「おしゃれな家」への憧れにはリスクがある。真に考えるべき家づくりの本質を、一級建築士が解説します(写真:metamorworks/PIXTA)

注文住宅を建てようと考える人が、今や必ず参考にするのが、インスタグラムをはじめとしたSNSです。写真や動画でほかの人が建てた家をチェックし「こんな個性的なデザインがいい」「キッチンはこれがいい」などと、自らの家を少しでもおしゃれにすべく情報収集を行い、それらをできる限り多く、自分の家づくりに取り入れていきます。

ではその結果、本当におしゃれな家ができているかといえば、そうはならず、むしろ快適に住むことのできない「不幸な家」が建ってしまうケースが後を絶たないようです。

書籍『後悔しない家づくりのすべて』の著者で、一級建築士YouTuberのげげさんが、「おしゃれな家」への憧れに潜むリスクと、真に考えるべき家づくりの本質について、解説します。

家づくりのゴールは、あくまで「幸せな暮らし」

せっかく家を建てるなら、人に自慢できるようなおしゃれな家にしたい。そう考えて、注文住宅を選ぶ人は、多いのではないでしょうか。

その気持ちはよくわかりますが、私の経験からいうと、「おしゃれな家」を目標として家づくりを行うと、できあがるのはほとんどの場合、快適性を欠き、住みづらく、後悔の多い「不幸な家」です。

そして残念ながら、生涯の長きにわたり、その現実と向き合っていくことになります

なぜ、おしゃれな家を目指すと家づくりで失敗しやすいのか。それは、「見た目のおしゃれさ」はあくまで家の構成要素の1つにすぎず、家づくりの本質に据えるには力不足だからです。

私が思う家づくりの本質は、たった1つ。

「そこで末永く、幸せに暮らせる家をつくること」しかありません。

さて、あなたにとって「幸せな暮らし」とは、なんでしょう。広い庭があると幸せ。家族が一緒にくつろげる場所があると幸せ。自然を眺めながら暮らせれば幸せ。趣味の空間があれば幸せ。人によりさまざまでしょうが、きっと幸せな暮らしを構成する要素は、1つではないはずです。

そうした複数の「かなえたい暮らし」を1枚の絵に落とし込むように、間取りやデザイン、外観といった要素を組み立てていくのが、幸せに暮らせる家をつくるためのゴールデンルートであるというのが私の考えです。

もちろん「おしゃれな空間で暮らすことが幸せ」である人もいるでしょうが、ただそれだけに目を奪われてしまえば、ほかに望むべきあらゆる要素が薄れてしまいます。

その反動は、家を建てた後に現れます。「使いづらい」「動線がよくない」「飽きた」……。そうやってストレスのたまる家になってしまうのは、本当に避けなければいけません。

では、幸せに暮らせて、かつおしゃれな家を建てるには、どうすればいいでしょう。

自分なりの「おしゃれの基準」をつくる

前提としては、先ほど述べた「ゴールデンルート」に従い、かなえたい暮らしから逆算していく必要があります。それを行う中での、「おしゃれな暮らし」を現実のものとする方法について、解説していきます。

まず理解しておきたいのは、「おしゃれさには明確な定義がない」ということです。おしゃれかどうかの基準は、自分の中にしか存在しません。何の基準もないまま、とにかく情報を集めようとすると、どこまでいってもきりがなく、いつまでも満足できずにインターネットの海をさまようばかりで疲弊するだけです。

また、自分に基準がなければ、自信を持って選択することができません。ようやく間取りが完成しても、それがつまらなく見え、「もっと個性的でなければ、注文住宅にする意味がない」といった強迫観念によりますます家づくりの本質を見失うことになります。ちなみに快適で住みやすい「幸せな家」は、間取りだけ見ればシンプルで、平凡なものが多いです。

情報収集の際には、ある程度集めた段階で、それらの画像や動画を並べ、共通項を探すといいと思います。そこで「インテリアは北欧風に惹かれる」「植物のある家が好きなようだ」「キッチンは……」「間取りは……」というような自らの傾向が見て取れるはずです。それを言語化していくと、自分が家に求めるおしゃれさの基準が固まってくるでしょう。

そのようにして一度基準ができてしまえば、情報収集の効率は格段に上がります。また、家全体にも統一感が生まれやすく、結果として印象がぐっとよくなります。

SNSで検索をかければ、おしゃれに思えるデザインや要素が、数限りなく出てきます。それらの中から気に入ったものを集めて家をつくれば、確実におしゃれに仕上がると考え、実行する人がよくいますが、「すてきな断片」だけ集めると、高い確率で「不幸な家」になります。

快適さや耐震性、備えるべき条件が山のようにある

住宅とは、さまざまな要素の集合体であり、おしゃれさ以外にも、生活導動線や快適さ、耐震性、プライバシーなど、最低限備えるべき条件が山のようにあります。そんな無数の諸条件をバランスよく整理するために、建築士をはじめとしたプロフェッショナルがいるわけです。


それらを無視して、無理に「すてきな断片」だけを集めて家を建てれば、そのひずみはいたるところに現れ、必然的に住みづらい家になります。

また、「すてきな断片」を集めても「すてきな全体」になるとは限りませんよほど大きな家でない限り、色を4つ以上使ってデザインやインテリアをコーディネートするだけで、雑多な印象となり、おしゃれさが失われるものです。

デザインに統一感を出すには、前述の「自分なりのおしゃれの基準」をもとに、SNSなどで、まずは1部屋、いいなと思うものを選び、そこにある素材、色、インテリアなどのルールをほかの部屋にも適用していくのが、もっとも失敗の少ないやり方です。

この方法なら、たとえデザインのセンスに自信がなくとも、おしゃれな家に仕上げることができますから、ぜひ試してみてください。

(げげ : 一級建築士YouTuber)