16代目クラウンが伝統のFRでなくなった必然理由
これまでのクラウンのイメージからガラッと変わった(写真:トヨタ自動車)
自動車の代表的な駆動方式の1つにFRがある。フロントエンジン・リアドライブの略で、その名の通り車体前方に動力源であるエンジンを搭載し、プロペラシャフトを介して後輪を駆動させる仕組みだ。
前輪を駆動させるFF(フロントエンジン・フロントドライブ)車に比べて、FR車は前後の重量バランスに優れ、前後輪で操舵と駆動の役割を分担でき、相対的に小回りも利きやすい。高級車やスポーツ車に採用されることが多く、ひと昔前は高級車では常識といえるほどだった。
それを象徴しているのが、最近のマツダの動きだ。マツダはプレミアム路線へのチャレンジを念頭に、縦置きFRレイアウトの新開発プラットフォームを用いたミドルクラスSUV「CX-60」を導入した。かたやトヨタ自動車は、これまでずっと縦置きFRベースを継承してきた「クラウン」の伝統を打破して16代目となる新型クラウンを横置きのFFベースとした。
16代目クラウンがFFベースとなった背景
クラウンがFFベースとなったのは、16代目クラウンが、先ごろ発売となった第1弾の「クロスオーバー」のような車高がやや高いリフトアップしたクルマにする方針に決まったところで、SUVの「RAV4」らと同じGA-Kプラットフォームを用いることになったからだ。その時点で新型クラウンに縦置きFRという選択肢はなくなった。それについて関係者の間でも異論はなかったようだ。
パワートレーンは、エンジンとモーターを併用したトヨタ独自のシリーズパラレルハイブリッドシステム(THS)と電気式4WDシステム(E-Four)を組み合わせた「THS+E-Four」において、いくつかバリエーションがある中から、エンジン排気量2.5リッターの「中容量」と関係者が呼んでいるRAV4やカムリらと同じユニットを使うことになった。開発段階では、「レクサスRX」や「レクサスNX」に設定のある「大容量」と呼ぶユニットとする案もあったのだが、省スペースかつ低コストで、しっとりとした質感を出せる点で、中容量がもっとも適すると判断したという。
今後の展開も気になるところだが、骨格の同じレクサスRXやレクサスNXにPHEV(プラグインハイブリッド)の設定があることから、エンジンコンパートメントとしては、将来的にはクラウンにもPHEVの追加も考えられなくもない。
新型クラウンのTHSのシステムについて、RAV4に対しては、コンパクトカーの「アクア」で初めて採用したバイポーラ型ニッケル水素電池を使った点が異なり、チューニングもRAV4とは使い方をだいぶ変えている。RAV4でもハンドリング向上のためリアに駆動力を多めに配分していたのが印象的だったが、16代目クラウンでは、その傾向をより強めている。
パワートレーン製品企画部の尾澤靖氏によると、目指したのは「FRでもないFFでもない走り」だという。もちろん従来のFRのクラウンから乗り換えたユーザーにとって違和感があってはいけない。そのためE-Fourの使い方を工夫するとともに、ハンドル操作と車速に応じて後輪が切れる角度を制御するDRS(ダイナミックリアステアリング)および旋回中に加速しようとするとき、内輪にブレーキ制御を行うことで、車両が外側にふくらむのを抑制するACA(アクティブコーナリングアシスト)を駆使した。
さまざまなデバイスを駆使した
「FFとFRというのは絶対的に違うもので、物理的にも異質です。そこをシームレスにし、FFでもFRでもないようにしようとすると、なんらかのデバイスを使わないと無理でしょう。新型クラウンには、E-FourだけでなくDRSやACAといったデバイスを使っています。ただし、入れるだけではなく、いかに作り込んでいくかが大事で、新型クラウンでもトヨタの実験部にもいろいろ指摘してもらいながら改良してきました」と尾澤氏も述べていた。
もともとE-Fourというのは、初代エスティマハイブリッドで初めて採用された。当時、開発者たちからは「ペラレスヨンク(=プロペラシャフトがない4WDの意)」と呼ばれていて、発進や滑りやすい低ミュー路でのアシストが主たる目的だった。ところが、ユーザーからの声もあって、出力を徐々に引き上げてパフォーマンスの向上を図るべく使い方を変えてきた。
今回、新型クラウンでRAV4に対して変えたのが、低ミューだけではなくて、滑りにくい高ミューの路面でも積極的に駆動に使っていることだ。約2倍の駆動力を配分するとともに、15度以上の舵角を与えたときに、高ミュー路でも積極的に出力するようにしている。また、DRSやACAはシャシー系のユニットであり、これまでパワートレーン系とあまりうまく連携できていなかったのだが、新型クラウンはかなり協調した制御を実現できた。
その甲斐もあって、「ユニットは同じでも操縦安定性のナチュラルさが増して、よりニュートラルステアになっています。とある方から、『これからの時代の電動車というのは、FFとかFRにこだわる必要はない』と評してもらえるほどに仕上げることができました。駆動方式にとらわれず、本当によいものをユーザーに提供したいと思っています」(前出の尾澤氏)
(写真:トヨタ自動車)
16代目クラウンを実際にドライブして、筆者もまさしくそのように感じた。振動の伝わり方にエンジンが横置きであることを感じるのは否めないが、操縦性は極めて素直で、前輪が駆動していることを感じさせない仕上がりであった。
クラウンであれば運転手付きの車であるショーファーカーとして使われることもあるだろうから、そのシチュエーションを考えると、後席に乗るといささか横方向の動きが早い気もしたのだが、クルマ自体の運動性能としては高いことには違いなく、FFベースになってもここまでできることを示すには、これぐらいがよい落としどころだったのだろうと納得した。
「DRSやE-Fourを駆使することで、操安性はもとより、クルマ全体の剛性が上がったようになります。リアが遅れることなくついてきて、横力がすぐに出ます。そこで、全車DRS付きとして、ステアリングを切ったときにクイックに応答するハンドリングを狙いました。THSというありものを使ったと言われたくなかったもので(笑)、クラウンに載せるからにはこうじゃないといけないというところを細かく煮詰めました」(前出 尾澤氏)
なお、リアモーターについて、THSのE-Fourは空冷式なので、あんまりバンバン使ってしまうと熱を持ってしまう。そこで、ここぞというところで出力を出すようにし、あまり必要ない状況では冷やすよう工夫しているが、より走りを訴求するワンモーターの「デュアルブーストハイブリッド」では出力を躊躇せず出せるよう水冷式としている。
2WDは設定せずに4WDのみとした理由
ところで、16代目クラウンが2WDを設定せず4WDのみとしたのは、クラウンとしてふさわしい乗り味を実現するには、やはり4WDがベストだと考えたから。実は開発段階では2WDの車両もあったのだが、リアの動きが落ち着かず、クラウンとして好ましいものではなかったのだという。もちろん、お伝えしたような駆動方式を感じさせないハンドリングを実現することも、2WDでは難しかったのはいうまでもない。
それもこれもポイントは“電動化”にある。電動化の技術の進化は、駆動方式に関する常識までも変えていくようだ。
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(岡本 幸一郎 : モータージャーナリスト)