西九州新幹線の部分開業を控え、在来の長崎本線は大きく変わります。佐賀県の肥前浜駅以南は非電化になるほか、博多方面への特急は激減。その電化・非電化区間の境目、鹿島市の状況から、在来線の課題が見えてきます。

新幹線開業とともに在来線は「非電化」に

 博多と長崎を結ぶ「西九州新幹線」の基本計画が1972(昭和47)年に決定してから約50年、そのうち武雄温泉〜長崎間(66km)が2022年9月23日に部分開業します。残り区間の新鳥栖〜武雄温泉間は未だ工事の見通しが立たず、武雄温泉駅ホームでの対面乗り換えが必要となりますが、この乗り換えを織り込んでも博多〜長崎間の所要時間は1時間30分ほど。現在運行されている特急「かもめ」より約30分短縮する見込みです。


肥前鹿島駅。朝6時台には上り2本、下り1本の特急が停車する(宮武和多哉撮影)。

 今回新しく開通する区間は、武雄温泉駅から佐賀県10市の中で唯一鉄道駅がなかった嬉野市を貫き、山岳部をトンネルで抜けて、長崎県諫早市、長崎市へ到達。長崎本線の悩みどころでもあった極端なカーブ・列車交換は解消され、距離も有明海沿いを行く長崎本線と比べ2割ほど短縮します。

 一方で、その長崎本線の肥前山口駅(新幹線開業と同時に江北駅へ改称)〜長崎間はJR九州の路線として残るものの、1日45本(1時間に1〜2本)運行されていた特急は博多〜肥前鹿島間の運行となり、本数も14本に減少。肥前山口〜長崎間は貨物の取り扱いも1999(平成11)年に終了しているため、幹線鉄道としての役目を終えることになります。今後はローカル路線としての存続となるため、コスト削減のために肥前浜〜諫早〜長崎間の電化設備撤去、非電化が順次行われる予定です。

メインルートから外れる佐賀県鹿島市 悩みは「特急激減」「長崎方面への移動消滅」

 今回の在来線の変化で、大きな影響を受ける自治体のひとつが、電化設備が存続する区間の末端、佐賀県鹿島市です。

 人口2.7万人を擁する鹿島市の玄関口、肥前鹿島駅の1日の利用者数は、2020年にはコロナ禍で1000人を割り込み830人ほどに。同年の佐賀県の調査によると、特急「かもめ」の利用者は1日平均で500人少々(うち通学110名)といいます。とはいえ、早朝には特急・普通ともに利用が集中している様子がうかがえました。

 朝6〜7時台には3本の特急がこの駅を発車、うち6時38分・当駅始発の「かもめ102号」、そして18分後の「かもめ2号」には、それぞれ16人、12人が乗り込んでいきました。この日は夏休み期間中とあって、どちらかといえばスーツ姿の人々が目立ちますが、福岡市内の大学・専門学校への通学にも使われているとのこと。

 なお肥前鹿島〜博多間は特急で1時間少々、この後7時台の1本までに乗車すれば、朝9時までに博多エリアへ到達できます。鉄道を利用すれば福岡市の通勤圏とも言える好条件を生かすべく、鹿島市ではJR九州と交渉を重ね、2002(平成14)年に前述の「かもめ102号」が運行を開始。通勤費用の手厚い補助などもあって、鹿島に家を購入して特急通勤する人も出るなど、定住の促進に成果を挙げてきました。

 しかしこの特急が、新幹線の開業とともに大幅な減便となります。鹿島市は最寄りの高速道路ICまでが20〜30kmと遠く、大都市圏へのアクセスは鉄道頼りで、博多・天神直通の高速バスも2002年に休止となったまま復活していません。減便の救済措置として新たに運行される特急「かささぎ」も、3年後をめどとして利用状況によってさらに減便が行われる見通しで、この街のセールスポイントであった「博多に近い郊外」の維持が、見通せなくなっています。


長崎本線 肥前山口〜諫早間で運用につくYC1系ハイブリッド気動車。非電化区間でも走れる。諫早駅にて(宮武和多哉撮影)。

 また、利用状況としては9割以上が上り(博多方面)で、下り利用は極めて少ないとはいえ定期利用者が存在するそうですが、その長崎方面への利便性が一挙に落ちることも悩みの種です。肥前鹿島〜長崎間は特急が全廃となるため、1時間強だった所要時間はほぼ倍に。嬉野温泉駅まで移動すれば新幹線利用で長崎駅まで約25分ですが、始発便の時間帯が遅いため長崎駅到着も十数分遅くなってしまいます。

鹿島市〜佐賀市は電化維持! 学区制自由化にひと役買うか?

