※この記事は2014年12月22日にBLOGOSで公開されたものです

会見を行う第三者委員会 写真一覧
22日、朝日新聞社は、「慰安婦報道に関する第三者委員会」(委員長・中込秀樹弁護士)の報告の提出を受け、都内で記者会見を行った。

この日発表された第三者委員会の報告書では、吉田証言を中心とする記事の検証や訂正が遅れた理由について、「自分が関与していない記事については当事者意識が希薄だった」「デスク間でも明確な引き継ぎのルールがなかった」、また、記事の訂正・取り消しについて「社として統一的な基準考えかたが定まっておらず」、「社内で問題についての活発な議論が行われる風土が醸成されていなかった」と指摘した。

検証記事ついては、ことし5月の経営会議の席上、木村伊量前社長から幹部らに対し、検証作業が行われている旨の説明が行われたが、W杯開催時期や新聞集金の時期、週刊誌の夏期合併号の発売時期を避けるなどした結果、8月5、6日に掲載されることになったことが明らかにされた。

また、その内容については、検証チームの紙面案が合計8ページから4ページになり、「吉田証言」についても「虚偽と判断して取り消すこととするが謝罪はしない」ことになった経緯が明らかにされており、木村前社長ら経営幹部が最終的に「謝罪しない」という判断をしたことに対して「誤りであった」と指摘。「(検証記事の)内容は読者向けではなく、朝日を攻撃する他の新聞社や、雑誌、週刊誌、インターネットの論調向けに自社の立場を弁護する業界内向きのもの」だったとした。

さらに、池上彰氏のコラム不掲載問題については、原稿に目を通した木村前社長が難色を示したことから、「このままでは掲載できない」と判断。池上氏に「おわびがないという部分を押さえたものに書きなおしてもらえないかなどと依頼」、池上氏は「根幹に関わる部分は修正できない」としたことから、掲載が見送りに至ったという経緯が検証され、"杉浦編集担当によるものだった"とする不掲載の判断は、実質的には木村前社長によるものだったと指摘、紙面で読者に対する説明についても、「(池上氏との)協議内容をあまり有利に解釈したもの」とした。

これまでの会見でも質問が出ていた、"報道が国際社会に与えた影響"については、「韓国における慰安婦問題に対する過激な言説を、朝日新聞その他の日本のメディアはいわばエンドース(裏書き)してきた。その中で指導的な位置にあったのが朝日新聞である。」(岡本、北岡委員)、「朝日は、慰安婦問題の本質は女性の人権や尊厳の問題だと、しばしば説くが、現実的な解決策や選択肢を示せないまま、「本質論」に逃げ込むような印象を与えることは否めない。」(波多野委員)と指摘。

海外メディアが引用した記事に関する定量的分析を行った林委員は、「朝日新聞の報道が国際社会に与えた影響は限定的であったと認定した。しかし、そのことは、本報告書が他所で指摘している同社の経営陣の判断の誤り、および報道プロセスの数々の問題点そのもののインパクトを減ずるものではない。」と述べている。また、林委員は欧米では「女性の人権」の観点からの報道が多かったことにも触れ、朝日新聞社内だけでなく、第三者委員でも「女性の人権」の観点からの議論や検証が不十分だったのではないかとの認識を示した。

第三者委員会による今回の報告書は、朝日新聞の経営組織や取材現場に残る課題を指摘しつつ、「複雑で学界などでも多くの異論が見られる問題については、今回見られたような、その都度一面的、個人的人間関係に基づく情報のみに依拠するような取材体制のあり方を再考してほしい。」と提言。

一方で「記者たちは、言論の行使に際して萎縮することなく、そして、その社会的責任を十分自覚し、日本の健全なジャーナリズム活動を推進する原動力となっていってほしい。」としたほか、「社員および販売店が悪質な脅迫や嫌がらせを受け、非常に苦しい立場に立たされていることを改めて認識」、「言論機関に対する攻撃に強い危惧を抱くとともに、こうした卑劣な行為が日本の民主主義の破壊をもたらす危険性のあることを改めて指摘しておきたい。」と結んでいる。

今回の報告書を受けての朝日新聞社の見解については、26日に渡辺社長が会見を行うとしている。

提出後の記者会見では、池上氏のコラム不掲載をめぐるやりとりについて、木村前社長の会見での発言と第三者委員会の検証結果に食い違いも見られたことについての質問もあったが、その要因について中込委員長は「両者の思い込み」だと述べた。

また北岡委員からは「権力監視はジャーナリズムの重要な役割」としながらも「政府批判だけでは困る」との指摘もあり、朝日新聞の“政府批判ありき”の姿勢が今回のような結果を招いたのではないかとした。さらに北岡委員は「(ここまで検証しようとしたのは)立派なものだと思う」とも述べた。

なお、会見終了後には、朝日新聞の高田取締役による会見が急遽行われ、杉浦前取締役らの追加の処分が発表された。

・【速報】朝日新聞、第三者委の報告書を受け新たな処分ー池上コラム不掲載問題で

第三者委員会の報告書を受けての朝日新聞・渡辺社長コメント

12月22日
朝日新聞社代表取締役社長
渡辺雅隆


中込委員長をはじめ、第三者委員会の委員のみなさまには、当社の慰安婦報道について徹底した検証をもとに、詳細な報告書をご提出いただき、大変感謝いたします。

慰安婦をめぐる一連の報道では、みなさまにご迷惑とご心配をおかけし、あらためて深くおわび申し上げます。

報告書の内容を真摯に受け止め、改めるべき点は誠実に実行していきます。朝日新聞社を根底からつくりかえる覚悟で改革を進めることを約束いたします。

第三者委員会の記者会見終了後、社長としてのコメントなどを発表いたします。少し時間をかけて検討しなければいけない課題もあるかと思いますので、当社としての見解をまとめたうえで、26日に私が経験して説明いたします。よろしくお願いいたします。

以上

■記者会見の様子(ニコニコ生放送)

・朝日新聞 慰安婦報道に関する第三者委員会 記者会見

■第三者委員会による報告書

・報告書
・報告書 (要約版)
・掲載された当時の新聞紙面
・データから見る「慰安婦」問題の国際報道状況(林委員)

■第三者委員会メンバー

役職 氏名 肩書 WEB 委員長 中込秀樹 弁護士、元名古屋高裁長官 HP 委員 岡本行夫 外交評論家、元外務省・総理大臣補佐官 HP 北岡伸一 国際大学学長、政策研究大学院大学学長特別補佐・特別教授 HP 田原総一朗 ジャーナリスト HP 波多野澄雄 筑波大学名誉教授、内閣府アジア歴史資料センター長 HP 林香里 東京大学大学院情報学環教授 HP 保阪正康 作家 HP

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