読者と議論しながら「新聞紙面」を作っていく~朝日新聞の新しい試み「フォーラム」 - BLOGOS編集部
※この記事は2015年06月08日にBLOGOSで公開されたものです
読者とともに新聞に掲載するコンテンツをつくっていくという新聞社の新しい取り組みが始まっている。朝日新聞が2015年4月にスタートした「フォーラム面」だ。同社のオピニオン編集部が中心となり、朝日新聞デジタルに新設されたフォーラムページを使って、読者と議論を行いながら、紙面を作っていく。このフォーラムでは、1つのテーマについて4週間にわたって議論を行い、それを踏まえた記事を毎週日曜の紙面に掲載していく。4月は「格差」、5月は「PTA」に焦点を当てた。次の6月は「ロボットと私」に決定した。
それに合わせて、5月20日には、東京・渋谷の朝日新聞メディアラボ分室で「公開編集会議」が開催された。「ロボット」をキーワードに記者と参加者が活発な意見交換を行った。その様子はインターネットでも配信された。(取材:岸田浩和)
「今回の試みは全く新しいもの」
この日の公開編集会議には、朝日新聞でフォーラム面を担当する5名の記者・編集者と、1日編集長を務める人型ロボットのpepper、そして約20名の一般参加者が集まった。会議の座長を務めたオピニオン編集部の江木慎吾編集長は、冒頭で「去年の一連の不祥事から、我々が信頼を取り戻すためには何が必要かという話し合いを社内外で行い、もっと読者の声を聞くべきなんじゃないかという声が多数上がったことが、きっかけの一つ」と話し、「読者と一緒につくる紙面を一つ立ち上げようということになった」と、フォーラム面誕生の経緯を語った。
新聞社と購読者のコミュニケーションについて、江木編集長は「以前より、読者が編集部に投書をするなどの機能はあったが、今回の取り組みは全く新しいものだ」と話す。「その理由の一つは、朝日新聞デジタルというインターネット上の紙面に、読者が中心となって議論ができる、常設の広場を立ち上げたことにある」と説明した。
「日々、購読くださっている読者の皆さんだけでなく、ふだん新聞を購読していない人たちや、朝日新聞に批判的な立場の人の声も一生懸命聞いていこうと考え、”読者”という言葉の枠組みをより幅広く捉えなおすことにした」と語り、その一環として、デジタル版に「読者と議論していく主戦場」を設けたと力を込めた。
フォーラムの新しいテーマを「ロボットと私」にした理由について、高橋万見子記者は「いよいよ今年、人型のロボットが町中にたくさん出てくるだろう」と触れ、「人とロボットの関わりが本格的にスタートするタイミングで、私たちがロボットをどのように受け入れてゆけば良いのか、議論させてもらいたいと思った」と話した。
朝日新聞社を見学に訪れた中学生に「ロボットに適した職業とは?」という質問を行い、「親の介護、部活の顧問、塾の先生」という答えがあがったと紹介。「では、ロボットに任せるべき仕事は、どんな領域だろうか?」という問いかけから、議論がスタートした。
「求められているのは、人間が安心できるロボット」
参加者の一人は、インターネット検索サイトの人工知能が利用者の傾向をもとに、広告を表示 したり、リコメンドする機能に触れ、「ロボットや人工知能が発達すると、便利になる反面、人間がますます考えなくなるのではないか?」との疑問を呈した。田中記者が「実際に、ロボットや人工知能に自分が誘導されている不安を感じるか」と質問すると、会場からは「コントロールされていることすら、気づかないこともあるんじゃないか」という答えがあがった。「自分が使うはずの機械に、支配されてしまう不安」が語られる一方で、「ロボットや人工知能の発達で、考えなくてもいい世の中がやってきても、人間はまた新しい思考領域を見つけてそこに時間を費やすのではないか。それで、人間がまた新しいステージに進めるのであれば、進化の一つではないか」という前向きな考えも出された。
仕事でロボット開発に携わっているという参加者からは「ロボットに仕事を奪われるという話があるが、これだけ世の中にロボットが普及すれば、開発者やエンジニアの需要はさらに高くなるはず。実際に仕事が増えている実感もある」といった、現場の声が紹介された。
さらに「ロボットに不可能な領域はあるのか?」という議論では、「ロボットが役者を務めた演劇で、観客が感動した」という事例が記者から紹介され、アートや人の心の領域にも、ロボットが近づきつつあることがテーマとなった。
参加者から、ロボットに求めるビジュアルに関し「容姿やしぐさを人間に似せる努力を行っても、余計に不気味に感じることもある」といった声が上がると、高橋記者から「pepperも、最初は人間に近いビジュアルで開発されたが、ロボットらしい容姿に変更したことで、親近感が増した」というエピソードが紹介された。議論は「求められているのは、人間のようなロボットではなく、人間が安心できるロボットではないか」という話に展開した。
「読者との双方向のコミュニケーションはまだ不慣れ」
初の公開編集会議を終えた高橋記者は「当初は、ロボットの活躍の場や利用方法などを議論する、現場に近い話になると思っていた」と答え「ロボットと人の違いや、ロボットとは何かを問う、根源的な話になったことが印象的だった。もっとこういう話をしたい、聞きたいという、皆さんの思いが分かったことが大きな成果だ」と話した。さらに、今回の取り組みについて「私たちはこれまで、一方向の発信に慣れてしまっているので、今回のような双方向のコミュニケーションは、まだ不慣れに感じることもある。どう転ぶか分からない読者との議論をうまく展開させて、奥行きのある記事に昇華させていきたい」と、抱負を語った。
参加者の一人、フリーランス・ライターの村中貴士さん(41)は、新聞という大きなメディアの編集現場に興味を持ち、参加したという。「ロボット開発の技術者が複数おられたので、自分がふだん触れることのない開発現場の話が聞けたことが一番の収穫」と話し、「今後も同様の機会があれば、ぜひ違うテーマでも参加したい」と話した。
メディアラボの竹原大祐プロデューサーは、従来の新聞メディアとは大きく異なる手法に挑戦したことについて、「私たちは少し、読者との距離が遠くなってしまったという反省点がある。原点に返って『読者とともにつくる』という姿勢に舵を切りたい」と総括した。
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