<中村うさぎの降板が意味するもの>テレビ業界に減った「才能ある怪しいTVマン」たち ‐ 吉川圭三 - 吉川圭三
※この記事は2015年03月04日にBLOGOSで公開されたものです
吉川圭三[ドワンゴ 会長室・エグゼクティブ・プロデューサー/元・日本テレビ ゼネラル・プロデューサー]
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MXテレビ「五時に夢中」に出演していた作家・中村うさぎさんが1月30日に本人のブログで降板を表明した。
いろいろな事情があったようで、本当の真相は知る由もないが、筆者はこの人のファンだったので、あの「何か危ういヤバい感じ」の人がテレビから消えてしまうのはちょっとさびしい気がした。
彼女のような「テレビ番組に果たして出して良いのか悪いのか?」が分からない「境界線」の人は面白い。筆者も「境界線」の人をテレビに一杯出してきた。今のようにメジャーになる前の美輪明弘さん、後期の故・岡本太郎さん。何を言い出すか分からない怪優の故・大泉滉さん。
・・・このような方たちは、なかなか思うようにコントロールはできないが、うまくはまれば爆発した。
一方、「素人さん」であれば、筆者の制作した「たけし・さんまの超偉人伝」(日本テレビ)はそんな奇人・変人・怪人のオンパレードだった。
「東北の沢でじっと河童の出現を待つ老人」 「ナポレオンの傘とか毛沢東の杖とかインチキそうな骨董品を売りつける口上の上手い怪しい親父」 「世界の男女風俗(彼が集めた世界の女性の陰毛も含む)を研究し歴史的遺物(?)を収集する関西の怪老人」 「八百屋の奥で沢山の仏壇を売る大阪のおばさん」・・・などなど。こういう人を見ていると「こういう人生もあるんだ。」と感動すると同時に、強烈な爆笑がおとづれる中、なぜか見ているこちらの方の気が楽になってくる。こうした人々は生真面目に生きることへの欺瞞を嗤っているような気さえしたものだった。
けっしてNHKの「ザ・プロフェッショナル」からは決してオファーの来ない「桁外れのアウトサイダー達」。フジテレビの変人登場番組「アウト・デラックス」も結構、健闘しているが、「超偉人伝」の方々は振れ幅も半端でなく、常軌を逸していて、ユニークで唯一無二の存在であったように思う。
MXテレビの「五時に夢中」には、巨大キー局の間隙を縫って、こうした「普通でなさそうな人/味のある人」が登場する。下ネタを連発する作家の岩井志麻子さん、インテリだが毒も吐く新潮社の中瀬ゆかりさん、異常なテンションの岡本夏生さん。そして番組開始初期から出ているマツコ・デラックスさん。MXテレビだから(?)かなりぶっちゃける堀江貴文さん。
ところで、日本テレビにプロデューサーの細野邦彦氏という名物テレビ屋がいた。
日本テレビ退職後に取締役でMXに行った時、初期の「五時に夢中」の若手プロデューサーの相談にしょっちゅう乗っていたそうである。ピカピカに磨き上げられたフェラガモの黒い短靴を履き、お得意の自分の靴下を引っ張り上げながら(これは細野さんのクセ)、
「この人出しても良いでしょうか?」
「この話題、危険ですけど大丈夫でしょうか?」
と担当プロデューサーが確認のために聞きに行くと、
「大丈夫、やっちゃえ、やっちゃえ。」
と言いながらケツもちをしてくれたそうである。(後で細野さんが色々と大丈夫かなどを調べてたいたようだが)
細野邦彦さんの性格が複雑怪奇で、毀誉褒貶があって、おっかない、毒舌の人だったが、コント55号の司会で男女タレントがジャンケンの勝敗で服を脱ぎ合う野球拳番組「コント55号の裏番組をぶっとばせ!」(日本テレビ・1969~1970)でNHKの怪物番組・大河ドラマの視聴率を抜いたり、エグイ実話が連続するワイドショー「テレビ三面記事 ウィークエンダー」(日本テレビ・1975~1984)等で公序良俗に反する当時PTA激怒の名番組(?)を生みだしてきた才能溢れるTVマンだった。とにかく、細野さんは強烈な個性の人だった。
彼は自分の言うことを聞かない大物芸能人・大物役者が大嫌いで、どこから見つけて来たのか、若手・無名タレント、売れていないが潜在能力のある芸能人・文化人・漫画家・小説家・評論家・政治家等を見つけてきて低コストで高視聴率の番組をたくさん制作した。
こんな話もあった。
彼が東南アジア長期ロケから帰国した時、ロケ費の精算が膨大で煩雑だったので、「像一頭購入」の領収書一枚で全ての精算を済ませたという伝説(今や誰も確かめらませんが)を持つ男だった。
我々若手スタッフに、
「お前ら! テメエの趣味でTVやってるんじゃねえんだから、やるんなら最低限の視聴率は取れ。会社がつぶれて事務員のお姉ちゃんの給料払えなくなったらどうするんだ!」
「大物使って視聴率取っても自慢しちゃいけねえ。お前らは知恵とアイデアで迫れ!」
こんなこと言って「アイデアだけで低俗」と非難される番組を沢山作っていたが、別の先輩から聞くところによれば、細野さんのデザイン感覚・音楽感覚・TV制作の腕・TVの本質を見抜く目はピカ一であったそうだ。この危ない「五時に夢中」の背後には、この人の存在があったのかも知れない。
だが、最近こういうクセのあるTVマンがなかなかいないのが残念だ。
怪しいTVマンが現れてほしいな? 無理かな? テレビってそういう怪しいメディアだったのにな。だから面白いのにな。こういう人を大量に雇用するのは会社としては難しいのかな・・・。
ちなみに筆者が現在所属するドワンゴには一体何をしているのか解らない怪しいが沢山いる。これはこれで、面白いのだが、実はちょっと怖かったりもするのだが。