸入車に与えられるインポート・カー・オブ・ザ・イヤーは「ヒョンデ IONIQ5」が受賞。ちなみにアジア系のメーカーが同賞を獲得したのも日本カー・オブ・ザ・イヤー史上初となる。

部門賞は秀でた内外装デザインを持つクルマに与えられるデザイン・カー・オブ・ザ・イヤーに「BMW iX」、革新的な環境・安全技術を備えたクルマに与えられるテクノロジー・カー・オブ・ザ・イヤーに「日産 エクストレイル」、感動的なドライブフィールが味わえるクルマに与えられるパフォーマンス・カー・オブ・ザ・イヤーに「ホンダ シビックe:HEV/シビックタイプR」、そして総合的な優れた軽自動車に与えられるK CARオブ・ザ・イヤーに「日産 サクラ/三菱 eKクロス EV」が受賞。つまり、日産サクラ/三菱eKクロスEVは“ダブル受賞”となった。

ちなみにノミネート車の条件は下記である。

・2021年11月1日〜2022年10月31日に発表または発売されたモデル
・継続的に生産・販売が行われ、一般消費者が特別な手段を用いずに購入できること
・2022年12月下旬までに一般消費者が日本国内で購入できること
・上記の条件を満たした全ての乗用車

ちなみにマツダ「CX-60」は複数のパワートレインを用意しているが現時点で上記のルールに合致するのは3.3Lのe-SKYACTIV 3.3Dのみ、ホンダ「シビック」も上記ルールに合致するのは今年追加されたe:HEV/タイプRのみがエントリー車両となっている。

今年は過去最少だった昨年の29台に対して43台がエントリー。カーボンニュートラルや半導体不足などまだまだ自動車業界にとっては非常に厳しい状況ではあるが、少しずつだが明るさを取り戻している。

このモデルの中から、自動車メディアを中心に構成された実行委員会が選任した60人の選考委員が第1次審査として10台のモデル(10ベストカー)を選出。ちなみに今年は10位のモデルが同票だったため、日本カー・オブ・ザ・イヤーの実施規定に準じて11台となった。最終選考はこの11台で行われるが、その採点にはルールがある。

1・選考委員の持ち点は25点

2・最も高く評価した1台に“必ず”10点を入れる

3・残りの15点を4台に配点

(ただし9点以下)

2位はシビック、3位にクラウン

その最終結果がこれである。

1 日産 サクラ/三菱 eKクロス EV 399点
2 ホンダ シビック e:HEV/シビックタイプR 320点
3 トヨタ クラウン 236点
4 マツダ CX-60 e-SKYACTIV D 3.3 141点
5 日産 エクストレイル 84点
6 ヒョンデ IONIQ5 75点
7 日産 フェアレディZ 72点
8 ルノー アルカナ 70点
9 BMW iX  45点
10 ランドローバー レンジローバー 30点
11  スズキ アルト 28点

表彰式には両社の開発者が登壇。日産自動車 第二製品開発部 第二プロジェクト統括グループ セグメントチーフ・ビークル・エンジニアの坂幸真氏は、「軽自動車初の受賞、開発に携わったすべての関係者の方々とこの喜びを分かち合いたいと思います。サクラは日本を代表する花の“桜”のように『日本を代表するクルマになってほしい』という願いを込めて名付けました。

そして、今日、日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞して、名実ともに日本を代表するクルマとなったということを本当に嬉しく思います。この受賞をきっかけに、ますます日本で電気自動車が普及することを期待しています」。

三菱自動車 商品戦略本部 チーフ・プロダクト・スペシャリスト 藤井康輔氏は「当社も日産自動車も、早くからBEV開発に取り組んできました。その間、決してうまくいくことばかりじゃなく、多くの苦労もしました。しかし『もっといいものができないか』と諦めず、両社がアライアンスで力を合わせお互いの強みを融合しながらこのクルマを作れたことが、今回このような評価をいただいたことに繋がっていると思っています。これからも日本の自動車産業の発展と、脱炭素社会に向けた環境への貢献を目指し、ますますいいクルマづくりに頑張っていきたいです」と各々に受賞の喜びを語った。

今年の最終選考会は2年ぶりのリアル開催となり、自動車メーカー担当者/実行員/選考委員が一堂に会して、独特な緊張感が漂う中で開票。スクリーンには各選考委員の配点表と10点を入れたモデルの選考理由を語る映像が流された。この模様はYouTubeでもライブ配信され、最大で4500人近い視聴があったそうだ。ちなみにCOTYのウェブサイトには文字での選考理由も掲載されている。

これは筆者の配点と10点を入れた選考理由である。

・トヨタ クラウン 10点
新たな高級車像を感じさせるエクステリア、どこかホッとさせるインテリア、心地よさを感じるデュアルブーストハイブリッド、AWDの駆動制御を活用した駆動方式の概念を変える走り……と言ったハード・ソフトの進化はもちろん、「このままではクラウンは終わる」という危機感から、真の意味での「革新と挑戦」を行ったパッションも含めて評価しました。世の中の反響の高さも考えると今年を最も象徴とする1台だと思っています。

