8月5日、2022−23シーズンのリーガ・エスパニョーラ開幕を1週間後に控え、レアル・ソシエダはアスレティック・ビルバオとバスクダービーを戦っている。

 スペインの北にあるバスク自治州は独自の言語、文化を持ち、サッカーでも彼ら固有の流儀がある。衝突でぶっ倒れても、すぐに起き上がれるか。その「屈強さ」がさらに激しいプレーを生み出す。バスク人はスペインの他の地域の人々よりも、身長が高いだけでなく体格が大きい。もともと肉体的ぶつかり合いを土台とし、同時にコンタクトを恐れない闘争心と反骨を求めるのだ。

 この日のダービーも、プレシーズンとは思えないほど苛烈だった。ファウルギリギリの格闘が各所で相次ぎ、他のリーグの試合だったら一触即発の様相を呈していただろう。お互いが空中でぶつかってもんどりうって倒れても、チームのためにポジションを獲る。彼らにとってはそれが"通常運転"で、その激しさをクリアできなかったら、技術など意味がない。

 バスクで最も憎まれるのが、惰弱さなのである。

 先月、レアル・ソシエダに新加入した日本代表の久保建英(21歳)は"バスク式テスト"に合格したか?


アスレティック・ビルバオ戦に先発した久保建英(レアル・ソシエダ)

 久保はプレシーズンマッチで4−4−2の中盤ダイヤモンドのトップ下も担当していたが、この日はイマノル・アルグアシル監督が4−3−3の採用したことで、右サイドアタッカーとして先発出場した。

 2部エイバルとのダブルヘッダーで、ビルバオ戦のほうが主力は多かったが(特に守備陣)、エイバル戦もダビド・シルバ、イサクなど主力組が先発しており、どちらが開幕先発組という分け方はしていなかった。あくまでテストの一環だろう。久保の場合、よりタフなバスクダービーを経験させることが重んじられたのかもしれない。

 試合は立ち上がり、ビルバオの圧力にチームが押し込まれて、なかなかビルドアップができず、久保はボールを受けても孤立していた。相手の左サイドバック、スペイン代表でパリ・サンジェルマンにも所属していたユーリ・ベルチチェの強いマーキングを受け、アンカー、左サイドアタッカーにも三方を囲まれた。ボールキープし、失わないのがせいぜいだった。

現地メディアは久保のプレシーズンに好意的

 受け身に回るとやや弱さも出たか。簡単にクロスを上げられてしまい、押し返せない。22分、FKからヘッド一発で先制点を浴びたチームの流れを変えられなかった。

 もっとも、プレー強度には怯んでいない。ラウル・ガルシアの危険なタックルを食らったのも、周りが警戒していた証拠だろう。38分には中央でコンビネーションを使いながら、分厚い中央の守備にドリブルで突っ込み、2人、3人と体をつかまれ、タックルを受け、倒されたところで相手の足に頭部を強打されたが、負けん気の強さを見せた。

 ボールを失っても取り返すなど、課題はクリアしたと言える。

 そして後半は、久保が攻撃面でもよさを見せた。前半は右サイドに固定されすぎていたが、中央まで積極的に動くことによって、ビルバオ守備陣を撹乱。それがチーム全体に伝播し、攻撃のリズムがよくなった。右サイドからピンポイントでヘディングに合わせるクロスも放ったし、アシエル・イジャラメンディのスルーパスを引き出し、あと一歩のところでGKと1対1になるところだった(相手DFが猛然と伸ばしてきたタックルに絡めとられた)。

 最後は76分、自陣からのカウンターでボールロストしたところで、明らかに疲労も見えていただけに、交代を命じられた。

 全体を通じ、及第点と言えるプレーだった。右サイドを出発点にしながら、中央でボールを受けた時、より技術の高さが出た。コンビネーションが合わない場面はあったが、プレシーズンを最初から戦ったわけでもなく、そこは大目に見るべきだろう。バスク式の格闘でもプレー精度を下げなかったことは、何より指揮官に好印象を与えたはずだ。

「久保はまだ決定的な仕事はしていないが。ラ・レアル(レアル・ソシエダ)のファンはそのプレーを驚きで受け止めている。期待していたファンは少なかったが、見通しは明るい」

 スペイン大手スポーツ紙『アス』もプレシーズンを総括し、好意的な評価だ。

「久保は、4−4−2のトップ下でいい印象を残している。多くのプレーに関与し、アクティブに味方と通じてコンビネーションを使い、ラインの間でボールをさばける。そうかと思えば、個人の力でゴールに迫る。ドイツでの試合ではGKの前でひとつフェイントが多かったし、ボーンマス戦でも右からダイアゴナルに入ってのシュートがわずかに外れたが。然るべき進化を遂げている選手だ」

 8月14日、カディスとの開幕戦を控え、久保は少なくともバスクの名門レアル・ソシエダの一員として認められたと言えるだろう。