なぜ20歳未満は酒を飲んではいけないのか。専門家は「脳の成長が終わっていない時期に飲酒すると、記憶力が低下する可能性がある。飲み始めた年齢が早いほど、アルコール依存症になるリスクもあり、未成年にとっては害が多い」という。「酒ジャーナリスト」を名乗る葉石かおりさんの『名医が教える飲酒の科学』(日経BP)より、一部を紹介する――。
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■法律で「お酒は20歳から」と決まっているが…

「あなたはいくつからお酒を飲み始めましたか?」

普通なら「20歳です」と答えるのが当たり前なのだが、私の周囲の酒好きは、そう答えない人がほとんどである。つわものになると「小学校に登校する前、コップ酒を飲んでから出かけた」「高校時代からスナックにボトルキープをしていた」なんていう人も。

私は、今だから正直に打ち明けると、やはり高校時代から友人宅に集まり、サワーやビールを飲んでいた。高校の卒業式の後は制服のまま歌舞伎町の居酒屋で「打ち上げ」をしていた。当時の周囲の大人も寛容だったので補導されることもなかった。大学時代は、18歳、19歳の未成年であっても、サークルの新入生歓迎コンパや合宿で飲むのは当たり前。同期の男子は「イッキ(一気飲み)」も普通で、救急車のお世話になっていた人も珍しくなかった。

法律では「お酒は20歳から」だが、当時の私たちにとって「高校卒業したら大人でしょ」という思い込みがあり、勝手に飲酒年齢を18歳に設定していたのだ。もちろん、大学や各々のサークルなどによっても温度差はあると思うが、私たちが学生の頃は、こういったことがごく普通のことだったと記憶している。これらは、もう時効なので書けることだが、SNS主流の今だったら大事件である。

■成人年齢が18歳に引き下げられても、飲酒はダメ

そんな酒に寛容な時代を過ごしてきた私だが、この年になると自分の悪事も棚に上げ、「日本の将来を担う未成年に酒を飲ませるなんて!」と思うようになった。一気飲みなどによる急性アルコール中毒で若者が死亡する事故は、現在も毎年のように起こっている。こういったニュースを見ると、胸が痛くなる。私は酒関連の仕事をしているだけに、お酒が原因で人が亡くなるのは悲しい。お酒は楽しんでこそ、である。

誰もがご存じのように、未成年の飲酒は法律で禁じられている。今から100年近く前の1922年(大正11年)に「未成年者飲酒禁止法」という立派な法律が定められている。「法律だからきちんと守りましょう」ということになるが、中には「なぜ20歳なの?」と思う人もいるのではないかと思う。世界の酒事情に詳しい人なら、ヨーロッパなどでは16歳から飲める国があることをご存じかもしれない。「法律は20歳でも、実際問題18歳くらいになったらいいのでは?」などと思っている人も少なくないだろう。

一方で、民法が改正され、成人年齢が20歳から18歳に引き下げられた。しかし、飲酒(喫煙も)は20歳以上というのは変わらない。

なぜダメなのか、といわれれば「体に悪影響を及ぼす」ということになるが、正直なところ、どのくらい害になるのかをきちんと説明できる人は多くはないだろう。ここは、20歳未満の人が飲酒することで体にどのような弊害があるのかをきちんと確認しておかねばなるまい。そこで、未成年に対するアルコールの害や未成年の飲酒事情に詳しい久里浜医療センター院長の樋口進さんに話を聞いた。

■10代で大量飲酒すると脳の容積が小さくなる

先生、20歳未満の人がアルコールを飲むことで、どんな弊害があるのでしょうか。

「20歳未満の人の飲酒にはさまざまな弊害があります。特に脳に対する影響が最も研究されています。具体的には、アルコールによる脳の神経細胞の障害作用は、20歳未満のほうが大きいのです。記憶に関わる海馬に対するダメージは大きく、これによって記憶機能が低下する可能性があります」と樋口さんは話す。

「大量飲酒をした場合、まったく飲まない20歳未満と比較して、海馬の容積が明らかに小さいことも分かっています(*1)。これはアルコールによって海馬の神経細胞が死に、容積が小さくなったということです」(樋口さん)

出所=葉石かおり『名医が教える飲酒の科学』

樋口さんによると、大人の脳が完成するのは20歳前後なのだという。

「人間の脳は生後6歳までに大人の大きさの90〜95%になります。脳内の細胞の成長のピークは男子が11歳、女子が12歳半ですが、20歳前後まで成長が続き、その後、成熟した脳へと変化していきます」(樋口さん)