 長崎本線は通勤・通学での普通列車の利用も多く、鹿島市街地の南端に近く自転車置き場が充実した肥前浜駅の朝晩の様子は、なかなか慌ただしいものです。なお肥前浜駅は特急列車の行き違いのために2面3線のホームを持ち、折り返し運転に対応できるとあって、当初は肥前山口駅〜肥前鹿島駅間だった電化の維持区間はこの駅まで追加となりました。

 肥前鹿島駅から佐賀・鳥栖方面に向かう普通列車は、新幹線開業前、朝は1時間あたり3本、日中でも1〜2本の運行。夏休み中にもかかわらず朝6〜7時台には肥前鹿島駅で30〜50人、肥前浜駅で10〜20人程度の利用が見られました。JR九州は「新幹線開業後も23年間は現行水準を維持する」としており、肥前浜駅は折り返し駅として、まだまだ活用されそうです。

 なお佐賀県は2023年度からの学区制度撤廃を控えており、もし新たな通学需要が生じる場合、長崎本線は対応にひと役買うかもしれません。これまで、鹿島市・白石町は西部学区(エリア内には鹿島高校・白石高校・太良高校など)に属し、佐賀市内(東部)への進学は、定員の20%程度の学区外枠での進学か、一部の学部や私立高校への進学に限られていました。


電化・非電化区間の境目となる肥前浜駅(宮武和多哉撮影)。

 しかし来春からは全ての規制が撤廃され、鹿島市から普通電車で30分少々(直通の場合)の佐賀市へ進学するハードルは下がります。現状でも前述の「学区外枠」で佐賀市内の公立高校(佐賀北・佐賀西など)に進学する生徒も多いそうですが、肥前鹿島〜佐賀間は現状のダイヤだとあまり通学に合った列車が少ない点が課題でした。

 一方で肥前浜から南、太良・肥前大浦方面はもとより運行が少なく、普通列車は朝晩でも1時間1本程度、昼間は13時台に1往復があるのみ。近年でも午前11時台の運行削減や4両→2両の減車が行われるなど、厳しい状況が続いていました。現状でも肥前鹿島〜諫早間は定期特急の停車駅がないので、この状況は非電化となっても大きく変わることはなさそうです。

意外と頑張ってる並行バス 鉄道と補完しあう役目とは?

 そして長崎本線の沿線では、鹿島市を本拠地とする「祐徳自動車」(祐徳バス)の路線バスが影の交通の主役を担っています。

 その路線網は鹿島駅前にある「鹿島バスセンター」を中心に、鹿島〜佐賀駅、鹿島〜太良〜竹崎港線などが、鉄道と並行する国道207号を走行しています。運賃は区間によって鉄道の倍、所要時間もかかるものの、並行する長崎本線は駅間が軒並み3〜4km離れており、バスは自宅近く→最寄り駅といった細かい利用がよくみられます。なお2019年までは佐賀市〜鹿島市〜県境(県界バス停)で長崎県営バスに乗り継ぎ、長崎市内まで向かうことが可能でしたが、佐賀県側の区間短縮によって途切れています。

 また祐徳バスは鹿島市から新幹線沿線である嬉野・武雄方面にも路線を持ち、1時間に1〜2本の運行で朝晩の通学輸送を担っています。市外への通勤はクルマ利用が多いものの、鹿島〜嬉野間のバス路線は嬉野高校(嬉野校舎・塩田校舎)通学する高校生の利用が過半数を占め、朝晩にはそれなりに利用者が多いのだとか。


肥前鹿島駅前にある「鹿島バスセンター」。本社も併設されているが、近々取り壊されるとのこと(宮武和多哉撮影)。

 なお祐徳バスは、新幹線開業とともに新幹線の嬉野温泉駅や、駅併設の道の駅への乗り入れを行う予定です。もし長崎本線の特急がこの後も減少を続けるとなると、博多への玄関口が肥前鹿島駅から、嬉野温泉駅・武雄温泉駅に代わっていく可能性もあります。現在の在来線区間である長崎本線の沿線地域にとって、できるだけ特急を維持するための乗客の確保が課題となってくるでしょう。

※一部修正しました(9月22日 8時)