「政治の世界は今女性の力を必要としている」~民主党・山尾志桜里衆議院議員インタビュー~ - BLOGOS編集部
※この記事は2015年02月27日にBLOGOSで公開されたものです
昨年の総選挙で当選した議員の475名のうち、女性は45名。全議員のうち女性の占める割合は9.5%とOECDの中で最低となっている。安倍政権が「女性の活躍推進」を謳う中で、国会の中では依然、女性が増えていない状況がある。こうした状況を解消するためには、どのような施策が必要なのだろうか。現職中に妊娠・出産を経験し、2012年の選挙で落選しながらも今回国政に復帰した山尾志桜里議員に話を聞いた。(取材・文:BLOGOS編集部)政治が「自己責任」を最初に言ったら終わり
―山尾さんは、政治家になる以前は検事でした。最初に政治家を志したきっかけから教えてください。山尾志桜里議員(以下、山尾):私自身は、自分が政治家になるなんて考えたこともありませんでした。
どんな職業も3年目ぐらいで、「一つの案件を自分一人で担当してみろ」と言われるようになると思うのですが、私は検事3年目を名古屋地検の岡崎支部で迎え、そこで殺人などの重大事件を扱うようになったんです。
起きてしまった犯罪に対して検事が出来ることは、捜査をして現状の法律の枠の中で容疑者の罪を糺すということだけです。ですが、取り調べをしていく中で、容疑者の家庭環境から罪を犯すまでの過程を聞いていくと、生まれた環境や社会に出てからの様々な事情などがあるわけです。もし、そういうものが逆だったら、自分と取り調べをしている相手が座っている場所も逆だったかもしれない。そう思うことが何度もあったんです。
そうした経験から、犯罪が起きてしまった後の対処というよりも、犯罪が起こってしまう原因や背景、社会情勢を少しでも良くしたいと考えるようになったんです。それで初めて自分の中で、政治家になるという選択肢が出てきたんですね。
―政治家を目指す中で、民主党を選んだ理由については?
山尾:一つは、二大政党制というものを考えたときに、その実現性が最も高い野党であったということがあります。
「検事出身で何故民主党なの?」というのは、多くの人から言われましたし、今でも言われます。ただ、私の見てきた犯罪の世界というのは、自己責任論が通用しない最後の世界だと思うんです。
つまり、雇用や教育の格差、社会保障のセーフティネットの網の目がやぶれているといった問題を放置していた結果生まれた社会の歪みが、最後に犯罪となって出てきてしまう。そして、その最後のツケは、何にも関係ない被害者やご遺族がはらうことになってしまうわけです。それは、もうその人の責任論では説明のつかないことですよね。
自民党さんは、「自助」とか「自己責任」といったものを結構前面に出してくるような部分があると思うんですが、個人的には、そこに違和感があったんです。もちろん、民間の企業や経済活動の中で、「自立を目指す」とか「自助が大事だよね」というのは構わないと思います。でも、政治がそれを先に言ったら終わりだろうという思いがあるんです。だから、自民党という選択肢はちょっと考えにくかったんですよね。
―2009年に初当選を果たすも2012年の民主党から自民党への政権交代選挙で一度落選されました。2年間の浪人生活を経て、昨年国政に復帰されたわけですが、政治家は落選するとただの人ですから、キャリアプランも描きづらいですし、お子さんも抱えながらの政治活動も大変だったと思うのですが。
山尾:2012年の落選時は、非常に悔しい思いをしました。当時、小学校に上がる前の一番手のかかる小さい子どもを育てている女性議員というのは、私の知っている限り、私と小渕優子さんと野田聖子さんの3人でした。
お二人は当選をされて、私は落選しました。もちろん、当時の自民党と民主党という違いもあったと思います。しかし、その時に強烈に思ったことは、やはりある程度の地盤がないと、子育てしながらの選挙活動は難しいのか、ということでした。そうした地盤がなくても政治家としてやっていけるんだ、ということを見せたかったのですが、できなかった悔しさを感じました。
本当に政治とは縁のない、いわば“普通の一般人”が、自分の思い一つで選挙に出て、多くの女性が望むように子供を産んで育てながら、そのまま政治家を続けていける。そのことを自分で証明したいという強烈な思いがあったので、それが出来なかったことは非常に悔しく思いました。
―落選した際に政治家を辞めようと考えなかったのでしょうか?