・日産サクラ/三菱 eKクロス EV 6点
・ホンダ シビック e:HEV/シビックタイプR 4点
・ヒョンデIONIQ5 3点
・マツダCX-60 e-SKYACTIV D 3.3 2点

10ベストカーに選ばれた時点で精鋭

見ての通り結果とは違う評価だが、結果には異論はない。なぜなら、各々の評価基準で決めているため、意見が分かれて当然だろう。だから、選考委員は60人もいるのだ。筆者は良否判定機ではないので、単にハードの良し悪しだけでなくソフトも含め、買う人に気持ちになって総合的な評価を心がけている。

その要素は大きく3つで「目指したコンセプトがどこまで再現されているか?」「作り手の“魂”が強く感じられるか?」、そして「欠点を忘れるくらいの魅力があるのか?」である。

誤解なきように言っておくが、点が低い、もしくは点を入れていないクルマがダメではなく、そもそも10ベストカーに選ばれた時点で精鋭なのである。つまり、こう考えてほしい。10ベストカーに選出された時点でどのクルマも90点で、残りの10点をどう配点するかが最終選考会……というわけだ。

ここからは今回の結果を客観的に分析していきたいと思う。今年の10ベストカーは価格、ボディサイズ、パワートレインなど例年以上に多種多様だった。その辺りは配点に表れているのだろうか?

まずは10点を入れた選考委員が多いモデルを見てみると……、
・日産サクラ/三菱 eKクロス EV  23人
・ホンダ シビック e:HEV/シビックタイプR 16人
・トヨタ クラウン 7人

続いて、上記の3台の中で1点も入れていない選考委員を見てみると……、
・日産 サクラ/三菱 eKクロス EV 8人
・ホンダ シビック e:HEV/シビックタイプR 5人
・トヨタ クラウン 9人

さらに上記の3台で5点以上を入れている選考委員を見てみると……
・日産サクラ/三菱 eKクロス EV 41人
・ホンダ シビック e:HEV/シビックタイプR 26人
・トヨタクラウン 21人

「日産サクラ/三菱 eKクロス EV」の評価

これらから分析すると、つまり日産サクラ/三菱 eKクロス EVは多くの選考委員が「いいクルマである」だと判断していることがわかる。実はこれは、2019年のトヨタ「RAV4」、2020年のスバル「レヴォーグ」、そして2021年の日産「ノートシリーズ」と同じ流れである。

日産サクラ/三菱 eKクロス EVは、電動化という武器を用いることで、軽自動車らしい「コンパクトで扱いやすいサイズ」を一切犠牲にすることなく、軽自動車らしからぬ「走行性能」を高次元で両立させた1台である。

もちろん価格や航続距離(180km)の指摘がないわけではないが、軽自動車の1日の平均走行距離を考えれば実用に値する。カーボンニュートラル実現のためにさまざまな選択肢が必要な日本の未来を考えると、その一つとなるバッテリーEV普及のために、現実的な「解」を提案したことに対して、多くの選考委員が高く評価したわけだ。

シビックは走りの楽しさと燃費をバランスさせた新世代e:HEVと痛快で刺激的なタイプRの2つの「顔」が高く評価されたが、クルマとしての総合力という意味ではやや足りないところも……。さらにクラウンは日本で最も伝統のあるモデルを大きく変えたこと、世の中での話題性も高かったが、16代目の革新と挑戦の“本質”がシッカリと伝わっていないようにも感じた。この辺りは来年以降に登場する3仕様の派生モデルに期待したい所だ。

インポートカー・オブ・ザ・イヤーはヒョンデIONIQ5とルノー アルカナの得点差は5点と接戦だった。革新的な内外装デザイン、実用的な走行距離、コストパフォーマンスなどで世界でも高い評価を得ており、筆者も選考委員を務める昨年のワールド・カー・アワードでは「ワールド・カー・オブ・ザ・イヤー」「ワールドEVオブ・ザ・イヤー」「ワールドカーデザイン・オブ・ザ・イヤー」の3部門を受賞した。

これまで日本での韓国車の評価はクルマの実力以外の部分が足を引っ張っていた感があったが、今回は純粋にクルマとして評価されたわけである。

もちろん、今回の結果に異論がある読者がいるのもわかる。ネットには「●●に忖度」や「この結果はありえない」「評論家の見識を疑う」「点数のために金をバラまいている」といったようなコメントも見かけられたが、勘違いも甚だしく、そんなに自動車メーカーは甘くない。60名の選考委員は真剣に採点を行っていることを、理解してほしいと願っている。

COTYにも次の一手が必要か

一方で、日本カー・オブ・ザ・イヤーへのさらなるプレゼンス向上のためにも、次の一手が必要な時期に来ているのも事実だろう。一般投票があったほうがいいのか? 採点方法はこのままでいいのか? 多種多様なジャンルを一度に評価するのは是か非か? 

何が正解なのかはわからないが、自動車業界は100年に1度の変革期と言われているが、日本カー・オブ・ザ・イヤーも時代に合わせて柔軟に対応していく必要があるかもしれない。一番怖いのは「まだカー・オブ・ザ・イヤーってやっていたのね」「カー・オブ・ザ・イヤーなんて意味ない」と言われることだろう。そうならないためにも、選考委員の1人として貢献していきたいと思う。

(山本 シンヤ : 自動車研究家)