■未成年は急性アルコール中毒のリスクも高まる

なるほど、脳は20歳前後まで成長を続ける、だからこそ、20歳までの飲酒の影響は大きいのだ。若気の至りとはいえ、私は脳の成長が終わっていない時期に酒を飲んでいたのかと冷や汗が出るとともに、いくばくかの後悔が……。自分の記憶力のなさを年齢のせいにしていたが、もしかしたら未成年飲酒が関係しているのかも、と不安になる。

さらに樋口さんは、未成年の飲酒は、血中アルコール濃度が上がりやすく、急性アルコール中毒のリスクが高まると警告する。

「20歳未満の人間に飲酒させることはできないため、人間を対象にしたデータはありませんが、動物を対象にした研究が多数あります。

20歳未満に相当するラットと20歳以上に相当するラットに同量のアルコールを投与して比較した研究では、20歳未満のラットは20歳以上のラットより、血中アルコール濃度、脳内アルコール濃度が高くなり、アルコールの分解速度が遅いという結果になりました。人間においても同様の傾向になると推測されます(*2)」(樋口さん)

また一般的に「飲酒経験がないほど、脳が敏感に反応し、酔いの程度が強くなる」と樋口さん。自分の適量すら分からない若者は、酒のやめどきを知らない。急性アルコール中毒になるリスクは大いにある。

■男子はインポテンツ、女子は月経不順のリスク

つまり、アルコールに関しては、「若いときに覚えておいたほうがいい」というわけではないのだ。お恥ずかしい話だが、「年齢が若い=新陳代謝が良い=アルコール分解能力がある」と思っていたが、20歳未満にはそのまま当てはめてはいけない。

体への影響はまだある。「20歳未満の飲酒は、性ホルモンのバランスにも影響します。未成年のうちに飲酒を続けると、男子ではインポテンツ、女子では月経の周期が乱れたりするリスクが高まります。また骨の発育が遅れるという報告もあります」(樋口さん)

かつてはお盆や正月に人が多く集まると、酔って子どもに酒を勧める親類がひとりはいたものだ。こうした話を聞くにつけ、子どもに酒を勧めたり、ヘタに興味をあおったりするのは改めて危険だと思う。

■飲み始めが早いほどアルコール依存症になりやすい

日本では、民法が改正され、成人になる年齢が20歳から18歳へと引き下げられた。にもかかわらず、飲酒は20歳以降のままだ。つまり、それだけ20歳未満の飲酒の害が大きいからなのだが、樋口さんに聞いた話のなかで私が最も印象に残ったのは、「酒を飲み始める年齢が低いほど、早いうちにアルコール依存症になってしまう傾向がある」ということだ。

「疫学調査から、飲酒開始年齢が低いほど、成人になってから大量飲酒になりやすく、さらには短期間でアルコール依存症になりやすいことが分かっています。アメリカの4万2862人を対象とした調査では、飲酒開始年齢が低いほど、アルコール依存症の生涯有病率が高くなる傾向があるという結果が出ています(*3)」(樋口さん)

出所=葉石かおり『名医が教える飲酒の科学』

中学生の頃、冠婚葬祭時になると、酔っぱらった親戚のおじさんたちが「お前も飲むか?」と普通にビールを勧めてきた。だが、そうやって未成年のうちから飲酒の習慣がついてしまったら、将来依存症になってしまうリスクが高まるのだ。だから、そうやって未成年に酒を勧めるのは絶対にやめなくてはならない。

樋口さんによると、20歳未満の飲酒は心や行動にも大きく影響するという。

■お酒の失敗で人生が台無しになることも

「20歳未満の飲酒は社会的逸脱行為を招きやすいことも知られています。未成年は成人に比べ、飲酒による行動抑制がききにくいのです。代表的なものが飲酒運転です。また、性的な問題行動に発展しやすいことも指摘されています」(樋口さん)

大学時代を思い出すと、確かに20歳未満で飲酒をした同級生はテンションマックスとなり、暴力行為を起こして警察のお世話になっていたっけ。「若さゆえの過ち」と笑えるうちはいいが、飲酒運転で事故などを起こしては、被害者の人生を破壊してしまうのはもちろん、若くして本人の人生も台無しになってしまう。

ところで、日本での飲酒可能年齢は20歳以上だが、実はこの年齢は国によって異なっているのをご存じだろうか。

各国の飲酒可能年齢を見てみると、ヨーロッパでは比較的低く、16歳から飲酒が認められている国もある(*4)。ドイツはビール、ワインなら16歳から許可されている。ちょっと早いような気もするが、これはお国柄というものだろう。そして、アメリカは21歳となっている。

出所=葉石かおり『名医が教える飲酒の科学』

■アメリカは飲酒可能年齢を21歳に引き上げ

アメリカでは、一度飲酒可能年齢を18歳に引き下げたのだが、その後、21歳に戻している。

「アメリカでは、1970〜75年にかけて29の州で飲酒可能年齢を引き下げました。引き下げの幅は州によって異なりますが、最も多かったのが21歳から18歳への引き下げです。しかし、この引き下げによって、年少者の飲酒運転による事故数や死亡者数が増加したという報告が多くあり、年少者の飲酒量が増えたという報告もありました。

