ネットでアーティストが評価されるのは「健全なこと」-デジタル新時代のアーティストSugar′s Campaignインタビュー - BLOGOS編集部
※この記事は2015年01月21日にBLOGOSで公開されたものです
2012年、YouTubeに突如投稿された楽曲「ネトカノ」が、国内のインディーズシーンやネット界隈で話題を集めた。その仕掛け人は、1987年生まれのトラックメイカー「Avec Avec」ことTakuma Hosokawaと「Seiho」ことSeiho Hayakawaの二人によるユニット、「Sugar's Campaign」だった。メジャーデビューアルバム『FRIENDS』をリリースをしたばかりの二人に、ネットと音楽ビジネス、これからのアーティスト活動について話を聞いた。(取材・執筆:ジェイ・コウガミ 音楽ブロガー)インターネットというツールがあったからそれを使って音を作ってきただけ
― 初めてネットで音楽を体験した時のことを憶えていますか?Seiho:僕が87年生まれでWindows 95が出た年なので、8-9歳くらいですね。
Avec Avec: 僕の場合は小学生4-5年です。小学校5年生の時は自宅にパソコンがありました。
Seiho:当時NASAのホームページとかを見ていました。外国の文化が見れるってことが楽しかったことは記憶しています。僕は小学校4-5年の頃には「サブカル小学生」だったので、その頃「TECH Win」という雑誌やいくつかのコンピューター雑誌があったのを覚えています。
Avec Avec:「ネット」って考えると、ナップスターとかファイル共有サービスかな。多分YouTubeが出てきたのが高校一年の頃なんや。
Seiho:あの頃はめちゃくちゃ覚えてる。教則ビデオがフリーで見れるのがめっちゃ衝撃だった。ギターの教則ビデオが無料で見れるサイトがあるって聞いてYouTubeを知りました。
高1のころから高3までは、結構2chの掲示板のヒップホップスレやテクノスレに楽曲をアップしてました。その時につながったのが、tofu君(tofubeats)とかのメンバーで、その頃オフ会とかに行ったのを覚えてます。
― ネット以前はどうやって音楽を聴いていましたか?
Avec Avec:僕は親が有線で働いてて、そのテープが段ボールいっぱいに詰まって家にあったので、70-80年代のポップソングとかそれをずっと聴いてました。そこにない曲を中古で買ったりもしていましたね。
その頃カセットテープのウォークマンを持っていたので、それで音楽をいつも聴いていたんです。親のテープと自分が聴きたいCDで「マイ・ベスト」的なテープを作ってました。自分の好きなセットを作るその制作作業が当時は一番楽しかったのを覚えてます。今も探せば「No. 200」くらいまであって、毎週作ってその週はそのテープで過ごしてました。
Seiho:僕は月に一度父親がタワーレコードに連れて行ってくれて、CDを1枚買っていいという日があって。その時に買っていました。当時はジャズに興味があったので、ジャズのCDばかり買っていましたね。中学に入ってからダンスミュージックに興味が出てきて、そっちのCDも買うようになりました。
― アーティストとして活動を開始してから、お二人の音楽の共有方法はどう変化しましたか?
Seiho:意識は変わりましたけど、方法論は変わってませんね。僕の場合、小中学校でインターネットに投稿とかしてたので、感覚はそこからは変わってません。ただ意識として、見ている人が数十人から数千人、数万人に変わったというだけで。例えばSoundCloudのフォロワーとか。ただ人数が増えた分、考えなければいけないことが増えました。
― ネットによってクリエイターとして音楽の作り方が変わった印象はありますか?
Avec Avec:僕たちはネットが無かった世界のことを分かってないというのが正直なところです。僕たちはインターネットというツールがあったからそれを使って音を作ってきただけで、それが自然な流れでした。だからインターネットを思想的に使うことはしていないし。細かいことに落とし込めば、参照するのにYouTubeが便利だ、コード進行を勉強するためにMIDIデータが便利だ、ということはありますが(笑)。そういった面では変わったと言えるかもしれません。
逆に聴き手としては違いが結構あって。その違いというのは、このアーティストの立ち位置はここで、こういうシーンで受けいれられていて、こういう客層がフォローしているということが検索すればすぐ分かるようになってきましたよね。良くも悪くもそれは寂しく感じます。というのも、小中学生の頃は「自分だけのアーティスト」って持っていませんでした?自分しか知らんアーティストだと思うじゃないですか。でも今の時代には検索すれば、そのアーティストの情報だったりファン層だったり分布図が把握できて、「ああ、なるほど」となってしまいがちな傾向が強くて。そうなるとあまり没入できなくなりますよね。
― SNSや検索などによって、アーティストの情報だけでなく、評価までも可視化されるようになってきました。お二人はそれについてどう思いますか?
