※この記事は2015年04月15日にBLOGOSで公開されたものです

 東洋経済曰く、続出する"お粗末IPO"。

 過激だけど仰るとおりな内容の記事が二階堂遼馬記者の手によって表に出て、それ以外にも上場ゴールに対して批判的な論調が続出して騒ぎになっているIPO、エクイティファイナンス界隈ですが、改めて本稿では問題意識を整理したいと思います。

続出する"お粗末IPO"、問題の本質はどこに
http://toyokeizai.net/articles/-/66052

 冒頭にお断りしておきますが、私自身や私の経営する会社・ファンドはgumiの株式をまったく保有しておらず、取引もありません。しかしながら、私ときわめて関係の近い法人がgumiに上場前から投資を行っており、当時から懸念される内容について私が知りうる立場にあったため、本件記事については当事者の承認を取り問題のない内容に落とし込む添削を経ての掲載であることをご承知おきください。

■Gumiはどうするべきだったか?

 gumiの問題点というのは、諸所で指摘されている通り上場ゴールと呼ばれる一連の株式上場スキームを、主幹事証券である野村證券の主導のもと、日本のもっとも権威ある市場である東証一部に直接上場することで達成したことです。

 この問題を微分すると、幾つか立体的に見えてくる部分があるかと思うのですが、各論を述べると長くなるので主たる要素を2点挙げます。

1) 甘すぎる業績見通しで上場を強行したため、上場後に四半期もたず下方修正に至った

2) 上場前に大型ファイナンスを行っており、上場後も30億円の借り入れを行った

 日本取引所も決断を下し異例の発表をするなどして、騒動に一定の道筋が見えてきた状態であることは言うまでもありません。

最近の新規公開を巡る問題と対応について
http://www.jpx.co.jp/news/1020/150331-02.html

 そもそも論として、gumiの上場にあたっては、その申請書類の中にあるとおり、売上の主体がヒット作『ブレイブフロンティア』一本足であることから、そのタイトルの調子如何によって下方修正される可能性があることは明記されています。

新株式発行並びに株式売出届出目論見書
http://gu3.co.jp/ir/library/files/gumi_m50118682.pdf
http://gu3.co.jp/ir/library/files/gumi_m50118683.pdf

 32p4項に「4【事業等のリスク】」という形で並べられている文言は、この手の業界の上場においてはテンプレ的な表現ですが、いわゆる「一芸上場」においては、その業績がハネる可能性もあるし、崩壊する危険性もあります。そのような企業がパブリックオファーをかけるにあたって、東証一部という市場が適切だったのかどうかはまず考えるべきでしょう。

 gumiの企業としての将来性が確かであり、経営者も社員も株主もその成長力を確信して経営しているのであれば、東証一部上場や海外市場での上場の前捌きとして東証マザーズでの上場をステップとして踏んでいれば、gumiも株主も野村證券ももう少し冷静な対応を市場から引き出せたのではないかと感じます。

■上場にいたる仕組みは妥当であったか

 同様に、プライシングも加熱しており、上場直前に大型ファイナンスを実施しているのもgumiの特徴です。gumiの公開価格は3,300円であり、過剰に強気な業績見通しに基づいた公募価格決定過程の透明性が欠如していたようにも見受けられます。一義的にはこの価格が高いか安いかではなく、根拠の開示など透明性がある程度ないと、東証一部に相応しい「1036万株、総額342億円の売出」というだけの銘柄であったかどうか、外部からははっきりしないというのが実情です。

 ただ、証券界や当局が関心を持つ状況証拠としては、野村証券系のジャフコをはじめ、WiL、B Dashベンチャーズ、新生企業投資、三菱UFJキャピタル、DBJキャピタルといったVC界隈、および同業者であるグリーとセガネットワークス、さらに今月上場を控えるgunosyの前代表の木村新司さんが1214円で、IPO半年前にgumiの第三者割当増資を引き受け。また、上場3ヶ月前には巷であれこれ噂のLINEが1342円で増資に応じ、大口株主の上位に入っています。