山尾:まったく思いませんでした。落選者の中で日本一得票が多かったという結果に支えられたということもありますし、ここであきらめたら、日本に二大政党が根付くのが何十年も遅れてしまうという危機感がありました。
自分の政治家としてのキャリアも始まったばかりですし、ここでまだやめられないという思いの方が強かったですね。
公開討論会を日頃の当然やるべき政治活動として根付かせたい
―山尾さんのように官僚→政治家というルートをたどる方は多いと思います。ただ、一度落選してしまうと官僚には戻れません。30代、40代の働き盛りの方が、官僚に戻れないというのはもったいないとも思うのですが。山尾:官僚、民間、シンクタンク、政府、政治という中で、人材がグルグル回っていくという制度は絶対必要だと思います。
政治家というのは、一つの顕著な例ですが、それこそ例えば法科大学院で司法試験はなかなか突破できないけれども有為な人材が、ある一定の年齢を超えると、どこの扉をたたいても、その扉が開かないという問題もあります。
もちろん政治の世界に飛び込むと、役所には戻れない。戻れないとは言わないけれど、民間もおそらく政治の色がつくと結構戻りにくい部分があるでしょう。この問題を解消できれば、もっともっと政治にチャレンジできる人材が増えてくるのではないでしょうか。
―子育てをしながらの政治家活動において、苦労された点などはありますか?
山尾:昨年の選挙で国政に復帰するまでの2年間の間で、私が感じたのは、小さい子どもを育てている女性には、いわゆるドブ板選挙をやる上で、物理的、時間的限界があるということでした。
もちろん、私もそうした選挙活動は相当やったという自負もありますが、とはいえ制約がある。そうした制約を乗り越えるために、公開討論会を選挙活動中、また日頃の当然やるべき政治活動として根付かせたいという強烈な思いが芽生えたんです。
日本の場合、選挙期間に入ると合同演説会は出来ても公開討論会はできません。仮に合同演説会や公開討論会をやろうとしても、中立の団体が運営を引き受けてくれなければ実施できません。さらに、例えば自民党と民主党の一対一の対決であれば、相手が受けてくださらないと開催できない。
私が最初に出馬した2009年の選挙の時は、政権交代という波の中で、全国的に青年会議所(JC)のような団体が「公開討論会やるぞ」と盛り上がったので、私の選挙区である愛知7区でもJCが主体となって実施してくれました。調べていないので、確かなことは言えないのですが、09選挙の時はほとんどの選挙区でやっていたと思います。
しかし、12年の時は、私自身は相当呼びかけましたし、様々な団体にも開催してほしいと言いましたが、結論としては一回もできませんでした。今回は、女性自身が見て聞いて、いい議員を選ぶことを目指す「るくぶ」(女性の見る・聞く・選ぶ)という団体が、たまたまうちの選挙区内にあり、そこが「ぜひやりましょう」と提唱してくださって、合同演説会を1回実施できました。
それも選挙期間に入っていたため、候補者同士が議論することはできないわけです。一つの質問に対して、「はいAさん、次Bさん」みたいな感じになってしまう。実施できたことは良いのですが、クロストークできた方が、もっとよかったと思います。また、最近は突然の解散総選挙ということがずっと続いているので、時間がないから団体の側も準備ができないといったこともあって、どんどんやりにくい方向になっているように感じています。
例えば、イギリスなどでは選挙期間中に複数回、地元の自治体や教会で、候補者をそろえて平場からの質問に答えるというようなイベントをやるそうです。そうした機会があるのが当然だと思います。解散の声を聴いた瞬間に、みんな自分のポスターや政策ビラを作るのではなくて、まず合同演説会をやるためにお互いの日程をおさえようと。こういう風になるのが、候補者にとっても有権者にとっても、良いことだと思うんですよね。
特に、どうしても物理的、時間的制約がある子育て中の女性の候補者には、ドブ板で足りない部分を補えるチャンスになると思うんです。そういうイベントをやって、それをメ ディアがしっかりと伝える。様々な団体と連携しながら、なんとかそういう雰囲気作りをしていきたいなと思っています。