Seiho:健全かな。社会とはそういうものかなと。それを受け入れて、どんだけ自分が素晴らしい人間かを伝えていくしかない。隠したり偽造できない社会のほうが健全だと思います。
Avec Avec:天然で勝負しないとダメなところはあります。一年じっくり時間をかけて作品を作るやり方もあるけれど、ネットの世界はこの1時間や5分間で評価されたりする世界。だから天然で勝負することは意識してます。
2012年発表後、インディーズシーンで話題を集めた『ネトカノ』
作り手はいつだって「自由」
― 今回メジャーレーベルから作品をリリースすることは、お二人にとってどんな意味がありますか?Seiho:今の僕らの立ち位置でメジャーかインディーズかでやる場合、インディーズの方が保守的なんです。逆に言うと、メジャーの方が攻めです。これは僕らが東京に出てこない理由でもあるんですけど。注地方にいると攻めることができます。東京にいると守らないといけないことがたくさんあると思います。なので地方にいて、攻めれる状況にいるのであれば、メジャーの方が面白いんです。この意味は単純に「楽しい」「面白い」という行動倫理の話です。
注:Sugar's Campaignは大阪を拠点に活動している
Avec Avec:特に戦略があるとかいうわけでもなく。メジャーデビューはなんというか、「お祭り」みたいな感じなので。今回は攻めてみようという感覚です。
例えば、タワーレコードにCDを置きます。メディアの取材を受けます。そういう時の方法論やネットワークを膨大に持っているのがメジャーだということは体験しました。でも別にメジャーデビューしたくて活動を続けてきたわけではないです。今のテンションとタイミングとちょうどメジャーデビューが合っていたという感じのほうが強いです。
僕らは今の時期にもっと大勢の人に知ってもらいたかったという気持ちがありました。僕らのチカラでは届けられない客層まで届けたい。
Seiho:例えばYouTubeで楽曲を発表してその後お互いがSoundCloudで活動していると、10-20代の音楽好きには自分たちの音楽を伝えることができます。ここの盛り上がりは自分たちでも感覚で分かります。でも40-50代で「昔バンド活動していました」みたいな音楽好きなおじさんに僕らの音楽を届ける方法を僕らは作ることができない。ここをクリアするには、メジャーデビューが一番理想的な答えだった。
Avec Avec:インターネットだけでは音楽を届けられないですよね。だからそれを補完する仕組みをもっている人たちと組むほうがいいと思いました。単純に販路というか母数が広がると思ったので。
― 日本だけでなく世界では、ネットで音楽を無料配信することについて肯定するアーティストも、否定的な意見を上げるアーティストも増えてきているように思えます。お二人はどんな考えをお持ちですか?
