女性活躍推進はどこへ向かう?「全上場企業、役員1人以上」は実現可能か - 中野円佳
※この記事は2018年04月13日にBLOGOSで公開されたものです
女性活躍推進法の施行から2年が経ち、見直しの時期を迎えている。森友問題、加計問題、陸上自衛隊のイラク派遣部隊の日報問題など、安倍政権は現在様々な論点を抱えており、今それどころではない。ただ、2012年末に第2次安倍政権が立ち上がった際に打ち上げた「女性活躍」は、実はじわりと進んでいる側面もある。
「ガイドライン」発表で起きた3つの動き
私は2016年度に「競争戦略としてのダイバーシティ経営(ダイバーシティ2.0)の在り方に関する検討会」(座長 北川哲雄 青山学院大学大学院国際マネジメント研究科教授)という会議に、委員として参加していた。この会議では、企業に対する強制力はないものの「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」という指針を発表した。
実はその後、このガイドラインは次のような動きにつながっている。
①ダイバーシティ100選や、なでしこ銘柄の選抜基準が変わった
「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」に沿って、① 経営戦略への組み込み. ② 推進体制の構築. ③ ガバナンスの改革. ④ 全社的な環境・ルールの整備. ⑤ 管理職の行動・意識改革 ⑥ 従業員の行動・意識改革. ⑦ 労働市場・資本市場への情報開示と対話 が評価ポイントとなっている。
この会議の特徴は、投資家やコーポレートガバナンスの専門家が何人も入っていたこと。ただ単にダイバーシティ推進室を設置してそこに丸投げしているのではなく、「経営者自身がコミットをしているか」が重要だと言う。こうした意見も踏まえ、CSRレポートなどではなく、中期経営計画などの経営戦略に書き込んであるかどうかなどが重視されるようになった。
また、2017年度からダイバーシティ100選は「100選プライム」という全社的かつ継続的な取り組みをしている企業を表彰しており、カルビーとNTTデータが受賞対象となった。
経産省と東京証券取引所が共同で実施している「なでしこ銘柄」についても、ガイドラインを反映した7つのアクションが評価の軸になっている。経産省によれば3分の1程度の企業が入れ替わっており、落選した企業の一部は「ダイバーシティを掲げたはいいけれど、実態が伴っていない」とみなされたともいえる。
②実際にESG投資が活発になってきた
次に、上場企業については、実際に投資家がダイバーシティ、そして女性活躍を具体的な投資や議決権行使の基準に盛り込みはじめたということがあげられる。
米大手機関投資家のステートストリートは今年から、取締役会に女性役員(または候補)がいない場合、株主総会において指名委員長提案に反対票を投じる方針を、米英などに加えて、日本とカナダでも実施することを発表している。
米大手議決権行使助言会社のグラスルイスは、2019年よりTOPIX100の構成企業を対象に、取締役会に女性がいない場合(かつ十分な合理的理由がなく、達成までの道筋も描けていない場合)、会長もしくは社長の選任議案に反対票を投じるよう投資家に推奨することを決定した。
そして、日本でもっとも影響を持つGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が、昨年7月、女性の活躍に注目した「MSCI日本株女性活躍指数(WIN)」を選定しはじめた。これは、女性活躍推進法によって企業が開示した「採用者に占める女性比率」「男女の平均雇用年数の違い」などのデータをスクリーニングし、スコアが高い企業を組み込んだパッシブ運用のインデックス投資だ。
③役員に最低1人を明記へ
そして、昨年末、安倍政権の「新しい経済政策パッケージ」(閣議決定)において、コーポレートガバナンス・コードの見直しがされ、取締役会に最低女性を1人いれることが事実上目指されることになった。現在の比率は、3.7%。OECDで下から2番目に少ない。1社1人いれると、10%近くに引きあがるという。それでも10%以下だ。
5日、「競争戦略としてのダイバーシティ経営(ダイバーシティ2.0)の在り方に関する検討会」は8回目会合を開き、この目標実現に向けた人材育成や方策について議論をした。私もスカイプで参加させてもらった。会議では企業に開示を求めるKPIとしての女性役員の定義について、取締役なのか執行役員なのか、監査役は入れるのかどうかなど明記すべきではないかという議論があった。
「全上場企業で役員を最低1人、女性に」は現実的か
しかし、いずれにせよ「全上場企業で役員を最低1人、女性に」。これは果たして現実的だろうか。
おそらく、まず企業が考えるのは、社外取締役として外部の人材に入ってもらうこと。しかし、男性であれば一線を退いた経営経験者がいくらでもいるだろうが、女性は世代的に数が少ない。今、現役でバリバリ経営にかかわっている人は他社の取締役をやりづらい。となると、弁護士や会計士、学者などに専門家として監査的な機能を果たすことが考えられる。
しかし、東証だけで上場企業は約3600社ある。2018年2月公表の朝日新聞と東京商工リサーチの調査によれば、東証1部上場する企業で社外取締役を務める4482人のうち、4%にあたる191人が4社以上で社外役員(社外取締役、監査役)を兼務していたという。こういった人たちが仮に1人4社掛け持ちしたとしても、900人の人材が必要になる。
しかし、当然就任すれば職務を果たす必要があり、株主総会通知には出席率が記載されることもあるし、投資家によっては発言回数などにも注目する。不正などが起これば当然責任も問われる。これらを担える人の争奪合戦になってしまいそうだ。しかも、兼務については投資家から厳しい目線もある。
であれば、実は社内できちんと引き上げていくことのほうが本質的で、有効かもしれない。内部で役員レベルに登用できる人材なんかいない、と嘆く声も出てきそうだ。しかし、登用の前の段階で、「無意識の偏見」で成長機会や大きな事業の責任を「女性には任せられない」と思い込んでいないだろうか。
欧州などでは、こういった女性のハンディを補うため、「スポンサー制度」という仕組みを導入している企業がある。役員などが自分の責任で女性を育てるもので、実際に人事権を持って様々な配置をして経験を積ませ、ポジションに就く準備をしていく。机上の研修ではなく、実務を伴う。
以前、大手企業役員経験者の女性に取材をした際、「万が一失敗してもいいような新規事業ではなく、社運をかけて取り組むような事業の責任を任せてもらえることが必要」と聞いた。あってもなくてもいいような事業の責任者を任せるだけでは人は育たない。会社として失敗できない事業になると、トップはじめ、他の役員や各部署が女性だから云々ではなく、全力で支えてくれる、支えざるを得ないからだという。
また、役員クラスでもパワハラやセクハラ、社外取締役でさえ「いじめ」のようなものに遭うという話も聞く。こうした状況も含めて受け入れ態勢を整えることも必要だろう。
「全上場企業で女性役員1人以上」。このインパクトが、実を伴う女性活躍につながってほしい。「競争戦略としてのダイバーシティ経営(ダイバーシティ2.0)の在り方に関する検討会」は5月以降も会議が続く。