 上場ゴールと揶揄される所以はこの手の「お友達ファイナンス」とでも言うべき身内増資でIPO目前の有利な株券を回し、評価額ベースとはいえ半年や三ヶ月で三倍近い株価に上昇せしめるというのは、確かにIPOにかかわる市場環境に過剰に適応した錬金術的な問題行為だ、と批判されても仕方のないことと言えます。

 問題は、gumiの経営陣やこれらの株主が、gumiの下方修正、赤字転落の可能性を増資引き受け時点や上場前に、はっきり認識していたかどうかです。

 上場直前の増資については、東証一部上場に限らず市場の健全性を大きく歪める可能性のあるものとして、本来であれば事情を斟酌しても取引所も主幹事証券も認めるべきではないですし、応じるVCや投資家の側も「これは何かあるな」と察知しなければならない基本中の基本レベルの問題であろうと思います。

 いくら成長性のある、活気ある会社の増資案件であったとしても「それはやってはいけないのではないか」と誰も危惧しなかったのだとしたら、やはりコンプライアンス以前の人間としての倫理観に欠けている取引よりお友達感覚や目先の収益を優先したということになるのではないでしょうか。

■IPO詐欺紛いで摘発はあるのか

 私自身、投資家としてビットバレーを中心とするネットバブルの1999年秋から2000年春を経験しているので、今回のベンチャー界隈の相互胴上げのような過熱を見ても「後から問題視されそうな案件に資金を提供して面倒に巻き込まれるよりは、値段が落ち着いた優良銘柄をアウトサイダーで拾っていけばいいや」と考えるほうなので、増資まわりやIPOの話が騒ぎになってもそれは当事者の責任として頑張って処理していただければいいかなと割り切って終わりです。

 しかしながら、gumiの問題で関心がもたれるのは、もちろん上記のようなお友達ファイナンスの果ての強引なIPOゴールにVCが鈴なりとなって群がって市場への信認を失墜させたことばかりではありません。もともと、この手のコンテンツ業界においてはブーストと呼ばれる会員数を膨らませる技法が横行しており、gumiに限らず一般論として「会員数が順調に増加」「MAUが千万人」「海外展開も」といっても、それが正味のユーザー、プレイヤーの数であるのか、会社が資金と海外法人を使って売上や実績を水増しした粉飾であるのか、外側からは判断がつかないということです。

 gumiの目論見書では、今4月期に28億円、来4月期に45億円の広告宣伝費を拠出すると書かれています。テレビ広告などユーザーを確保するために積極的なPRを行うことはもちろん必要ですし生命線なのは間違いありませんが、gumiのグループ全体としてこの方面の費用が適正に使途されているかはきちんと把握する必要はあると思います。

 これと平行して、証券界隈で話が出始めたgumiの摘発話については、現段階では可能性は低く、また意義も乏しいと感じます。疑義の出ている話を総合すると、テクニカルにはアウトと判定できなくもない、というレベルですし、そこまでしたところでgumi摘発は単なる「トカゲの尻尾きり」であって、第二、第三のgumiを防ぐ仕掛けは別で構築しなければならなくなるでしょう。これではトカゲなのかイタチなのか分からなくなってしまいます。

 一方で、市場としてしっかり襟を正すために厳正な調査を行い処分を下すべきという議論もあって、日本取引所もあそこまで踏み込んだ要請を日本証券業協会に投げ込んだことも考えると、一連の案件として言い方は悪いですが「ホラ吹きが強気すぎる業績を掲げて周囲が騙され、事情の知った大人が確信犯で乗っかって儲けて終わり」とするべきではない、という意向も強く聞かれます。

 なので、つくづくgumiの経緯を読み返してみて感じるのは冒頭のような「では、gumiはどうすれば良かったのか」に戻ってきます。事業自体はまともですし、株式上場を目指して実現したことは素晴らしいことだったと思うんですよ。製作者以下現場はかなりまじめに仕事に取り組んだ結果が、ヒット作に恵まれ企業の業績が拡大したということですから。

 その意味でも、gumiには汚名返上ができるような適切な経営とガバナンスを徹底していただきたいですし、市場からの信頼に答えられる組織にしていただきたいと強く願っております。