「子育て中の働き方には物理的・時間的制約がある」と伝えたい
―安倍内閣でも「女性の活躍推進」が謳われていますし、子育てしている女性に対する政策の手当ての必要性が叫ばれています。山尾:先輩の女性議員、子育てがひと段落している世代の方々がいますよね。私自身、そういう方々の努力の積み重ねの恩恵を受けている部分があると思います。
そのおかげで私たちが今こうやって政界で仕事ができるようになっているのですが、やはりこれまでの世代は、「子育て中も今までと同じようにがんばります」ということを言わざるを得なかったと思うんですよね。
でも、自分の世代で、さらに次の若い女性の世代に向けて、何かできることがあるとしたら、私自身の経験として、やはり「子育て中の働き方には時間的・物理的制約があるんだ」「大変なんだ」ということを言っていきたいなと思っているんです。そういうフェイズに入っていきたいなと。
それは勇気が必要なことだと思います。ただ子育て中であるという自身の実体験も踏まえて、様々な政策に携わっていくことで、時間的・物理的制約をしっかりカバーするだけの結果を出していく。だから、理解してくださいということを伝えていきたいですね。
―どちらかというと「そういう苦しい環境の中でも頑張った」みたいな話の方が評価されますし、喧伝されますよね。
山尾:「苦しい」「大変だ」ということを伝えられる社会があって、はじめて社会全体でどのようにその「苦しさ」「大変さ」を支えられるかというリアルな議論ができると思うんですよね。だからこそ、勇気をもって伝えていきたいなと。言えるようになってきたのは、やっぱりそれを言わずに歯を食いしばって、頑張ってきた先輩たちのおかげだと思います。
―「勇気がいる」とおっしゃいましたが、有権者からすると、「同じように出来なきゃ困る」と言う人も多いと思います。その中でも、あえて大変さを訴えていくことが必要だと。
山尾:私は本当にこの2年間、一生懸命地元活動はやったと思いますし、たぶんそう評価いただいているとは思うんですけれども、子どもの都合で行きたい会合にどうしてもいけないといったことがなかったとは言えません。
ですから、私が現職で時代から今もなお続けているのは、来賓挨拶などの機会をいただいたときは、一つ一つの絶対に自分の言葉で言いたいメッセージを伝えるということです。
小さなことですが、通り一遍の時候の挨拶や誰もが言うような文章での挨拶はしないようにしています。消防の出初式であろうが、追悼式典であろうが、自治体の新年会であろうが、とにかく一回一回、言葉を発する機会をもらったなら、それを最大限生かして、自分の考え方、姿勢、あるいは地域を支えてくれる人たちへの感謝を絶対自分の言葉で伝えるということに執念を燃やしてきました。
時間で足りない部分を何かでカバーすると。そのためには、いろんな工夫があると思います。
―「一番頑張る人・できる人」を基準にしてしまうと、全員が疲弊してしまいます。
山尾:なので、少し遠い先の話かもしれませんが、「子どもを育てながら働く女性の働き方」が、一つの基準というか平均的働き方になることが、一つの目標なのかなと思っています。
何故なら、ここから先は「子育て中の男性」という話にもなっていくでしょうし、あるいは介護の方が、問題になってくるかもしれません。子育てや介護を含めて、それぞれの人生の中で仕事とは別のタスクがあったり、自分のやりたいことがある。そういう前提で働くんだと。それが一つの目標だと思います。
子育て中の女性というのはワークライフバランスの困難さが見えやすいので現在でもある程度活発に議論されていますが、本来、男性女性に関わらず、子どものいるいないに関わらず、必ず抱える問題なのです。だからこそ、子育てしている女性の応援を突破口に、本当の意味で豊かな人生の軸となる働き方ということを考えていきたいと思います。
日本の女性議員の割合はOECDの中で最低
―日本では女性議員が少ないことからクオータ制の導入を検討すべきという声もありますが。山尾:ご存じのとおりですけれども、今回の衆議院当選の女性が45人、475分の45ですから9.5%。10人に1人に達しませんでした。これはOECD34か国で最低の数字です。
