マクドナルドを叩けば、視聴率やページビューが増えるんでしょ? - 赤木智弘
※この記事は2015年01月10日にBLOGOSで公開されたものです
異物混入報道が止まらない。発端はペヤングソース焼きそばへの虫の混入だったと思うが、それがいつの間にかマクドナルドに変化し、更にあれもこれもと報じられ、ニュースキャスターは「異物の混入が次々と発見された。食の安全が問われている」などと、真面目な顔で語る。
お笑いである。異物混入など、ないに越したことはないが、一方でいくらでもありうることだ。大規模な工場でパッケージングまでしたペヤングにすら異物が混入するのだから、店舗ごとに調理を行うマクドナルドで異物の混入が無いはずがない。
メディアには「食の専門家」と称する、スーツを着たおじさんが登場し、大まじめに「これだけ出てくるということは、異物混入が常にあるということ」などと、本当に食品に関わっていれば、ごくごく当たり前のことを、さも今回の一連の報道で新たに発見された新事実であるかのように語っていて吹いてしまった。
本当に食の専門家であれば、異物混入が日常茶飯事であることを前提として、除去対策の不十分さを指摘する一方で、異物混入を100%防ぐことは不可能だということくらい、メーカーに代わって言ってあげて欲しいと思う。
それにしても、明らかに大きな虫とか、アクセサリーの一部らしい金属片ならともかく、それに便乗して出てきた「ビニール片」だとか「輪ゴム」なんて、いちいち報じる必要があることなのだろうか?
中でも僕が苦笑するしかなかったのは、パティ(ハンバーガーのお肉)に混入していた「糸状の金属片」である。メディアはさも謎の金属片が出てきたかのように語るが、あれはどうみてもグリドルパッドだろう。
グリドルパッドとは、高温の鉄板(グリドル)の上でも使える、グラスファイバー製たわしの名称だ。ハンバーガーを焼いていると、鉄板に焦げがつく。大まかな焦げは金属製の大きなスクレイパーでこそげとるが、それだけだと細かな焦げが溜まっていくので、ある程度汚れたらグリドルパッドで鉄板全体を擦って落とす必要がある。
鉄板に少量の油をたらし、それを広げるようにしながら鉄板全体をグリドルパッドで擦る。すると油が焦げで真っ黒になるのでグリドル用スクレイパーで取り除く。それを営業中に何度も繰り返す。
その時にグリドルパッドの繊維が剥がれることがある。普通はスクレイパーで油を取り除くのと同時に除去されるが、それがグリドルの隅に残ったり、ターナーにくっつくなどして、最終的にパティに付着する可能性は十分にありえる。
僕は、マクドナルドではないが、昔にハンバーガーチェーン店で働いていたことがある。だからそのくらいの予測は立てられる。
もちろん、憶測だけで判断するべきではないが、一方で十分予測ができる事に対して最低限の予測すら立てず、「謎」であるかのように強調する報道を繰り返すのは、思考の放棄であり、とても不誠実な態度だと、僕は考える。
また、ウェブメディアも例外ではない。ウェブメディアにおいては、マクドナルド叩きとアップル叩きは、どんなつまらない内容であってもページビューを稼げる2大巨頭なので、今回の異物混入の騒ぎに便乗し、面白おかしく騒ぎ立てるてる記事も多い。そうしてメディアの騒ぎに煽られて、問題の本質がどんどん見失われていく。
今回の問題の本質は、異物混入ではなく、異物混入問題発生時における望ましいプロセスが踏まれていないという点であろう。
本来であれば、異物混入を発見した消費者がメーカーに連絡し、メーカーは混入経路を調査して消費者に返答、メーカーは以後の混入防止策を設けるというプロセスをたどる。これにより、消費者は謝罪を受け、メーカーの製品の安全性は高まる。
ところが、ペヤングの時もそうであるが、まず異物混入を発見した消費者が、メーカーに連絡をする前に、ネット上に写真をアップしたり、また今回のような状況ではマスメディアに連絡をしたりしてしまうことがある。こうなると、メーカーが混入を知った時にはすでに騒動になっており、構図として消費者とメーカーが対立するしかなくなってしまう。
こうなると、メーカーにとっては消費者の側を向くよりも、いかにマスコミ対策を行うかの方が重要になってしまう。マクドナルドでは「会見に社長が来なかった!無責任だ!」とマスコミが吹き上がっているが、果たして異物混入において求められる謝罪とは、会社の社長が会議室に並ぶマスコミに対して頭を下げることなのだろうか? そして、謝罪会見で何かが解決するのだろうか?
異物混入は確率論的に起こりうることであり、問われているのは製品管理の重要性であり、決して企業倫理ではない。
不祥事が立て続けに起きているのであればともかく、異物混入への対応であれば、製造現場の洗浄や、レイアウトの見直しが必要なのであって、マスコミ対応に費やされる時間は無駄である。
異物混入は報じれば報じるほど出てくる。しかし出てくるからといってそればかりを報道することの是非こそ、メディア側の人達は考えてもらいたい。
消費者のエゴとマスコミの介在によって、消費者がSNSに掲載したりマスコミに連絡して、一斉にメーカーを叩くという、なんの解決にもならないプロセスに変質させられてしまっている。
それは決して、テレビや大手メディアだけの話ではない。
特にハンバーガーから出てきた「糸状の金属片」と煽り立てていたのには、笑ってしまった。だってあれは謎も何もない、ただのグリドルパッドだろうに。
僕は昔にマクドナルドではないけれど、チェーン店でハンバーガーを焼いていたからすぐに分かる。
かつて「ガードレールに謎の金属片が!」と、盛んに報じられたことがあった。金属片は誰がどうみても、ガードレールにこすった車から剥がれたものであることは明らかだったし、最終的にそうであることは確認されたのだが、報じられていた間、ずっと謎の「専門家」とやらが、何故か必死に「誰かのいたずら」などという、突拍子もないことを主張していた。
見ず知らずのおじさんでも、スーツを着ていれば経済や何かの専門家に見えるし、白衣を着ていれば理系の専門家に見える。
*1:「謎」といえば、かつて「ガードレールに謎の金属片が!」という報道が盛んに行われたことがあった、
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