「流れで暴言を発する人に、対話は無意味」 - 赤木智弘
※この記事は2015年05月16日にBLOGOSで公開されたものです
サンリオが展開するキャラクター、シナモロールシリーズのメインキャラであるシナモンのTwitterが大変なことになっている。 その愛らしいキャラクターらしく、毎日公式のTwitterアカウントで可愛らしいツイートを行っているのだが、それに対して「死ね」などの暴言が多数飛び交う事態になっているという。(*1)これに対してサンリオ側が、企業アカウントには珍しく、暴言を送ってきた人をブロックするなどをしたことから、ここ数日話題となっている。
言ってしまえば、シナモンが暴言の対象になったことに、理由などないのだろう。ただ、たまたまそういう「流れ」になっただけのことであり、暴言を送る側も「そういう流れだから」という理由だけで暴言を送りつけているのであり、それ以上でも以下でもない。
実際、ブロックをされた人が「そんなつもりは無かった、ブロックを解除してください」と懇願しだしたり、逆に今回の騒ぎを受けて「ブロックされた俺スゲー」などといった、まるで自らの意思で暴言を他人に送りつけたことを反省せず、さも他人事のように扱っているさまが見て取れる。
同じようなパターンは、例えばお笑い芸人のスマイリーキクチ氏に対する一連の誹謗中傷や、その他、同じようなネット上での誹謗中傷でもみられる。つまり、暴言を書いたり拡散する側は、自らのやっていることの意味を全く理解せず、仮に誰かに問題を指摘されたとしても、それを簡単に「ネットに流された」などと責任転嫁をしたり「そういう流れなんだから、それをやって何が悪い」と開き直るのである。その「流れ」の向こうで苦しんでいる他者がいようと、そんなことはお構いなしだ。
今回の件でも、シナモンのTwitterを担当している人の心労は測りしれない。
もちろん、今回ブロックをしたことから、担当者がこうした暴言を目にすることは少なくなったに違いない。しかし一方で、シナモンの個別ツイートを閲覧すれば、それに付けられたレスが一緒に表示されてしまう。その結果として、シナモロールシリーズが想定しているであろう客層である子供たちが暴言を見てしまうことになる。
これを子供が面白がってマネをする可能性も高く、今回シナモンに暴言を送っていた中にも、そうした子供がいたであろうことも想像できる。
こうした問題に「暴言を送ってはいけない」と、実際に死ねと書いている人に諭しても無意味だ。なぜなら、これらのツイートをしている側は、たとえ「死ね」と書いていたとしてもそれを暴言だとは思わず「みんながやっている流れに乗っているだけ」と理解するからだ。注意をすれば「みんなやっているのに、なんで俺だけ注意するんだ!」と逆ギレされるのが関の山である。
つまり、制限速度60キロの道路を、みんなが時速70キロで走っていれば、やがて「流れに合わせるのは当然」と、時速70キロが常態化するのと同じことである。
これを抑止するには、権限を持つ組織が、そうした行為を徹底的に排除していくしかない。道路であれば取り締まりを強化するなどして「やっているみんな」への反則キップを切りまくって、時速70キロで走る流れを断ち切るしかない。
それと同じように、こうした暴言の流れが発生しているのであれば、サンリオが表象的なフォロワー数にこだわらず、暴言排除の姿勢を明確にする意味でブロックをしたのと同じように、Twitterの管理責任を有するTwitter社が、暴言アカウントに注意をしたり、アカウントを停止したりするという強権を発揮するしかないであろう。それでもシナモンへの暴言を吐きたければ、別のWebサービスで暴言を吐けばいい。そしてそれらのサービスでも利用停止にされればいいのである。
これは決して表現の自由に反することではない。あくまでも個々のサービスが「暴力的な表現を使う人に、サービスを利用させない」という管理責任を正しく発揮しているにすぎないからだ。ネットの中には「暴力的な表現もOK」というサービスもあろうから、それを利用すればいい。
そうして暴力的な発言が公式アカウントから遠く離れれば離れるほど、シナモンをフォローしているだけの人たちが、不意に暴言に晒されることは少なくなる。
今回の件で必要な措置は、暴言を吐く人を更生させることではなく、単にシナモロールが好きなだけの人が、不意に暴言に触れてしまう機会を減らすことである。これをまず企業の責任で行うべきである。
では、暴言を吐く人については……これは本人が暴言で一時的に人気を得て人を集めても、そうして集まった人も暴言を吐く程度の人であり、そうした人とコミュニケーションをとってもつらいだけで一切得しないという現実を、本人が学ぶしかないのだろう。
*1:シナモンへのいじめリプ止まらず… サンリオ「悲しく思っております」(KAI-YOU.net)http://kai-you.net/article/16778