いい上司とダメな上司はどこが違うのか。『本当に大切なことに集中するための 頭の“よはく“のつくり方』(日本実業出版社)を書いたコンサルタントの鈴木進介さんは「ダメな上司ほど、自分の価値観を無意識に押しつけ、部下を追い詰める。『一般的に』『若い世代は』『普通は』という言葉には要注意だ」という――。
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■ダメな上司が無意識に使う「部下を追い詰める言葉」

「部下の○○がいつもミスばかり。何回言ったら直るのか分からない!」と不機嫌なクライアントさんから、部下の悩みを相談されることがよくあります。

「他の人はできているし、自分だったらそんなミスは絶対にしないのに、あいつは性格が曲がっている」と。“そんなの当然でしょ”と言わんばかりに、ミスした本人にもそのままのトーンで伝えたといいますから、驚きです。

この例に限らず、上司が部下を追い詰める言葉を発している光景は様々な職場でよく目にします。

春ともなると新入社員と社内で話す機会も多くなることでしょう。入社直後から会社に嫌気が差してしまわないよう、言葉づかいや振る舞いにはいつも以上に気を使わないといけません。

■「一般的に、会議中にスマホを触るのはどうかと思うよ」

以前、配属されて間もない新入社員を含む7名ほどのプロジェクト会議に同席したときのことです。会議を進行する上司であるSさんが新入社員の1人に向かって、「キミは会議中にスマホを触っているけど話を聞いてる? 一般的に、会議中にスマホを触っているのはどうかと思うよ」と。

「キミに限らず、最近の若い世代はスマホが好きなのは分かるけど。新入社員なら普通は、まずノートにメモをとるところから始めるものなのじゃないかな?」と、イライラしながら話していました。会議に出ていた新入社員が、どういう理由でスマホを触っていたかも確認せずに言い放ったのです。

この会話を聞いてあなたならどう感じますか?

後で新入社員に聞いてみると、その場で分からないことを調べ、大切なことはスマホでメモをとり、その後の書類作成に活用するために整理するつもりだった、とのこと。

この会社ではスマホが全員に支給され、3年目の若手社員も会議中にスマホを操作しながら仕事を進めているため、自分もそのスタイルが良いと判断したというのです。会議中に私物のスマホで遊んでいたわけではないのに、なぜ自分だけがいけないのだろうか? と、少し納得がいかないままへこんでいる様子でした。

このやり取りを振り返ると、いくつかの問題点が見えてきます。

■人間関係をこじらせる「無意識の思い込み」

短い会話の中でも、「一般的に」「若い世代は」「普通は」など、上司が自分の価値観を押しつけ、相手を追い詰めるリスクのある言葉が登場します。しかも言葉を発した上司は、それがまさか相手を追い詰める言葉になるとは、思っていません。なぜなら、自分の価値感が“一般的”で、“自分の世代”から見ると“普通”だと思い込んでいるから気づかないのです。

「一般的に」といっても、何を指して一般的とするかは人によって解釈が異なります。「若い世代」といっても、ひとくくりにはできず実際は人それぞれです。「普通は」という言葉は“自分の価値感の中で”に置き換えられるだけで、本当に全員を標準にしているかは別問題です。

このように、無意識のうちに偏った思考に基づく言葉や行動のことを「アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)」と呼びます。

他にも「平均的には○○」「みんな○○」など知らず知らずのうちに発してしまっていることはないでしょうか?

一度、思い込んでしまうと頭の中はバイアスでいっぱいになり、他の見方や解釈ができないまま、怒りとともに他人を攻撃してしまうリスクもあります。いじめ、夫婦喧嘩、各種ハラスメント、風通しの悪い組織風土、これらの原因の一端はアンコンシャス・バイアスにあるといっても過言ではありません。

■いい上司は「ヒトを責めずにコトを改める」

アンコンシャス・バイアスにとらわれた言葉で、相手の状況や意図を確認せず人を責めてしまうことは、特に社会経験が少ない新入社員を追い詰めることにつながりかねないので細心の注意が必要です。

そこで、根本的に物の見方を逆転させてほしいのです。

「ヒトを責めずにコトを改める」ことです。ヒトに着目してしまうと、アンコンシャス・バイアスにとらわれたまま感情が入るため、頭の中でマイナスの気持ちが膨れ上がることもあるでしょう。ところが、ヒトそのものではなく、起きた「コト」に着目すると理性が働き現実だけを見やすくなるのです。

「ヒト」に着目すると感情的に、「コト」に着目すると理性的にものごとを判断できる。

これが私の持論です。ヒトとコトへの着目の仕方を切り替えるだけで、ヒートアップするあなたの頭は余裕を取り戻すことができるでしょう。

■部下が大きな発注ミスをしたらどう反応するか

ここで一つ問題を出しますので考えてみてください。

もしもあなたが上司なら、次のケースでどのように指導しますか? 部下がいない場合でも、あなたの下に新入社員が配属されてきた想定でお考えください。

新入社員のAさんは商品の手配で発注のうっかりミスで誤入力をしてしまいました。実際の注文よりゼロが一桁多くなるミス。気づいたAさんは、直属の上司に相談したいのに出張で不在。隣の部署のベテラン社員に声をかけますが、クレーム対応の電話中で相談できず。そのまま別の発注がかかり、報告が遅れ多くの人に迷惑をかける事態になりました。

さて、この状況であなたならどのように反応しますか? 「普通は桁を間違えるミスはしないよね」と怒りますか? それとも、「雑な性格だね、一般的にはもっと確認作業をするでしょう」と、性格面まで踏み込んで冷めた口調で反応しますか?

■「コト」に着目すると具体的な有効手段をとれる

この事例の場合、大きなミスなので上司の立場なら一瞬、頭が熱くなることがあるかもしれませんね。

ただ、Aさんを責めたところで問題が解決するか、失敗を繰り返さないようにできるかといえばそんなことはありません。ましてや新入社員の場合は、失敗することを前提にサポートをする必要があります。

鈴木進介『頭の“よはく”のつくり方』(日本実業出版社)

起きた「コト」を充分に吟味し、原因から解決策まで冷静に道筋を考えない限り、また同じ失敗をいつか繰り返すことになるでしょう。

ヒトに注目した場合、今さら変えることができない性格や気持ちのようなあいまいなことを責めてしまいます。

逆にコトに着目した場合、怒りで頭に余裕をなくすことなく、たとえばミスの予防策と教育に原因があるなら、マニュアル制作と研修という具体的な有効手段をとれるようになるでしょう。

このようにネガティブな状況に陥ったら、「コト」に着目して寄り添いながら冷静に対処しましょう。逆に、ポジティブな場面では、「ヒト」に焦点を当てて、愛情や励ましなどの気持ちを込めて、新入社員に対応するスタンスが求められます。

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鈴木 進介(すずき・しんすけ)
コンサルタント
1974年生まれ。株式会社コンパス代表取締役。現在は「思考の整理術」を使った独自の手法で人材育成トレーナーおよびコンサルタントとして活動中。大学卒業後、IT系企業や商社を経て25歳で起業。著書に『1分で仕事を片づける技術』(あさ出版)など多数。HP:http://www.suzukishinsuke.com/
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(コンサルタント 鈴木 進介)