●EOS R7とEOS R10、まとめて実写チェック

キヤノンの「EOS R7」と「EOS R10」は、EOS Rシステム初のAPS-Cモデル。フルサイズに対するAPS-Cサイズのイメージセンサーのメリットといえば、ボディや専用レンズがコンパクトにでき、価格も比較的手に入れやすいものとなることでしょう。また、同じ焦点距離のレンズの場合、フルサイズと比べ画角が狭くなるため、より強い望遠効果が得られやすいこともあります。反対にデメリットとしては、イメージセンサーの集光効率を考慮するとフルサイズほどの多画素化ができないこと、より広い画角を求めるにはAPS-C専用の広角レンズを必要とすることなどが挙げられます。ここでは、そのような特徴を持つEOS R7とEOS R10の実写レビューをお送りしたいと思います。

先行して販売が始まった「EOS R7」に続き、末っ子モデル「EOS R10」も7月28日にいよいよ販売がスタート。夏のレジャーシーズンや秋の運動会シーズンに気になる話題作の実力を実写でチェックしました

EOS R7とEOS R10は兄弟機ながら、細かな部分が異なる

まずはおさらいとして、それぞれの主だったスペックをチェックしてみましょう。

EOS R7は有効3250万画素CMOSセンサーと映像エンジンDIGIC Xを搭載。APS-C機としては十分すぎる解像度を持つとともに、最新の映像エンジンを搭載します。画像処理は高速で、メカシャッターおよび電子先幕シャッターでは最高15コマ/秒を達成。電子シャッターでは30コマ/秒となります。いずれも、クラスを考えれば不足を感じることはまったくありません。最高シャッター速度はメカシャッターおよび電子先幕シャッターで1/8000秒で、ハイエンドモデル「EOS R3」と同じとなります。動体撮影や絞りを少しでも開いて撮影したいときなど重宝しそうです。電子シャッターの場合は、さらに高速の1/16000秒としています。ただし、電子シャッター撮影時のローリングシャッターゆがみはEOS R3ほど抑えられていないとのことで、使用する際は被写体の動きに注意が必要です。

APS-Cフォーマット専用のRF-S 18-45mm F4.5-6.3 IS STMを装着したEOS R7。持ったときの重量的なバランスはとてもよく感じられます。実売価格は、ボディ単体モデルが198,000円、RF-S 18-45mm F4.5-6.3 IS STMが42,500円前後

EOS R7を正面から見たシェイプは、フルサイズのEOS R5やEOS R6とよく似た雰囲気です

背面は液晶モニターがその多くを占めています

感度はISO100からISO32000で(静止画撮影の場合)、拡張機能によりISO51200相当での撮影も可能。動画については、4K/30fps(UHD Fine時、UHDでは4K/60fps)での撮影が楽しめます。センサーシフト方式の手ブレ補正機構を備えているのも特筆すべきところ。レンズシフト方式の手ブレ補正機構を備えるRFレンズであれば、協調補正により最高8段分の補正効果が得られます。さらに、このボディ内手ブレ補正機構を応用した自動水平補正機能を備えているのも、EOS R7の魅力となっています。

一方のEOS R10は、有効2420万画素CMOSセンサーと映像エンジンDIGIC Xを搭載。不足のない解像感と最新の映像エンジンを備えます。こちらも画像処理は高速で、メカシャッターおよび電子先幕シャッターではEOS R7と同じ最高15コマ/秒、電子シャッターでは23コマ/秒を達成しています。最高シャッター速度はメカシャッターおよび電子先幕シャッターで1/4000秒、電子シャッターで1/16000秒となります。電子シャッターでのローリングシャッターゆがみについてはEOS R7と同様で、動く被写体の撮影では動きに注意が必要です。感度もEOS R7と同じとしており、ISO100からISO32000まで(静止画撮影の場合)。拡張機能によりISO51200相当での撮影も可能です。動画は、4K/30fps(UHD時/UHDクロップでは4K/60fps)での撮影が楽しめます。なお、ボディ内手ブレ補正機構は搭載が見送られています。

RF-S 18-45mm F4.5-6.3 IS STMを装着したEOS R10。同じレンズを装着するEOS R7の写真と見比べると、ボディが一回り小さいことが分かります。ボディ単体モデルの実売価格は128,500円