この結果を受け、アメリカでは、1970年代後半から1980年代初めにかけて、多くの州で飲酒可能年齢を21歳に戻したのです」(樋口さん)

飲酒可能年齢引き上げにより、これらの州で飲酒関連事故数の減少が報告された。「そして、1984年には当時のレーガン政権が、飲酒可能年齢引き上げに抵抗する州の高速道路補助金の一部をカットする法律を制定したため、1988年までにすべての州で飲酒可能年齢が21歳に引き上げられました」(樋口さん)

■90年代と比べて未成年の飲酒は大きく減少

私が高校生の頃は、未成年でも酒を飲むことがそれほど珍しくなかった。しかし最近は、若者が酒を飲まなくなっているという話も耳にする。先生、どうなのでしょうか?

「中高生の飲酒経験などを調査した結果によると、未成年の飲酒は減少傾向にあります(*5)。例えば、1996年と2014年の中学生男子を比較してみると、飲酒経験は73.5%から25.4%と約3分の1に減っています。中学生女子、高校生男女も同様の傾向にあります」(樋口さん)

社会全体の啓蒙(けいもう)活動の成果か、未成年の飲酒そのものは減っているようだ。しかし「減っている」というだけで、「完全になくなった」わけではない。

「昨今はアルコール全体の消費量が落ちているのと、スマホやゲームなどレジャーの多様化の影響もあり、未成年飲酒はかなり少なくなりました。コンビニで年齢確認が必須になるなど、入手しにくくなっていることも影響していると考えられます。しかし家にアルコールが置いてあることで手を出してしまう未成年も少なくありません。先ほどの調査結果を見ると未成年の酒の入手経路は自宅がトップになっています」(樋口さん)

■「適量」を知らない若い人は特に要注意

20歳になった大学生や新社会人は、飲み会などを通じて慣れない酒を飲むことになる。

樋口さんは酒に慣れていない若い世代の飲み方について、こう注意喚起する。

葉石かおり『名医が教える飲酒の科学』(日経BP)

「お酒に慣れていない若い世代は、自分の『適量』を知りません。そのため、いつのまにか適量を超えて飲んでしまうことも多い。またお酒に慣れていないため、アルコールの反応が高く出やすく、酔いやすい傾向にあります」(樋口さん)

飲む際の鉄則は、アルコール度数の低い酒を時間をかけて飲むこと、そして食事を食べながら飲むこと、そして水分もとること、だという。

「そして、一気飲みは危険です! 周りも勧めないことが大切です」(樋口さん)

若い世代と飲みたいという気持ちは分からなくはないが、ともするとそれはアルハラ(アルコールハラスメント)にもなりかねない。将来のある若い世代に酒の無理強いは禁物だ。

*1 “Hippocampal volume in adolescent-onset alcohol use disorders” M D De Bellis, D B Clark, S R Beers, P H Soloff, A M Boring, J Hall, A Kersh, M S Keshavan. Am J Psychiatry.2000;157(5):737-744.
*2 “Developmental changes in alcohol pharmacokinetics in rats” S J Kelly, D J Bonthius, J R West. Alcohol Clin Exp Res. 1987;11(3):281-286.
*3 “The impact of a family history of alcoholism on the relationship between age at onset of alcohol use and DSM-IV alcohol dependence: results from the National Longitudinal Alcohol Epidemiologic Survey” B F Grant. Alcohol Health Res World. 1998;22(2):144-147.
*4 WHO “Global status report on alcohol and health 2018”
*5 厚生労働科学研究「未成年者の喫煙・飲酒状況に関する実態調査研究」

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葉石 かおり(はいし・かおり)
酒ジャーナリスト・エッセイスト
1966年、東京都生まれ。日本大学文理学部独文学科卒業。全国の清酒蔵、本格焼酎・泡盛蔵を巡り、各メディアにコラム、コメントを寄せる。「酒と料理のペアリング」を核にした講演、セミナー活動、酒肴のレシピ提案を行う。2015年、一般社団法人ジャパン・サケ・アソシエーションを柴田屋ホールディングスとともに設立し、国内外で日本酒の伝道師・SAKE EXPERTの育成を行う。著書に『酒好き医師が教える最高の飲み方』(日経BP)、『日本酒のおいしさのヒミツがよくわかる本』(シンコーミュージック)、『死んでも女性ホルモン減らさない!』(KADOKAWA)など多数。
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(酒ジャーナリスト・エッセイスト 葉石 かおり)