多数の艦載機が行き交う空母の甲板で、効率よく航空機をさばく無数の甲板作業員。彼らは色とりどりの出で立ちですが、なぜそんなに複数の色が必要なのでしょうか。実は、目立つ格好をするのには意味がありました。

空母のうえでは目立ってナンボ

 世界最大級の水上戦闘艦といわれるアメリカ海軍のニミッツ級航空母艦(空母)。このクラスは全長約333m、満載排水量は10万トン強あり、搭載する航空機はF/A-18「スーパーホーネット」戦闘機やEA-18G「グラウラー」電子戦機、MH-60「シーホーク」ヘリコプターなど合計70機程度にも上ります。

 まさしく「洋上の航空基地」という形容詞どおりのボリュームを誇る軍艦ですが、数多くの航空機を運用するため、操艦要員とは別に2000名以上の航空要員が乗り込んでおり、航空機を運用するうえでは決して広いとはいえない空母の中をせわしなく動き回っています。

 とくに飛行甲板で作業する航空要員は「フライトデッキ・クルー」と呼ばれ、ジェット戦闘機やヘリコプターなどを安全かつ効率的に運用するために、彼らは役割分担をしています。その役割が一目でわかるようにするための工夫が、“派手な上着”です。


アメリカ海軍の空母甲板で、前方を指して射出の合図を出すカタパルトオフィサー(黄色)と、カタパルトステーションに座って操作盤を操るデッキエッジオペレーター(左端の緑色)(画像:アメリカ海軍)。

「フライトデッキ・クルー」は、原則として紫、青、緑、黄、赤、茶、白の7色で区分けされます。紫は燃料関係、青は牽引車やエレベーターの操作、航空機の固定など、緑はカタパルトや着艦ワイヤー、メンテナンスや貨物の取り扱いなど、黄は航空機の移動や離着艦関係を担っているそう。

 ちなみに、この黄色の上着を着たクルーは、戦闘機のカタパルト射出などで艦首方向へ手を伸ばして合図を送るシーンなどが『トップガン』を始めとした各種作品でよく描かれているので、空母の航空要員のなかでは比較的知られた存在と言えるでしょう。

 赤はミサイルや爆弾など武器関係と事故時の救助を、茶は航空機の管理を担当しています。そして、白は安全管理や医療関係とされています。なお、空母を訪れたVIP(要人)なども白色の上着を着用するといいます。

 そして、この7種類の色分けに加え、シャツ(ジャージ)やライフベスト、専用ヘルメットの3つで色の組み合わせを変えるほか、さらにベストの背面やヘルメットに数字や文字を追記することで、100以上の職域(役割)に細分化しているそうです。

レインボーギャングの成り立ちと由来

 空母の甲板作業員(フライトデッキ・クルー)は、前出したような見た目から「レインボーギャング」と呼ばれることもありますが、このカラーリングによるオペレーションの明確化、効率化は第2次世界大戦後のアメリカ海軍で始まりました。

 その後、この色分けはイギリス海軍やフランス海軍の空母運用でも導入されましたが、両国の空母は甲板作業員がそれほど多くないため、アメリカ海軍ほどの細分化は行われていません。

 ただし、近年急速に空母の運用を拡充している中華人民共和国(中国)海軍については、将来を見据えてなのか、アメリカ海軍と同じようにベストとシャツで異なる色を組み合わせる形を採用し、役割の明確化、細分化を図っています。


飛行甲板に並んだデッキクルー。色の規定は上半身のみで下半身はバラバラ(画像:アメリカ海軍)。

 なお、アメリカ海軍を始めとして、各国海軍の甲板作業員は腕まくり厳禁です。なぜなら、エンジン排熱や油などでやけどを負ってしまわないようにするためで、同様に眼球を保護するためにゴーグルは必須とされています。

 ちなみに、海事用語では「ギャング」というのは荷役作業員のグループや港湾労働者たちを指す言葉です。そこから転じて、各種艦載機をさばく作業員の一団として、色とりどりの格好と合わさり「レインボーギャング」と呼ばれるようになったようです。