先日、別の取材で「女性議員が増えると何が政策変わるんですか」と聞かれたのですが、私は、二つの「こ」があると考えているんです。一つは「子」もう一つは「個」です。その部分の扉が政策面で開かれるのではないか、というのが自分の肌感覚なんですね。
やはり妊娠・出産するのは女性ですし、今まで子育ての主な役割を果たしてきたのは女性ですから、「子」の部分についてはご理解いただけると思います。
「個」の部分については、これまで女性は、どちらかというと家族、家庭の中でという感じで社会、組織に縛られない役割を果たしてきたと思うんです。それに対して、男性は家庭人、個人としての側面もあるけれども、どうしても会社や組織を背負った側面というのが非常に大きいように思います。それは政治家になってみて、党に限らず、様々な会議を通じて実感しています。
あくまで傾向としてですが、予算の話になった時に、「あぁ、この人の背中に業界団体があるなぁ」という発言をするのは男性が多いように思います。もちろん、そうじゃない男性もいますし、そういう女性もいますが、傾向としては男性が多いので、女性議員が増えることによって必要以上に既得権益、組織を背負った政策というのも減っていくのではないでしょうか。
また、選択的別姓の話やLGBTについての法案など、「個人個人が多様なのは当然でしょ?」という法制度も前に進みやすくなると思うんです。
―超党派の動きなどもやりやすくなるかもしれませんね。
山尾:それもあると思います。女性という枠組みが、超党派をやる一つの理由づけにもなりますから。女性議員が増えるメリットと女性議員の割合がOECDの中で最下位だという現状を鑑みると、やはり一定期間を区切ったクォータ性があってもいいと思います。
―あくまで期間を区切った導入を検討すべきということですね。
山尾:あくまで過渡的な仕組みとして導入すればいいと思います。いったん軌道に乗って増えれば、維持できるのではないでしょうか。
ちょうど私が落選中に民主党の中で、「改革創生会議」が開かれたのですが、その中に「クオータ制をやるべきだ」という提言を入れているんです。もう少し具体的には、衆議院の比例ブロック一位は原則女性にするべきだという一文です。
現在、岡田代表をトップに民主党の中で提言書を実行に移す改革創生実行本部というのが立ち上がっているのですが、私も役員になって、実際に進めようとしているところです。
私の中で、クオータ制と公開討論会というのは、一つのパッケージになっています。クオータ制をやるからには、比例名簿に載せる人材の質は党が見極める責任を負うことになります。一方で、少なくとも小選挙区の中では、公開討論会の実施を前提とすることで、候補者の質を有権者の目で見極めてもらう機会を担保すべきだと考えているんです。
―まだまだ年配の世代では、女性の社会進出に否定的な人も多いですよね。
山尾:そういう部分も多少はあるかもしれません。私も7、8年前、地元に最初に落下傘候補として入ったときは、地元の一部の飲み会、懇親会なんかに行くと「コンパニオンが来た」と言われました。私は政治家として参加をしている訳ですし、職業人としてのコンパニオンの方にも失礼な話です。そういうことも、実績を積むにしたがって減ってきましたが。
そういう意識を変えてほしいですし、変えていこうというやりがいもあると思っています。
―最後に読者、あるいはこれから政界を目指す女性にメッセージをお願いします。
山尾:やっぱり女性に政治の世界に挑戦してほしいですね。ハードルは高いけどやりがいも大きいし、政治の仕事ってそう捨てたもんじゃないですよ、ということを伝えたいです。
政治の世界は今女性の力を必要としていると思います。自営業に近い部分があるので、苦労も多いですが、自分自身でマネージメントできる部分もありますから、実力があれば存分に能力を発揮できる環境だと思います。ただ、解散の時期だけはコントロールできませんけどね(笑)。
プロフィール
山尾志桜里(やまおしおり)。1974年生まれ。東京大学法学部卒。検察官を経て、2009年の衆議院選挙で初当選を果たす。2012年に落選するも2014年の衆院選で国政に復帰。・山尾志桜里の記事一覧 - BLOGOS