こちらはEOS R10の正面。ボディがEOS R7よりもさらに小さく、そのためマウントが一際大きく感じられます

背面の操作部材は必要最小限でシンプルといえるでしょう

AFについては、両モデルともトラッキング機能の搭載と被写体検出機能「EOS iTR AF X」の進化が特徴となります。トラッキングは、AFエリアから被写体が外れても画面内に被写体がある限りピントを合わせ続ける機能。特にAFモードが「SERVO」のときに有効で、EOS RシステムのAFがより進化したことを感じさせます。EOS iTR AF Xは、人の顔や瞳に加え頭部なども検知ができ、動物、野鳥、クルマ、ヘルメットを被ったオートバイのライダーなども対応。これまでよりもさらに捕捉精度が増し、被写体を見逃すことがありません。

被写体検出機能「EOS iTR AF X」はさらに進化し、EOS R7とEOS R10は検出できる被写体も精度も向上。「人物」の「瞳」では、マスクを装着した状態でも検出が可能です

被写体追尾(トラッキング)は、EOS R7およびEOS R10ともデフォルトでONに。AFモードが「SERVO」のとき、AFエリアから被写体が外れても追尾が可能です

撮影者とのインターフェースの要、電子ビューファインダー(EVF)は、EOS R7は0.39型236万ドットで倍率は1.15倍。EOS R10は0.39型236万ドットとEOS R7と同じですが、倍率は少し低く0.95倍としています。どちらも高精細であるうえに、コントラストも高く光学式ファインダーのようなすっきりとしたクリアで色の偏りのない表示が特徴となります。液晶モニターは、EOS R7が3.0型162万ドット、EOS R10が3.0型104万ドットとしています。どちらもタッチ式のバリアングルタイプとなります。

EOS R7の液晶モニターはバリアングルタイプの3.0型162万ドット。コントラストが高く、クリアな画像を再現します

EOS R10の液晶モニターは3.0型104万ドット。EOS Rシリーズでは定番のバリアングルタイプとしています





EOS R7、EOS R10とも電源スイッチはトップカバー右端に備わります。これまでEOS Rシリーズの電源スイッチはトップカバー左端にあり、片手でON/OFFの操作ができなかっただけに大きな進化といえます

EOS R7のサブ電子ダイヤルはマルチコントローラーと同軸に。カメラをホールドする右手の親指が素直に置ける位置となります

EOS R10にもマルチコントローラーが備わります。AFエリアを直感的に素早く移動させることが可能です

EOS R7、EOS R10とも絞り込みボタンと同軸のフォーカスモードスイッチが新たに備わりました。そのため、現時点でラインナップする2本のAPS-C専用RF-Sレンズは、フォーカスモードスイッチが省略されています

EOS R7およびEOS R10ともマルチアクセサリーシューとなり、ホコリや水滴の侵入を防ぐためカバーが付属するようになりました

EOS R7はSDカードのダブルスロットとしています。4K動画や大量に静止画を撮影するときなど便利。同時記録にすれば、気持ち的にも安心です

EOS R10は、ミラーレスEOS Rシリーズとして初めてストロボを内蔵しました。ガイドナンバーは6(ISO100)。ポップアップは手動となります

EOS R7およびEOS R10ともボディ内で深度合成が可能。撮影したその場で結果が分かるため、納得するまで何度でも撮影が楽しめます

ボディ内手ブレ補正機構を備えるEOS R7では、撮影時の画面の傾きを補正する「自動水平補正」機能を搭載。常に水平な写真が得られます

両モデルとも、シャッターボタンを半押しから全押ししシャッターを切った瞬間から0.5秒前からの画像を記録するプリ撮影モードを搭載。なお、EOS R10ではクロップでの撮影となります

フルサイズのEOS Rシリーズと共通の絵づくり、AF性能も文句なし

EOS R7の操作性や写りについて、その印象はとてもよいものです。特に、トラッキングは多くの撮影シーンで使い勝手がよいように思えます。今回、レビュー用の評価機が届いたとき、AFモードはSERVOに設定されてましたが(デフォルトはONE SHOT)、この組み合わせが動きものの撮影のほかスナップなどでも具合がよく快適でした。マルチコントローラーでAFエリアを被写体と重ねたあと、シャッターの半押しで捕捉を開始するのですが、カメラアングルが変わったときなどAFエリアから被写体が外れてもトラッキングで被写体を高精度で捕捉し続けるため、幾度もシャッターの半押しを行う必要がなく、常に精度の高いピントが得られるのです。AFモードのデフォルトは、ONE SHOTではなくSERVOでもよかったのではと思えるほどです。

