デート中、元カレにそっくりな男と遭遇してしまった。そのとき、女が咄嗟にとった行動は…
「あの頃の自分が思い描いていたオトナに、ちゃんとなれてる?」
高校卒業から12年。
これは様々な想いを抱えて上京してきた、男女の物語だ。
恋に仕事に、結婚に。
夢と現実の狭間でもがく30歳の彼らが、導き出した人生の答えとは?
◆これまでのあらすじ
千紘はムラタクと、12年前に謎の死を遂げた恋人・大和について調べていた。そんな2人の前に、大和そっくりの男が現れて…?
▶前回:イイ雰囲気の男友達と、2人きりでドライブしていたら。彼の様子が、いきなりおかしくなって…?

夏原千紘、29歳。初秋の夜の衝撃
「どうかしましたか?」
ムラタクと地元・愛媛をドライブしていた私たちは、後輪がいきなりパンクしてしまい途方に暮れていた。
そこに、見知らぬ男性が声を掛けてきたのだ。真っ暗な山道にバイクを停めた彼が、近づいてきた瞬間。私たちは息をのんだ。
長いまつげと、少し癖のある前髪。そして弓なりの眉。
彼は、12年前に死んだはずの恋人に、あまりにもそっくりだったから。
「なんで…」
私の動揺をよそに、男性はパンクしたタイヤを覗き込んでいる。その横顔は、何度見ても大和に似ていた。恐る恐る、私は彼に歩み寄る。
「あの…。すみません、どなたでしょうか?」
近づいて彼の顔をよく見ると、目元は優しげな奥二重だった。くっきりとした二重だった大和とは、全然違う。
― なんだ、別人か。当然だよね。大和は死んだんだから。
複雑な気持ちのまま男性を見つめていると、彼は後方にある大きな白い建物を指さした。
「僕は、そこの工場で生産管理をしているものです。仕事終わりに山道で止まっている車が見えたので、事故かなと思って。パンクだったんですね」
そして「気をつけて。ここらへんに修理車呼ぶと、時間かかるんで」と言い、バイクにまたがった。
「あっ!ちょっといいですか?」
そのとき、ずっと黙っていたムラタクがぎこちなく微笑み、男性を引き留めた。
「なんでしょう…?」
「僕たち、山之内大和くんのクラスメイトだったんです」
その瞬間、彼は驚いたように大きく目を見開いた。
「…そうですか」
男性はそう言って、バイクのエンジンをかけようとしていた手を止める。そして私とムラタクを見つめ、深々と頭を下げた。
「生前は、お世話になりました」
大和と近しい人物でないと、言わないようなそのフレーズ。状況が飲み込めない私は、狼狽えながら彼のことをジロジロと見回した。
すると、彼が手に握りしめていたキーホルダーが目に飛び込んでくる。
「えっ、そのキーホルダーって…」
それは、高校1年生の4月。大和が当時小学生だった弟にプレゼントするために、私と一緒に買いに行った白クマのキーホルダーだったのだ。

あれから12年。すっかりグレーに変色してしまった白クマが、男性の指先で揺れている。
「…僕は、大和の弟の大志です」
ゆっくりと顔を上げた彼は、私たちを交互に見てから、もう一度小さくお辞儀をした。
「大志くんだったんだ。随分大きくなってたから、わからなかったよ」
「はい」
「一度、会ったことあるよね?地元のお祭りで。私、千紘って言います」
「あ、あぁ。…すみません。もう12年前のことなので、覚えていなくて。当時はいろいろとお世話になりました。じゃあ僕は、ここで」
まるで逃げるかのようにヘルメットを被った彼を、ムラタクが訝しげな表情で見つめている。そして、小さくつぶやいた。
「…そうだったのか」
「えっ。ムラタク、どうしたの?」
そのとき、真っ暗な山道が突然パッと明るくなった。

「千紘〜!」
うしろを振り返ると、ワゴン車が近づいてきているのが見えた。助手席の窓からは、亜美が手を振っている。運転席には浩二の姿も見えた。
「連絡しても繋がらないから、心配になって来ちゃった。大丈夫だった?」
その言葉に、私は慌ててスマホを見る。なんと気づかないうちに5件以上も着信が入っていた。
「ほんとだ。ごめんね、バタバタしてて」
「もう、すっごく焦ったんだよ…!事故に遭ったんじゃないかって」
そう言って車を降りてきた亜美は、思い切り私を抱きしめた。
「うぇーい!2人とも元気だったか?」
ムラタクが、亜美と浩二に声をかける。すると彼女は、さりげなく視線を逸らした。一方で彼らの微妙な空気に気づいていない浩二は、ヘラヘラ笑っている。
「お前、車パンクさせるとかダサいよ〜」
するとムラタクの肩を叩きながら爆笑していた浩二が、いきなり固まった。…視線の先には、大志くんが立っている。
「えっ、嘘だろ?なんで大和がここに…」
私と同じように、浩二も驚きで言葉を失っている。
そのときだった。亜美が、思いがけない言葉を口にしたのは。
「大志くん…」
亜美は目の前の彼を呆然と見つめて、小さくそうつぶやいたのだ。
「へえ。亜美、大志くんのこと知ってたんだ」
「あっ…。う、うん!」
「…なんで?」
ムラタクが、鋭い目つきで問いただす。すると彼女は「えーっと」と言いながら辺りをウロウロし始め「ご近所さんだったからね」と言った。
「本当にそれだけかな」
彼は低い声でそう言うと、車の中から1枚のファイルを取り出した。
中に入っていたのは、少し黄ばんだ2枚の書類。それは大和の事故について書かれた新聞の切り抜きと、1枚のメモだった。
「えっ!?ちょっと、何これ」
亜美が慌てた様子でムラタクに駆け寄り、書類を奪おうとしている。それをうまくかわしながら、彼は言葉を続けた。
「なあ、亜美。お前、大和の死について何か隠してるだろ」
「えっ、何の話?意味がわからないんだけど」
平静を装いながらも、彼女の唇はブルブルと震えていた。
「大和が死んだ翌日にさ、俺の親父に法律相談しに来てただろ。ちゃんと記録に残ってるんだよ」

「…えっ、亜美が?どういうことだよ」
何のことだかさっぱりわかっていない様子の浩二は、ムラタクの手の中にある書類を覗き込んだ。
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相談者:高原亜美(18歳)
相談内容:友達が死にました。逮捕されないか、知りたいです。
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「マジかよ。…亜美。これ、どういうこと?ちゃんと説明して」
浩二が強い口調で、亜美に問いかける。しかし彼女は固く口を結び、無言を貫いている。目には大粒の涙がたまっていた。
「なぁ、亜美。答えてくれよ!まさかお前、大和を…」
そのとき、ヘルメットを被ったまま立ち尽くしていた大志くんが小さくつぶやいたのだ。
「はい。僕が、兄を…」

▶前回:イイ雰囲気の男友達と、2人きりでドライブしていたら。彼の様子が、いきなりおかしくなって…?
▶1話目はこちら:交際2年目の彼氏がいる30歳女。プロポーズを期待していたのに…
▶Next:9月27日 火曜更新予定
ついに明らかになる、死の真相。大和はなぜ死んだのか…?

