プロ野球2022開幕特集

 巨人・中田翔の勢いが止まらない。昨季は自身のトラブルに端を発した放出劇や、巨人移籍後も低打率にあえぐ大不振とファンを裏切る1年だった。だが、プロ15年目となる今季は春先から絶好調。対外試合での連続試合安打は9でストップしたものの、依然として高打率をキープ。3月12日のオリックスとのオープン戦では、昨年のパ・リーグ新人王の宮城大弥から特大の一発をバックスクリーンに叩き込んだ。

 中田の勢いは本物なのか。そこでプロ野球界で50年間もユニホームを着続け、名打撃コーチとして名を馳せた内田順三氏に話を聞いた。広島では鈴木誠也、巨人では岡本和真らの育成に携わった名伯楽は、中田の好調の要因をどのように分析するのか。


昨シーズン途中に日本ハムから巨人に移籍してきた中田翔

体重20キロ増の影響は?

── 内田さんの目には、今の中田の姿はどのように映っていますか?

「まず、メンタル的な要因がすごく大きいと感じます。去年はいろいろあって日本ハムから巨人に入りましたが、『頑張ろう』という思いが出すぎて、平常心で打席に入れていなかったのでしょう。今年はそんな気負いが見られません」

── 昨年は余計な力みがあったということですね。

「バッティングで一番悪いのは、『なんとかしないと』と焦るあまり力感を強くして引っ張りにかかること。芯に当たれば遠くには飛ぶのだけど、確実性は落ちる。150メートル飛んだからといって、ホームラン2本分になるわけではないですから」

── 今年はそんな力みがないと。

「昨年より構え姿から背筋が伸びて、力感なく自然体で立てていますよね。ゆったりと下半身主導で間合いがとれて、上体の力みが感じられません。元来、レフトへ引っ張るだけでなくセンターから逆方向に打つ力を持っている選手ですから、状態が戻ったと言えるでしょう」

── 昨年の中田を見て、技術的に気になる部分はありましたか?

「左足のつま先が浮いた状態でスイングしていたのが気になっていました。つま先が浮くということは、体が早めに開いて上体の力だけであおって打っている証拠。この打ち方だと速い球には差し込まれ、『ポイントをもっと前にしよう』と意識するから外角に逃げていく変化球にバットが止まらない。芯でとらえる確率は落ち、感覚が狂ってしまいます」

── 今年はいかがですか?

「今年はつま先が浮くことなく、地面に足をつけて打てています。だからアウトコースの球もしっかり対応できていますね」

── オフの期間に体重を20キロ増やしたという報道もありました。

「昨年なぜ体重が減ったのか詳しい経緯はわかりませんが、体重を減らしてパワーがなくなったら元も子もありません。ケガの原因にならない程度に、体を大きくすることは大事だと思います。それとこれは私の経験則ですが、ぽっちゃり型の打者を『キレを出すため』と痩せさせても大成した例は少ないです」

キヨに似ている

── 内田さんは巨人コーチ時代に猜疑心の塊だった清原和博さんの心を解きほぐし、信頼を得たこともありました。中田との共通点は感じますか?

「うん、キヨに似ていると思います。巨人に来た経緯は違うけど、体型的に似ているし、センターからライト方向を意識することで復活した点も同じです」

── 今季の中田は相当に期待できそうですね。

「コメントを聞いていても、強い覚悟を感じます。もともと勝負強くて、打点王を3回も獲った選手ですから。今まで広い札幌ドームを本拠地にしていたので、本塁打数は東京ドームと比べて年間10本近く損をしていたかもしれない」

── 今季はどのような起用が予想されますか?

「年間通して5、6番あたりに定着できたら楽しみですね。新外国人の(グレゴリー・)ポランコも映像を見る限り、すごく実力を感じます。オープン戦では丸(佳浩)を1番打者で試していましたけど、出塁率の高い丸が1番で使えたら面白い。あとは松原(聖弥)のような足の速い選手が、いかに小技や走塁で打者をアシストできるか。たとえば、ランナーが塁上でバッテリーにプレッシャーをかけて、緩いボールを投げさせないようにする。そうすれば、打者は速球狙いでラクに打てますから」

── 最後に中田にアドバイスを送るとしたら、どんな言葉でしょうか?

「今までどおり、バックスクリーンに放り込む感覚でやってくれれば大丈夫です。フェアゾーンは90度の角度がありますけど、左中間から右中間までの45度に飛ばす感覚で打つとちょうどいいでしょう。首脳陣が中田を『信用』ではなく、『信頼』して1年間使えたら、相当な結果を残すはずです」