Seiho:僕らにはあまり関係ない話じゃないですか。結局のところお客さんが選ぶ話であって、アーティストが選択した行動ですし。それは市場の原理の話ですから、しょうがないと思ったりします。なので、個別のアーティストにとっては関係ないと思います。それを批判するのは、多分アーティストじゃない気がします。作り手はいつだって自由ですから。
例えば僕らがメジャーレーベルから切られても、明日から路上でライブやったりネットで無料配信したりCD一枚を1万円で販売したりすればいいことなんです。僕らアーティストはいつでも自由なんですよ。でもレコード会社が明日から路上ライブしてお金をかせぐことは絶対無理ですし、次のCDから価格を上げるとしても問題が発生すると思うんです。
ただ音楽の聴き方としての「経験」の話になると、人それぞれ違ってくると思います。一冊の本を10回読む時の感動と、10冊違う本を読む時の感動が違うように。だからSoundCloudで一人のアーティストだけをフォローして聴き続けているリスナーが存在してもいいと思うし、選択肢は増えてきていると思います。昔みたいに「今日はこのCD1枚しか買えません」みたいな縛りが減ったのはいいことかと思います。
Avec Avec:友達が増えるんじゃないですか。いい曲をネットでアップし続けたら、友達が増えると思うんです。お金が増えるより、友達が増えたほうがいいです。それが一番いいですね。
戦略的に無料配信がダメだなと思うこともあります。「ここで無料にしないのか」とか「ここまで無料できてここはiTunesか」とかそれってダサイやろって思うことはありますけど、選択の問題なのでそれを否定するわけではないです。
Seiho:そこも含めて世の中だと思います。僕らにはあまり関係のない話。多分、旧体制と新体制が存在してて、それが世の中なんだと。だから全然良いと思います(笑)。バカにされてもいいし、逆に僕らがバカにしている部分もあるし。だからそこに関して、深い憤りを感じていることもなくて。だって仕方がないじゃないですか。 数十年かかって今のやり方でしかお金が稼げない体制になってしまっている中で、それを受け入れなくてはならない時もあるだろうし。それを変えようとしている若い子もおるし。そして僕たちもその状況を頭ごなしに否定するわけでもないし。
どちらが勝つか負けるかなんてことも、僕らには関係ないです。成り行きに任せることが一番良いかなと思っています。成り行きこそがみんなが選んだ答えだから。
― 今、関心のあるテクノロジーはありますか?
Seiho:3Dプリンターですね。僕、自分の像を作ってみたいです(笑)。
Avec Avec:未来のテクノロジーでもいいですか? USBの話はよく若者の間でしますね。頭にケーブルをつないで、思った音がでてくるシステム的な何かがあったらいいんちゃうって話は話題になります(笑)。僕らはすべてテクノロジーに頼りたいですね。進化肯定派です(笑)。楽器とか練習しないで弾けるようになるなら、早くそうなってほしい(笑)。
― 古いテクノロジーですが、アナログレコードも最近人気です。
Seiho:僕らの「ネトカノ」も限定アナログを500枚作ったら、予約だけで1日で完売したんです。ただ最近のアナログレコード人気ってもしかしたら「デジタル時代のアナログ的な所有欲」にのせられて買っているだけかもしれない。所有したいものなら何でもいいと思います。ポケモンとか妖怪ウォッチとやっていること、変わらない気がします(笑)。
アナログレコードじゃないといけないとは思っていません。思い出の装置として機能するかどうかの話。昔アナログレコードを聴いていた世代が、今もアナログレコードを買っていて、そういう親を見てきた子供がアナログレコードを買うこともあると思うんですよ。でもこれが50年後も続くとは思わないです。ただ音楽家として、アナログレコードの音は絶対良いと思いますし、デジタルには出せないものもあります。
Avec Avec:逆に50年後にはデータの形や価値が全く違うものになっているかもしれませんし。今の時代のデータがみんな好きかもしれない。「あの時代のこのMP3、やばい」みたいになっているかもしれないし、それでみんなMP3を集めているかもしれない。今でもiPod Classicの音がやばいって言う人もいたり、YouTubeのエンコードされた音が気持ちいい人がいるくらいですし(笑)。
メジャーデビュー第一弾音源としてiTunesで配信された『ホリデイ』
音楽の作り手が音楽の消費の仕方までをコントロールするのはよくないこと
― クリエイターとして活動をされる上で、ファン層を拡大するには何が必要かと思いますか?Seiho:僕らは放っておいても広がるポップな曲を作っているわけではないので、多くの人に聴いてもらえる機会があってはじめて、リスナーを増やすことができるんです。とにかく多くの人に聴いてもらわないことには始まらないです。「2,000人に聴いてもらえればいいです」というよりも、日本全国みたいに一度大勢の人に聴いてもらえば、だいたい僕らのコアファン数も見えてくるはず。それをしないうちにコアファンを囲って活動するのは、広がりもないしもったいない。
Avec Avec:世代交代の時に、そのファンがごっそりいなくなってしまう可能性もある。コアファンを囲っちゃうと、そのファンも年を取っていくし、そこから動かなくなる可能性もあるかもしれないじゃないですか。
Seiho:僕は極端にエゴサーチするので感じるんですけど、TwitterやFacebookに書く行為と、興味ないから全く書かないことの割合を考えると、圧倒的に書かない人の方が多い。だから書く人は氷山の一角というか、ほんの一部。積極的にコミュニケーションを取りたい人たちとは、僕らも逆に積極的につながりたいと思っています。ファンレターと同じで。そのお客さんは大事にしないといけない人たちだと意識しています。
― お客さんやライブの来場者に選択肢を与えることは特に意識されているのですか?