写りについては、普段私が使用している「EOS R5」などと絵づくりに大きな違いは感じられません。厳密に比較すると、ハイライトやシャドーの粘り、階調の微妙な違いなどあるのかもしれませんが、そのようなことなど気にならないレベルといえます。おそらく、フルサイズEOS Rシリーズと併用して同一の被写体を撮影した場合、写した写真からカメラを見分けることは難しいものと思われます。高感度ノイズの発生については、ISO3200を超すと画像の拡大率によっては目立ちはじめますが、それでもよく抑え込んでいるように思えます。エッジの解像感の低下や色のにじみも、常用感度域なら許容できると思います。拡張機能によるISO51200相当では、ノイズの発生などが顕著になりますが、個人的にはそれでもまったく使えないレベルではないように思えます。

高精細でコントラストの高いEVFにより、ピントの状況など把握しやすく感じます。シャッター音がちょっと安っぽく感じられるのは残念に思えるところです EOS R7・RF-S 18-150mm F3.5-6.3 IS STM・絞り優先AE(絞りF8・1/500秒)・-0.33補正・ISO100・WBオート・JPEG

サブ電子ダイヤルは一見操作しにくそうに見えますが、思いのほか快適。カメラを持つ右手の親指が自然な感じで操作ができ、撮影では速やかに露出補正ができます EOS R7・RF-S 18-45mm F4.5-6.3 IS STM・絞り優先AE(絞りF7.1・1/640秒)・-0.67補正・ISO100・WBオート・JPEG

レンズの性能によるところも大きいですが、エッジの立った解像感の高い写りです。ちょっと露出を切り詰めていますが、階調再現性も高く不足のない写りです EOS R7・RF-S 18-45mm F4.5-6.3 IS STM・絞り優先AE(絞りF8.0・1/640秒)・-0.33補正・ISO100・WBオート・JPEG

明暗比の高いシーンですが、ハイライトおよびシャドーの階調はよく粘っているように思えます。AFも速く、シャッターボタンの半押しとともに間髪を置かず合焦しました EOS R7・RF-S 18-45mm F4.5-6.3 IS STM・絞り優先AE(絞りF5.6・1/1000秒)・-1補正・ISO100・WBオート・JPEG

望遠レンズの圧縮効果を活かして撮影。焦点距離は装着したレンズのテレ端150mmですが、手ブレの発生はよく抑えられており、シャープネスの高い写りが得られました EOS R7・RF-S 18-150mm F3.5-6.3 IS STM・絞り優先AE(絞りF8・1/320秒)・-0.67補正・ISO100・WBオート・JPEG

動体撮影ではトラッキング機能により、ピントを外してしまうことはありません。また、焦点距離倍数1.6倍により、フルサイズに比べより高い望遠効果が得られました EOS R7・RF 70-200mm F2.8L IS USM・絞り優先AE(絞りF2.8・1/4000秒)・-0.33補正・ISO200・WBオート・JPEG

●末っ子のEOS R10も好印象の仕上がり!

EOS R10ですが、AFはEOS R7と同じ印象です。トラッキングもEOS iTR AF Xも捕捉精度や合焦の速さなど際立った違いはなく、ローエンドクラスのカメラだからという引け目は一切感じません。AFエリアの選択もマルチコントローラーを備えているので、直感的な選択が可能。こちらもEOS R7と何ら変わらない部分であるとともに、クラスとしては贅沢な仕様のように思えます。写りについても同様で、EOS R7と異なるイメージセンサーながら高感度特性などは似通っており、良好なノイズ特性と述べてよいものです。機能や装備を細かく見ると、EOS R7よりも性能的に下回るところもありますが、意図的にデチューンしたように思えてしまうほどです。

装着したRF-S 18-150mm F3.5-6.3 IS STMのテレ端での撮影です。AFモードはSERVOですが、ピントの緩さは感じられず、しっかりと被写体を捕捉しています EOS R10・RF-S 18-150mm F3.5-6.3 IS STM・絞り優先AE(絞りF8・1/640秒)・-0.67補正・ISO100・WBオート・JPEG

レンズの特性もありますが、レンガの一枚一枚をしっかりと描写しており、極めてシャープネスの高い写りです。「レンズ光学補正」の「周辺光量補正」は、この場合ONにしたほうがよかったように思えます EOS R10・RF-S 18-45mm F4.5-6.3 IS STM・絞り優先AE(絞りF8・1/400秒)・-0.67補正・ISO100・WBオート・JPEG

EOS R10のサブ電子ダイヤルは、カメラを背面側から見てトップカバーの右端にありますが、これはこれで露出補正では使いやすく、速やかな設定が可能に思えます EOS R10・RF-S 18-150mm F3.5-6.3 IS STM・絞り優先AE(絞りF6.3・1/320秒)・-0.33補正・ISO100・WBオート・JPEG

EOS R10のAFモードSERVOの精度やスピードはEOS R7と同じと述べてよいと感じます。AFエリアと重なった被写体に対し速やかにピントが合い、画面のなかで見逃すことがありません EOS R10・RF 70-200mm F2.8L IS USM・絞り優先AE(絞りF2.8・1/400秒)・ISO400・WBオート・JPEG

ショートバックフォーカスを活かした光学系や、カメラ側のデジタルレンズオプティマイザなどの電気的な画像処理により、画面周辺部まで鮮明に結像。隙のない写りが得られました EOS R10・RF-S 18-45mm F4.5-6.3 IS STM・絞り優先AE(絞りF8・1/640秒)・-0.33補正・ISO100・WBオート・JPEG

こちらも画面周辺部までしっかりと結像しており、不足のない解像感です。掲載した作例では若干周辺減光が気になりますが、「周辺光量補正」をためらわずONにするとよいでしょう EOS R10・RF-S 18-45mm F4.5-6.3 IS STM・絞り優先AE(絞りF8・1/400秒)・-0.33補正・ISO100・WBオート・JPEG

APS-C専用のRF-Sレンズ2本、描写性能やサイズ感は上々

今回、EOS R7やEOS R10と同時に発表されたRFマウントレンズ初となるAPS-Cフォーマット専用の「RF-S 18-45mm F4.5-6.3 IS STM」と「RF-S 18-150mm F3.5-6.3 IS STM」を作例撮影でメインに使いました。いずれも、得られる画角に対して軽量コンパクトな鏡筒であるとともに、強力な手ブレ補正機構やスムーズなAF駆動を行うSTMを装備しています。

RF-S 18-45mm F4.5-6.3 IS STMのテレ端45mm時の状態。フィルター径は49mm、レンズフード(EW-53)は別売です

RF-S 18-150mm F3.5-6.3 IS STMのテレ端150mm時の状態。フィルター径は55mm、レンズフード(EW-60F)は別売です

こちらの写りについても、カメラと同様に隙を感じさせません。レンズの性能を引き出しやすいショートバックフォーカスの光学系や、PMo非球面レンズなど高性能なレンズの採用などにより、Lレンズに負けるとも劣りません。もちろん、カメラ側の「レンズ光学補正」の「歪曲収差補正」など電気的な処理によるところもありますが、絞り値や焦点距離に関わらず、高い描写特性を誇ります。APS-Cフォーマットに最適化されたRFレンズは、いまのところこの2本しかラインナップされていませんが、EOS R7およびEOS R10ユーザーであれば、どちらか一本は持っていて損のないレンズといえます。

2本のEF-Sレンズとも、EOS R7/EOS R10に装着すると「レンズ光学補正」の「歪曲収差補正」は自動的にONになり、ユーザーが操作できなくなります

両レンズとも、鏡筒はマウント周辺部に対し一回りほど細くなっています。RFレンズでは鏡筒に備わっていたフォーカスモードスイッチはいずれも省略されています

今回リリースされた2本のEF-Sレンズ、ともにマウントはプラスチック製。金属製のマウントを採用するワンクラス上のレンズの登場にも期待です

EOS R7とEOS R10、そしてRF-S 18-45mm F4.5-6.3 IS STMとRF-S 18-150mm F3.5-6.3 IS STM、いずれも使って楽しく、そして満足いく結果が必ず得られるように思えます。個人的にもとても興味深く、レビューの間、度々懐具合を見直す機会の多いものでした。RF-Sレンズが今後充実していけば、EOS R7とEOS R10の魅力はさらに増してくることは間違いですし、さらなる展開もとても楽しみなカメラに思えます。

余談となりますが、EOS R7とEOS R10の登場で気になるのが、同じAPS-Cセンサーを搭載するEF-MマウントのEOS Mシリーズの動向です。RFマウントの口径サイズを考えると、その存在意義はこれからも変わらないものであるように思えてなりません。EOS RシリーズのAFが移植されたり、ベテランでも満足する操作性や仕上がり、スタイルなどを持てば、こちらもEOS R7やEOS R10と同様に光輝くように思えてしまうのですが、いかがでしょうか。

著者 : 大浦タケシ おおうらたけし 宮崎県都城市生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、雑誌カメラマンやデザイン企画会社を経てフォトグラファーとして独立。以後、カメラ誌および一般紙、Web媒体を中心に多方面で活動を行う。日本写真家協会(JPS)会員。 この著者の記事一覧はこちら