Seiho:僕らも来てほしい世界、入ってきてほしい世界観は持っていますけど、そこに辿り着く道筋は無理に誘導したくない気持ちがあります。「今回のライブを楽しむには、この曲やグッズを買って下さい」みたいな誘導の方法が嫌で、結果的にその世界に辿り着くような状況を作ることのほうが大事じゃないかと思っています。誘導はしたくない。お客さんに決まった形での楽しみ方をさせたくない。そこはすごく意識しています。
Avec Avec:音楽の作り手が音楽の消費の仕方までをコントロールするのは、よくないことかなといつも思っています。
Seiho:直接的なマネタイズの手法は意識しています。例えばコアファン100人、次のフェーズが1,000人、1万人だったら、じゃあコアファンに向けてこういうグッズを作って、みたいなことはします。ただ、そこもお客さんの自由ですし、僕らも自由にやっています。
― 今回のアルバムはどのようなイメージで制作されたんですか?
Seiho:僕たちは結成が2011年で、長い間ライブや曲作りをしてきました。このアルバムは、その総まとめ的なアルバムです。これを全て聴いてもらえれば、僕らが何をしてきたのか、次に僕らが何をしたいのかが分かると思います。曲作りでも、僕とAvec Avecが舞台の演出家と監督みたいな立場となって、1曲ごとに僕らが選んだ主役としてボーカリストを立てているところも、普通のアーティストとは違うアプローチかと思います。
Avec Avec:物事は一つの見方だけではなくて、複数の見方があって当たり前の世界だというのがテーマでもあるので、リスナーの方にいろいろなイメージを持ってほしいと考えています。
また、僕らが選んだ色、川西ノブヒロ、水野しず、黒崎聡之、西尾雄太という5人のアーティストに曲をイメージしたサイレント・コミックを作ってもらって、アルバムの世界観を拡張した物語を伝えるというのも、僕らがやりたかった新しいことです。
1/21にリリースされたメジャーデビューアルバム『FRIENDS』
― デジタル化が進む今の音楽業界に何か足りないものは何でしょうか?
Seiho:僕は結果的に、デジタル化によって労働と報酬が見えにくくなっていることには疑問を感じていたりします。行動と得られたものが、ありがたみじゃないですけれど、見えづらくなった気がします。あとは、デジタル化が進めば、音楽に関連する思い出の想起の装置としての機能を果たさなくなる気がします。
Avec Avec:人間の頭にある記憶の容量って少ないですよね。多分2GBくらい(笑)。iPodのほうが多い(笑)。だからデータを見ても思い出せなくなってきます。でもCDとか本が手元にあったら、読んでない本や聴いていないCDも一目で分かるし、手元にあることを思い出すことができるじゃないですか。思い出すこと自体が重要かと思います。
Seiho:CDや本があったら、その中身の思想やテーマを思い出して頭の中がリフレッシュされますけど、データはそれがないですね。でもそれも僕らが今暮らす世界だからかもしれません。もう少し進んだら、データも変わるかもしれない。
Avec Avec:僕らはぎりぎりの世代なんですよね。モノとデータの両方を知っている世代。だから、ものの持つ思い出すチカラがデータの思い出すチカラよりも強いです。
Seiho:愛着の問題やからですね。でもこれが下の世代になれば、全然変わると思います。どのゲーム機が好きか?みたいなものに対する愛着じゃなくて、「このファイル、やばい!」「このZIP、かっこいい!」みたいな世代が次に出てきたら、僕らの言っていることは古くなると思います。でも現状はZIPファイルやMP3ファイルに思い入れは全く無いし、ファイルは全てが同列としか感じないのが今の世界だと思います。
― 今日はありがとうございました。
プロフィール
Sugar’s Campaign 公式サイト「Avec Avec」ことTakuma Hosokawaと「seiho」ことSeiho Hayakawaの2人による新世代都市型ポップユニット。ゲストボーカルを招く形でポップソングを制作している。ダンスナンバー「ホリデイ」をメジャーデビュー第一弾シングルとしてリリースし、1月21日には待望のメジャーデビュー1stフルアルバム『FRIENDS』をリリース。
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